【3075】うつ病受療歴7年半、最近頻発するようになった「病的な怒り」に困憊しています

Q: いつも「精神科Q&A」を拝見しております、47歳男性です。私の症状についてご見解をお聴かせいただきたくお便りさせていただきました、よろしくお願いします。

私がうつ病の診断を受けたのは、X年の6月でした。
その4年ほど前から約1年半にわたり、実家と交友関係で同時にトラブルに巻き込まれ、物事への興味が突然消失する感覚、記憶の思い出しが原因と思われる病的な怒りや泣き出し、食事が苦痛なほどの疲れに苦しんでいました。
この時期には周りからも不安定が顕著だったらしく、複数の友人から精神科の受診を提案されました。
しかし私は、姉がうつ病(後に双極性障害と診断)で借金の肩代わりや転居を含む生活保護受給までの手続きをすべて背負っていたので、自分に精神疾患の診断が下される事が「終わり(死の宣告)」のように恐ろしく、経済的な不安もあって、精神科の受診はせず、うつ病の治験を探すなどしていました。

その後にトラブルもそれぞれに収束し、ストレス源がなくなり私の精神状態も改善してきて、上記のX年の初めにはトラブルの一連を妻と笑い話にできるほどの安心を取り戻していました。

しかし、同年の4月のある日に突然すぎるほどの意欲と自身の消失に襲われました。
通勤で歩いていた時に、いきなり「あ、歩けないや」と思いました。精神的に、腿から下が突然失われたような感覚でした。それからの現実の生活が虚ろにしか感じられず、意欲も自信も失った自分への評価が急落し、妻や職場・友人に対する申し訳なさで頭が埋め尽くされるようになりました。
無理をしてでも社交的に振る舞い、リーダーシップにもある程度の自信を持っていた私は思い当たるストレスもない状況でさすがにこれはおかしいと思い、意を決して心療内科を受診したのが前述の6月でした。

初診の時点で薬を処方され治療が始まったのですが、だらしない私は幾度となくお薬手帳を紛失したため、下記の処方も途中までは記憶頼りですがお許しください。

初診時〜3,4ヶ月 ルボックス・ベタマック各25mg 朝と夕
意欲改善せず、不眠兆候 ルボックス・ベタマック各50mg 朝と夕/入眠時 デパス0.5(1年程度)
改善の自覚なし、不安症状 ルボックス・ベタマック各50mg(2月後に+タスモリン1mg) 朝昼夕/入眠時 グッドミン0.25mg(約3月後に+ロラメット1.0mg)/頓服 メデポリン5mg

X+3年4月 不安・緊張が強くなり職場で過換気も複数回起こしたため病気休暇を経て休業、処方は変わらず。
X+3年12月 回復傾向から復職支援プログラム開始(カウンセリングを含む)
X+4年10月 復職、入眠時がマイスリー5mg+グッドミン0.25に(その後2月ほどでグッドミンから変わりましたが、変更後の薬を思い出せません)

復職したものの、年内中を希望していた勤務軽減措置を上司に押し切られ12月からフルタイム+早期出社と残業が毎日続いた事、私のミスが思いのほか多くチームの雰囲気を悪化させ孤立し、先輩からの苛烈な非難から体調が急激に後退しました(注意力低下、意欲の急峻な減退、対人恐怖、不安と緊張、起床時の発熱と身体のだるさ、急激な疲労感や過換気など)。
年が明けて孤立は深まり、申し訳なさからかパニック様に陥ったり嘔吐・呼吸困難が続き、堪えきれずにX+5年の3月から再度休職に入りました。
早期の復職を目指しすぐに復職支援プログラムにも参加したのですが、にわかにその部屋にいる事にもカウンセラーに対しても恐怖感と強いストレスを感じてしまうようになり、4月から12月までは自宅での療養に専念しました。

X+5年12月 ルボックス50×朝昼夕、スルピリド50+タスモリン1×朝夕/入眠時 マイスリー5+ベンザリン5.5

X+6年4月 ルボックス50×朝昼夕、スルピリド50+タスモリン1×朝夕/入眠時 マイスリー5+ルネスタ1/頓服(保険に)メデポリン5mg

改善を自覚できず、主治医と相談して8月に任意入院しました(3週間)。この期間で精神的にもかなり改善が見られ、結果的に大きな減薬がなされました。
X+6年8.月 ルボックス50×朝昼夕/入眠時 ルネスタ1+リフレックス15の半錠、マイスリー5を復活
X+6年9月 不安・緊張があり相談→頓服としてメデポリン5mgも復活
X+6年12月 中途覚醒の増加でリフレックスを15mg1錠に増加、不安と緊張の持続性が強いため頓服をセレナミン2mgに変更

X+7年1月 中途覚醒の改善なし リフレックスを15mg×1.5錠に増量
X+7年3月 中途覚醒の悪化と過食傾向(急激な体重増加を伴う)を相談して、入眠時をリフレックス15+マイスリー5+グッドミン0.25+レボトミン5mgに変更、不安の増大から頓服にもレボトミン5mgを追加(処方箋上は頓服薬として計上)
X+7年4月 レボトミンが強過ぎて翌日の行動困難によりレボトミンを中止、入眠時はリフレックス15+マイスリー5+グッドミン0.25×2に変更。その後、不安と不眠が悪化 入眠と頓服にレボトミン各5を復活
X+7年6月 レボトミン服用後の身体的負担が強いためレボトミンを停止(他は変更なし)
X+7年7月 中途覚醒の改善に向け 入眠時処方を変更:リフレックス15+マイスリー5+ベルソムラ20、頓服のセレナミンを停止。
X+7年8月 ベルソムラ服用後のしんどさを訴えると処方停止、また春頃から訴えていた後述の怒り(攻撃性)を初めて処方に勘案していただき減薬のはじめとしてルボックス朝50昼50夕50を朝50昼25夕50に変更。その後、手持ちの残薬がなくなるも強い緊張と怒りが頻発するため、頓服としてセレナミン2mgとメデポリン5mg各2錠/日を処方。症状の持続性や即効性の必要を自己判断して選択的な服用を指示される。

という事で、一時入院を挟むもルボックスを主剤として処方を受けております。

体重は初診前から減少し始め3ヶ月ほどで14kg程度、1年ほどで最大19kg落ちました。その後ゆるやかに回復しましたが、リフレックス処方開始頃から具体的に増え始め、昨年夏以降で15kg以上増加しており、これは発症前の健康時よりも10kgほど重く自己最大値です。
血圧は元々80/120くらいが復職支援通所開始頃が60後半/100後半、太った現在で78~90/115-140くらいです。休職前の健康診断で脂質異常症(高脂血症)の所見を受け、血液検査の数値はほぼそのまま推移しています。

受療を開始してもう7年を過ぎましたが、寛解に近い感覚もあったものの、現在は意欲の減退において最も重い状態と感じています。いま自覚している症状は次の通りです。

1 興味の消失…もともと気まぐれで今でも「毎日24時間常に」とは限りませんが、世のほぼすべての事に関心や興味を持たなくなりました。たまに気になる物もありますが、その時に知れないならあとで調べようなどは思いません。30年以上愛聴してきたクラシック音楽さえ易刺激性のためにほぼ聴きたくないですし、長らく所属しているアマチュアオーケストラでの楽器演奏も多くの場合義務でしかなく強い苦痛です。(付き合いで友人の演奏会に赴く時などは必死に「モード」を作っていきます)

2 虚ろな気分…自分の生活に密接に関わる事さえ、虚ろで現実味がありません。休職期間の終わり=実質解雇が近づく今、本来なら正に踏ん張り時なのでしょうがなす術がありません。

3 無価値感、全不能感…何も大切に思えません。自分が何をできる気もしません。私はしばしば他者に優しく、音楽の指導など感謝されてもいい事をいくつかでもやってきた筈ですが、自分がやってきたすべての事、今から自分がするかも知れないいかなる事も価値などないと思います。辛い過去、恥ずべき失敗しか思い出せません。不快と迷惑をまき散らすだけの存在なので、死ぬか消失したいです。

4 悲しい、やるせない…しばしば支配されます。誰に対しても申し訳なく、自分が情けないです。ほとんどのニュースに悲しみとやるせなさしか感じません。防衛機制かなにかで能動的に悲しみたいのかもしれませんが、よく分かりません。

5 思考力・記憶力の減退…減退というより喪失でしょうか。自分の思考や思い出せる事に価値を感じられないので、考えが働かない事、何かが思い出せない事ばかりが自己評価の材料になります。

6 悪夢…最近とくによく見ます。昔の交友関係や職場が舞台の事が多いです。苦し過ぎて自ら中途覚醒している事もある気がします。その場合、大体は布団にいる事がもうイヤなので廊下で横になったりどこかに座り込んで寝なかったりします。

7 不眠…マイスリーさえきちんと飲めば、入眠で困る事はほとんどなくなりました。ただ中途覚醒・早期覚醒は頻発します。たしかに有効だったのはレボトミンとドラールでしたが、最短でも翌日の半分は社会人として機能しません。

8 懸念への固執…心配な事が予期される場合、そこから心の視線を逸らせません。いま考えてもしようがないのが明らかでも、意識を留保するのが極めて困難です。緊張してきて過換気を起こしたり、呼吸の停止や強い抑制を無意識に試みてしまいます。

9 食欲…初診の一週間前くらいから、何も食べたくなくなりました。塩分だけほしいので少量の出汁だけ飲んだり、体重減少のピーク時は口渇が強くマヨネーズを少量なめていました。リフレックス服用を始めてからは過食が激しく、嘔吐はできないものの明らかな食べ過ぎによる腹痛があっても摂食を止められませんでした。今はリフレックスの自己判断を指示され、平日はまず飲んでいません。たまにジャンクフードを貪りたくなる以外は、糊口を凌ぐようなペースです。

10 身体的だるさ…座ってすらいられない時が多いです。用事で立つ時間が長いと貧血に近くなります。動こうと思ったり、動かねばならない状況でも、その時の姿勢で数分〜数十分留まって動き出せない事もあります。

11 イライラ、焦燥、怒り…無根拠に苛立つ時があります。多くの場合に、自動的に昂じて怒りに達します。(これが今回の質問のポイントで、下に詳しくお書きします)

もうこれが自分の症状固定であって、このままなりの人生しか送れない事も覚悟するようになりました。

一方で、最近困っていてとりわけ先生にご相談したいのが「異常な怒り・腹立ち」と「無意識の緊張」です。

先に後者ですが、私は元々「緊張してないと安心できない」性質もあり、特に他人と接していると過剰にテンションを上げる傾向にあります(健康時でも帰宅後のスイッチオフが顕著でした)。
ところが、最近は(怒りの身体反応も含めて)気がつけば身体をひどく強張らせている事を知りました。
顕著は顎で、特にストレスと思っていない用事などを思い出しているだけでも歯をひどく強く噛み締めてしまい、最近それで上の歯を何箇所か欠けさせてしまいました。
私はアマチュアですがホルンを30年以上演奏しており、その教育や鍛錬から顎や唇周りの筋肉にはある程度自身があるのですが、それでも気がつけば痛みとだるさで白米を噛むのすら煩わしいくらいに力んでいるようです。また噛み締めに力を使う事から顔面や頭部の筋肉にも負担が大きいらしく、顔面や三叉神経まわり、頭部の広範囲で緊張性の痛みが頻発します(ネットで調べる限り三叉神経痛とは違うようで、実際に耳鼻科へ行っても三叉神経痛の所見は出ませんでした)。

「怒ると反射的に歯を噛み締めてしまい、それは歯や歯以外の健康にも良くない」という情報を幾度も聞いたので、イライラした時に噛み締めないように堪えていたのですが、逆に「噛まない」という強い力を掛けていたようで、顎関節周辺の痛みや発熱が具体的になってからは無理な我慢はやめました。いろんな負担がかかったせいか、私はいま自分の顎の定位置が分からなくなっています。本当に、気がつけば硬直してしまっています。

この緊張にも強く関係していると思われるのが「怒り(攻撃性)」です。
自分の体調にも依拠するのかもしれませんが、イライラしだすと螺旋にハマったようにどんどん昂じてゆき、何に対しても腹立ちが起こってその多くが自分でも病的に思われます。
「駅まで急ぎたいのに信号が赤」
「降雨で傘をさしている時に風が吹いて傘が重い」
「エレベーターを呼び出してもすぐに来ない(いつも使っていてそのペースも熟知しているエレベーターです)」
「肩にかけたカバンがずり落ちそうになる」
「猫が甘えたくて鳴き続ける」
こんな日常の些細な事でも、私は簡単に怒りの頂点に達してしまいます。町中でも大声で信号やエレベーターを罵り怒鳴り散らし、傘に怒っては折曲げて壊し、エレベータのボタンを壊してしまった事も猫に怒り過ぎて貧血様症状でへたり込んだ事もしょっちゅうです。道すがらの人間にでも怒鳴りつけたりし、自分でイライラを悪化させもします。
正直なところ、もし自分が工具や刃物を持っていたら突発的に簡単に傷害事件を犯しそうで恐ろしいです。
「あまりにも身勝手で独りよがりな犯行」のニュースを聞いても、考える事は被害者の心配ではなく「加害者の心情のどうしようもなさ」に向いてしまい、昔は想像もできなかった犯罪が悪い意味で理解できるようになってしまいました(共感までには至りません)。

アンガーコントロールなども調べて試すのですが、そのプロセスに掛かる時間でまた別の自分がキレだします。
主治医に相談すると「抗うつ薬の効果としての過敏や躁転の一種だろう」と仰るのですが、上記のとおり処方が頻繁に変えられている訳でもありません。服用開始から7年を超える薬の、他害性さえ危惧される強い副作用があり得るのでしょうか?
上記には記載しませんでしたが、一度だけエビリファイを処方された事があります。しかし2回の服薬で自覚しうる顕著な躁転があり、異様に周囲がトロ臭く感じて口調もケンカ腰になったのが怖くて、2日めには服薬を止めて受診し処方を戻してもらいました。

ただ最近の私はイライラしだすと1分とかで「ケンカ腰」のような緩やかな状態を通り越し、声を出すと絶対に怒号になるので家では沈黙に徹し、物を殴ったり当たり散らします。外では怒鳴ってしまう事もありますが、怒りの対象が人だとひとたび怒鳴ってしまえばめった打ちにしたい衝動に支配されると確信するので、通り過ぎてから怒鳴ったりしています。

カウンセラーに相談すると基本的には主治医の見解を支持し、一度だけ「感情依存かもしれない」と言われました。いずれにしても、私の怒りは何かへの反応であって治療すべき疾患の症状ではない、という見解です。

「自分に都合のいい病名がほしいだけ」かも知れませんが、それでも私は自分のこの怒りがあまりに病的で恐ろしいです。
これを完全に抑えられるのは、長時間にわたり動作困難なほどのだるさをもたらすレボトミンの服用くらいですが、心臓や呼吸への負担を感じてから怖くて処方をお願いしあぐねています。

(不条理な)激しい怒りで検索して頻出するのが「非定型うつ病」なのですが、受療開始間もなく買ってみた解説本を一読する限り、自分が当てはまる気がしなかったので処分してしまいました。

診断後にある程度快活に動けていた期間もポツポツとあったのですが、それが双極性障害の躁病相なのか判断しかねます。
怒りが気になりだした時に、10年以上受療してから病名の変更があった姉を思い出し主治医に私の双極性障害の可能性も尋ねてみたのですが、「どんな人にでも2つの相はある。あなたは今の治療でいいと考えている」とのお返事でした。

うつ病の意欲のなさは寂しいですが、今の私は暴力で事件を起こして妻に迷惑をかける事、宅内でも期せずして怒鳴ったりモノに当たっている時点で彼女が実質的にDV被害を被っている事がたまらなくイヤで、そのリスクを無くすには失踪か自殺しかないのかも、と思っています。

酒乱の父が頻用していたすごく嫌いな言葉なのですが、今の私は「怒ったら何をするか分からん」が恐ろしく現実的で怖いです。
そういうリスクしか想像できないので本当に離婚すべきだと思っているんですが、「そういう重大な判断を自らすべき時ではない」とカウンセラーに諌められます。

長くてすみません、詰まるところ私は今の治療方針への信頼と期待が大きく揺らいでいるのですが、セカンドオピニオンを受けるべきなのでしょうか?(そのための書類作成を依頼する事が、主治医の心証を損ねないか怯えてもいます)自分が元々極めて利己的でだらしない人間なのは眼を背けたいほど自覚していますので、そもそも(少なくとも再休職以降は)何ら病気ですらないのかもしれない、とはずっと思い続けております。

非定型うつ病、擬態うつ病、双極性障害などの可能性について、処方の変遷も含めて今の治療を信じるべきかどうか、ご意見をお聞かせください。

また、私の「怒り」が自制心の弱さに拠るもので、アンガーコントロールなどと呼ばれる手法が改善が見込まれるのであれば、先生のお薦めしうる書籍などご紹介いただければ幸いです。

長々と拙文にお付き合いくださりありがとうございました、先生の治療やご活動で一人でも多くの人の苦しみが和らぐ事をお祈りいたします。

 

林: いま受けておられる薬物療法は不適切です。リーマスまたはデパケン(バルプロ酸)またはテグレトール(カルバマゼピン)を直ちに開始し、抗うつ薬のルボックスとリフレックスは徐々に減らし、できれば中止を目指すべきです。今の主治医の先生からは適切な薬物療法は期待できないと思います。別の病院にかかられたほうがいいでしょう。

最近困っていてとりわけ先生にご相談したいのが「異常な怒り・腹立ち」

それは、いま飲んでおられる抗うつ薬(ルボックスまたはリフレックス。あるいは、その両方)に関連する症状だと思います。

関連する」というのは曖昧な表現ですが、これが現時点では最も正確な表現ということになると思います。それを念頭において、ここからの解説をお読みください。

 

うつ病の治療中に、この【3075】のケースのような、「異常な怒り・腹立ち」が現れることは時おりあります。「時おり」というのは、頻繁ではありません。頻度は低いです。しかし例外的というほど稀ではありません。
その原因をつきとめるのは容易なことではありません。

まず前提として確認しなければならないことは、その怒りや腹立ちが、「異常」といえるかどうかということです。誰でも怒ったり腹を立てたりすることはあるわけですし、またそのきっかけや程度は人によって大きく違いますから、どこからを「異常」と判断するか、それ自体がかなり難しいのが常です。
けれどもこの【3075】のケースに見られる以下のエピソード、

「駅まで急ぎたいのに信号が赤」
 「降雨で傘をさしている時に風が吹いて傘が重い」
 「エレベーターを呼び出してもすぐに来ない(いつも使っていてそのペースも熟知しているエレベーターです)」
 「肩にかけたカバンがずり落ちそうになる」
 「猫が甘えたくて鳴き続ける」
こんな日常の些細な事でも、私は簡単に怒りの頂点に達してしまいます。町中でも大声で信号やエレベーターを罵り怒鳴り散らし、傘に怒っては折曲げて壊し、エレベータのボタンを壊してしまった事も猫に怒り過ぎて貧血様症状でへたり込んだ事もしょっちゅうです。道すがらの人間にでも怒鳴りつけたりし、自分でイライラを悪化させもします。

これらは「異常な怒り・腹立ち」といっていいでしょう。
そして、この【3075】の方が、元々はこの程度のことでここまで怒ることはなかったとすれば(なかったと仮定してお答えしています)、それは

A. いま治療中の病気そのものが原因
または
B. 治療が原因 
と考えるのが合理的です。
B.治療が原因
の可能性を先に解説しましょう。
抗うつ薬の稀な副作用として、賦活症候群Activation syndrome アクティベーション・シンドロームというものが知られています。仮にこの【3075】の「異常な怒り・腹立ち」を、抗うつ薬の副作用である(つまり、B.治療が原因)と考えるとすれば、それは「抗うつ薬による賦活症候群である」ということになります。確かにそれですべての説明はつきます。
けれども話はそう簡単ではありません。
そもそも、抗うつ薬による賦活症候群とは、どのような場合を指すのか、また、どのようなメカニズムで発生するのかは、いずれも明確なコンセンサスが現代の医学界にはまだありません。
確実にわかっているのは、「抗うつ薬の治療中に、異常な怒り等が現れることがある」ということだけです。すると話は元に戻ることになります。すなわち、その「異常な怒り」は、抗うつ薬が原因(B. 治療が原因)という可能性と、治療の対象である病気の症状(A. 治療中の病気そのものが原因)という可能性の、両方が考えられ、どちらであるかを決定することは非常に困難です。

その人のその後の経過を見て、抗うつ薬を飲んでいないときには決してその怒りは現れなければ、B.治療が原因、抗うつ薬を飲んでいなくてもその怒りが現れればA.病気そのものが原因 と推定できますが、それも推定にすぎません。また、その後に抗うつ薬を飲んだときだけにその怒りが現れれば、B.治療が原因 とかなりの確度で言えるかもしれませんが、そのような実験を行うことはできないのはもちろんです。
したがって、抗うつ薬による賦活症候群かどうかを、実際のケースで判断することはとても難しいことです。
【0581】ハイジャック殺人は抗うつ薬が原因だったのですか、 【0900】ハイジャック殺人事件の精神鑑定結果と判決について は、裁判所が賦活症候群であると認定した稀な例です。
また、【1709】愛犬を殴り殺してしまいました。SSRIのせいでしょうか。【1987】新薬リフレックスで、うつ病は見違えるように良くなったのですが、理由なくイライラするようになりました‏ は、賦活症候群と判定できるケースです。

この【3075】も、これらとよく似た症状と感じられるでしょう。【3075】の質問者の、

服用開始から7年を超える薬の、他害性さえ危惧される強い副作用があり得るのでしょうか?

はもっともな疑問ですが、【1709】で解説したように、賦活症候群は服用開始後かなり年月が経過してから起ることもあるとされていますので、7年後だからといって、副作用を完全に否定することはできません。
但し、【1439】自殺未遂は薬の副作用でしょうか で解説したように、賦活症候群は抗うつ薬の投与初期に多いというデータもあります。(このように、賦活症候群については、現代の医学界はまだ定説に至っていないのです)

と、ここまでの文脈からは、「【3075】の異常な怒り・腹立ちは、抗うつ薬による賦活症候群である」という結論に向かっているように読めると思いますが、そうではありません。まだ続きがあります。すなわち、

A. いま治療中の病気そのものが原因
という可能性です。
これを考えるうえでの出発点は、この【3075】のケースの「いま治療中の病気」とは何かということです。
【3075】は、うつ病の診断で長年治療を受けておられます。具体的に書かれた経過からも、また症状からも、「うつ病の症状」があることは確実です。いま自覚している症状 として1〜11に書かれている内容も、うつ病の症状として典型的です。ここでいう「うつ病」とは、真のうつ病、言い換えれば内因性の精神障害としてのうつ病です。ストレスに対する反応といったレベルのものではありません。
そのように言える理由は、上記の通り、経過と症状の両方です。すなわち、最初に不調が現れたのは、

約1年半にわたり、実家と交友関係で同時にトラブルに巻き込まれ、

という状況でしたので、この時点ではストレスに対する反応とも解する余地もあったと思われます。
けれどもその後、

その後にトラブルもそれぞれに収束し、ストレス源がなくなり私の精神状態も改善してきて、上記のX年の初めにはトラブルの一連を妻と笑い話にできるほどの安心を取り戻していました。
しかし、同年の4月のある日に突然すぎるほどの意欲と自身の消失に襲われました。
 通勤で歩いていた時に、いきなり「あ、歩けないや」と思いました。精神的に、腿から下が突然失われたような感覚でした。それからの現実の生活が虚ろにしか感じられず、意欲も自信も失った自分への評価が急落し、妻や職場・友人に対する申し訳なさで頭が埋め尽くされるようになりました。

というように、心理的な原因がないにもかかわらず、精神症状が現れています。この時点で(症状そのものとあわせて)、うつ病の診断が確定したと言えます。
このように、当初はストレスに対する反応にすぎないと思われた症状が、実は内因性うつ病(真のうつ病)の一回目の病相だったということは、この【3075】に限らず、少なからずあることです。【2861】高圧的な上司の影響でダウンした私は擬態うつ病だったのでしょうか  や うつ病の聖杯 (特に42の周辺) もご参照ください。
では【3075】の診断は「うつ病」でしょうか? そうかもしれません。けれども、もう一つ、双極性障害(躁うつ病)の可能性があります。うつ病と双極性障害(躁うつ病)の区別は、経過中に躁状態があるかどうかだけです。したがって、初発症状がうつの場合は、その時点ではうつ病と診断され、後に躁状態が現れたときに双極性障害(躁うつ病)と診断が変更されることになります。
【3075】のケースのお姉さまも、当初はうつ病と診断され、10年以上経過してから双極性障害(躁うつ病)と診断変更されたとのことですので、その典型的な例です。その他、【1411】うつが治ってハイテンションになった義姉は躁うつ病? それとも元々の性格?、 【2343】うつ病のあと急に元気になった男性が怖い【2364】永きにわたりましたが、確かにうつ病は治りました
なども同様の例です。

そしてこの【3075】のケースも、双極性障害(躁うつ病)の可能性はかなり高いと思います。少なくとも現段階は、双極性障害(躁うつ病)として治療を開始すべき時期であると言えます。このままうつ病として治療を続けるのは、二つの意味で不合理です。
第一に、治療効果が出ていないことです。
長年にわたる治療にもかかわらず、このメールに書かれているとおり、【3075】のケースは今もうつ病の症状に悩んでおられます。それもとても軽いとは言えない症状です。そして、経過と現在の症状からみて、これは内因性のうつ病です。すると環境調整や認知行動療法の効果は、仮にあったとしても限定的です。治療は薬物療法か、電気けいれん療法が必要です。薬物療法を続けるとすれば、これだけ効果が出ていないわけですから、抗うつ薬を変更するか、診断をもう一度見直すことが必要です。その目的で【3075】のケースの経過を振り返ってみますと、

一度だけエビリファイを処方された事があります。しかし2回の服薬で自覚しうる顕著な躁転があり、異様に周囲がトロ臭く感じて口調もケンカ腰になったのが怖くて、2日めには服薬を止めて受診し処方を戻してもらいました。

 診断後にある程度快活に動けていた期間もポツポツとあった

というように、躁状態と解し得るエピソードが複数見られることがわかります。
(あくまでも「解し得る」としか言えません。なお、エビリファイで躁状態が出現するというのは通常はまず考えられないことです)

また、お姉さまが双極性障害(躁うつ病)と診断されているというのも診断上重要な情報で、すると遺伝的に考えて、この【3075】のケースご本人も双極性障害(躁うつ病)であるか、少なくともその素因は持っておられると言えます。(上記、エビリファイで躁状態が出現したということの背景には、もともと双極性障害の素因があったと考える根拠になります)

これらの事実と、うつ病としての治療が十分な効果をあげていないことをあわせれば、それだけでも双極性障害(躁うつ病)としての治療を開始すべきであると言えます。

そして、あえてここまで触れてこなかった、今回の質問のポイントである異常な怒り・腹立ちです。

「駅まで急ぎたいのに信号が赤」
 「降雨で傘をさしている時に風が吹いて傘が重い」
 「エレベーターを呼び出してもすぐに来ない(いつも使っていてそのペースも熟知しているエレベーターです)」
 「肩にかけたカバンがずり落ちそうになる」
 「猫が甘えたくて鳴き続ける」
こんな日常の些細な事でも、私は簡単に怒りの頂点に達してしまいます。町中でも大声で信号やエレベーターを罵り怒鳴り散らし、傘に怒っては折曲げて壊し、エレベータのボタンを壊してしまった事も猫に怒り過ぎて貧血様症状でへたり込んだ事もしょっちゅうです。道すがらの人間にでも怒鳴りつけたりし、自分でイライラを悪化させもします。

これらは、一つ一つを取り上げても、また、全部をあわせても、双極性障害(躁うつ病)の躁状態とは言えません。但し、双極性障害(躁うつ病)の躁状態のときに見られるエピソード(易刺激性 いしげきせい と呼ばれることもあります)としては矛盾はありません。(なお、質問者が挙げられているもう一つの点である緊張感は、双極性障害や薬の副作用などを検討するまでもなく、うつ病の症状とみて矛盾はありません)

以上から、この回答の冒頭の答えが導かれます:

いま受けておられる薬物療法は不適切です。リーマスまたはデパケン(バルプロ酸)またはテグレトール(カルバマゼピン)を直ちに開始し、抗うつ薬のルボックスとリフレックスは徐々に減らし、できれば中止を目指すべきです。今の主治医の先生からは適切な薬物療法は期待できないと思います。別の病院にかかられたほうがいいでしょう。

では薬との関係はどうか。
いま私は、この【3075】の怒り・腹立ちのエピソードは、双極性障害(躁うつ病)のときに見られるエピソードとして矛盾はない と言いました。そしてこの回答の冒頭近くでは

それは、いま飲んでおられる抗うつ薬(ルボックスまたはリフレックス。あるいは、その両方)に関連する症状だと思います。

と言いました。
この二つの関係は、

この【3075】のケースは、双極性障害(躁うつ病)と診断できるか、あるいは少なくとも双極性障害(躁うつ病)の素因を持っており、そこに抗うつ薬の作用が加わることで、異常な怒り・腹立ちが誘発されている

ということです。回答の冒頭に

関連する」というのは曖昧な表現ですが、これが現時点では最も正確な表現ということになると思います。

とお書きしたのは、上記をひとことで言えば「関連する」というのが最も適切と考えたためです。

この【3075】のケースのように、双極性障害(躁うつ病)と診断できるか、あるいは少なくとも双極性障害(躁うつ病)の素因を持っている場合、抗うつ薬を飲むことで、易刺激性(異常な怒り・腹立ち)が現れることがあります。これを賦活症候群と呼ぶべきか、それとも双極性障害(躁うつ病)の躁状態が抗うつ薬で誘発されたと呼ぶべきかは意見の分かれるところですが、いずれにしてもそれは何と呼ぶかという問題にすぎず、事実としてはそういうことがあるという点は動きません。それよりも重要なことは、双極性障害(躁うつ病)と診断できるか、あるいは少なくとも双極性障害(躁うつ病)の素因がある人に、抗うつ薬服用中に易刺激性が現れた場合には、抗うつ薬は中止を目指すべきだということです。

特にこの【3075】のように激しい怒り・腹立ちが見られ、傷害事件さえ起こしかねない場合は、早急に抗うつ薬の中止に向かって動くべきであると言えるでしょう。
したがって、今かかっておられる医師やカウンセラーの意見には賛成できません。というより、重大な誤りをしていると思います。すなわち

カウンセラーに相談すると基本的には主治医の見解を支持し、一度だけ「感情依存かもしれない」と言われました。いずれにしても、私の怒りは何かへの反応であって治療すべき疾患の症状ではない、という見解です。

違います。この【3075】のケースの異常な怒り・腹立ちは、そのような心理的なメカニズムで説明できるレベルのものではありません。
そして、仮にこの怒りが「何かへの反応」だったとしても、その結果として傷害事件さえ起こしかねない状況なのですから、治療しなくていいはずがありません。
もっとも、カウンセラーは主治医の治療方針から外れることは通常はしませんので、主治医に「同調」しているだけかもれません。
そこで主治医の見解に目を向けますと、全く不合理と言わざるを得ません。(主治医の説明が、このメールに書かれている通りだとすれば、ということです)

主治医に相談すると「抗うつ薬の効果としての過敏や躁転の一種だろう」と仰る

これ自体は、基本的に私の説明と一致しており、正しいといってもいいでしょう。しかしそれなら抗うつ薬は中止するべきというのが精神医学の基本にそった治療です。もっとも、基本の通りに治療するのがいつも正しいとは限らず、【3075】に現在みられるうつ病の症状が一定以上に重い以上、抗うつ薬を続けるという考え方もあり得ますが、一方で異常な怒り・腹立ちがこれだけあるわけですから、抗うつ薬は中止すべきです。少なくとも減量すべきです。

主治医に私の双極性障害の可能性も尋ねてみたのですが、「どんな人にでも2つの相はある。あなたは今の治療でいいと考えている」とのお返事でした。

この説明はわけがわかりません。「どんな人にでも2つの相がある」というのが、文字通り「どんな人にでも」という意味であれば、全く意味をなしません。
また、「あなたは今の治療でいい」というのも、うつ病が改善していないこと、激しい易刺激性が見られていることに目を向ければ、今の治療でいいわけがありません。また、経過が良好とは決して言えないにもかかわらず、治療開始した7年前から、主剤がルボックスのまま続けられているのも、全く理解に苦しむ薬物療法です。

【1019】「報道されない抗うつ薬副作用の恐怖」(SPA!の記事)についてなどにお書きしたように、抗うつ薬による副作用の危険性を過大におそれることは間違っています。抗うつ薬は基本的に安全な薬です。しかしどんなに安全な薬でも、正しい使い方をしなければ危険です。また、たとえ正しい使い方をしても、確率は低くても重大な副作用は発生し得ます。発生の予測ができなかった場合は、不幸なことではありますが、運命とでも言う以外にないでしょう。しかしこの【3075】は、怒り・腹立ちが重大な事件を引き起こすことは予測可能です。予測可能なことは、事前に防がなければなりません。もしこの【3075】のケースで、本当に傷害事件が起きた場合には、漫然と抗うつ薬の投与を続けた主治医に責任の一端があると言わざるを得ません。

長くなりましたが、最後にもう一度、冒頭の答えを繰り返します。

いま受けておられる薬物療法は不適切です。リーマスまたはデパケン(バルプロ酸)またはテグレトール(カルバマゼピン)を直ちに開始し、抗うつ薬のルボックスとリフレックスは徐々に減らし、できれば中止を目指すべきです。今の主治医の先生からは適切な薬物療法は期待できないと思います。別の病院にかかられたほうがいいでしょう。

(2015.10.5.)

その後の経過(2016.7.5.)

05. 10月 2015 by Hayashi
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