精神科Q&A
【1411】うつが治ってハイテンションになった義姉は躁うつ病? それとも元々の性格?
Q: 私は30歳の女です。近所に住む義姉のことで質問させていただきます。義姉は現在37歳、小学生の子が2人います。
ちょうど約1年前、義姉はうつ状態となり、医師に入院を勧められるほど痩せました。
着の身着のまま、3ヶ月ほど家から出られない状態で、子供たちの世話や家事は私と義母が通い、行っておりました。ひどいうつ状態になるのは、はじめてのことだったそうです。
ところがある日を境に、何かがはじけたかのように回復し、ものすごいハイテンションになりました。今から8ヶ月ほど前のことです。
早朝から活動をし、くるくると動き回り、近所の買い物へ行くにも派手に着飾り、毎日宅配便が届くほどネット通販にはまり、ひと時もじっとしておられないように出歩き、仕事もはじめ、趣味のサークルの代表を引継ぎました。(結構大きいサークルで、大役です)
私は結婚してからのつき合いでしかないのですが、お料理や家事を上手にこなす義姉にはよくしてもらい、歳は離れていましたがとても仲良くしていました。それでも程よい距離感はありました。
ところが頻繁に電話をかけてきたり、突然やってきたり(そして自分のことだけを事細かに一通り話すと、帰っていきます)、とにかく声が大きく、しゃべりすぎで声がかれている程でした。もう楽しくて幸せで仕方が無い、私は何でもできる!と、はしゃぎ、けたけたと甲高く笑いだすこともありました。
こちらが言葉を選びつつ元気すぎることを指摘しても、「私は元々こういう性格だったし、外へ出るのが好きだった」と聞いてくれません。
世界は私中心に回っている、と思っているような発言や、全ての人をものすごく見下しているような発言をして、相手がどう思うのかを考えて話ができないようでした。
家事や子供たちに興味が薄れたようで、しょっ中、子供の世話を頼まれます。
自分は一主婦にとどまる器ではなく、もっと外の世界へ出るべきだ、が口癖となり、子供を預けて男性の方と会っていた??ということもありました。
それから、5ヶ月ほど前になると、仲の良かったママ友達と喧嘩をしたり、私や義兄に対しても突然怒ったり、泣き出したり、不安定な状態になりました。
その一ヵ月後にはそれも落ち着き、春ほどではないにしろ、以後ハイテンションで自信に満ち溢れた状態が続いています。
先日、趣味のサークルの方と偶然お会いしたときに、義姉さんの様子、おかしくないですか、と言われました。
どうもサークル内で一人だけテンションが合わず浮いているが、本人が全然気づいてくれないので、、、と困っているような(嫌味のような)ことを言われました。
狭い地域のことですので、そもそも趣味のサークルの代表になったのも、今まで全然目立たない存在だった義姉が急に活動に口を出すようになり、もめにもめながら押し切る形で代表になったという話も耳にしました。
しかも都合のいいときしか顔を出さないらしく(仕事をはじめたから?)、それまでの義姉を知る人からすると、身なりも態度も別人で驚いているとのこと。
また、私の友人がいるときにやってきて、来客中だといっても「かまわないから」と家に上がってきて、自分の話したいことを一通り話し帰っていったこともありました。(友人たちは目が点でした)
私はずっと違和感を覚えていて、いろいろ調べてみて躁うつ病の症状にぴったりあてはまるのでは、と気づきました。
でも、義兄にいわせると、元々の性格がそうで、うつ状態が治ったのがうれしくてちょっとはじけ気味なのではないか、となります。
付き合った頃を含めて20年連れ添っている義兄がいうことがもっとものような気もします。
春からはじめた派遣の事務の仕事は続いています。職場での様子はわかりません。
衣服や電化製品をぽんぽん買う浪費は続いているようです。(パートの範囲でやってくれないから家計が苦しい、と義兄がこぼしたことがあります)
また、うつ状態が治ったと本人が思っている時点から通院はしていません。
半年以上、ハイな状態の続く義姉と接していると、この人は元々こういう人だったんだ、これは性格だ、とも思えてきます。
だんだん、元の義姉がどういう人だったのかおぼろげになってきます。
ただ、春のハイテンションは異常でした。今はそこまでのハイな状態はありません。なんとなく変、というのは続いています。日によって普通のときもあれば、ハイなときもあります。テンションが低い、ということは最近はありません。
でも、躁うつ病について調べていくと、きちんと治療すべき病気だと知り、もし躁うつ病ならこのままの状態にしておいていいのか、悩みます。
義姉は病気なのでしょうか。
それとも、本当に単極のうつ状態が治って、今のは性格に過ぎないのでしょうか。
義姉は両親を亡くし、兄弟もいないため、病気なら身内としてできる限りのことをしたいと思っていますが、もし性格でしかないのであれば、、、正直、このまま振り回されるのは
しんどいなぁと思っています。
先生の見解をお伺いできれば幸いです。
林: お義姉様は、躁うつ病です。
躁うつ病は、躁とうつを繰り返す病気ですが、うつ状態から始まって、その後に一回目の躁状態が来た場合、それが単なる性格の範囲なのか、躁うつ病の躁状態なのかは、判断に迷うことは時にあります。このとき、判断の決め手は、「普通にみられるハイテンションよりさらにハイかどうか」ということにつきます。
これでは決め手にならないと思われるかもしれません。「普通よりさらにハイかどうか」と言われても、そんな曖昧なことでは基準にも何もならない、と思われるかもしれません。
けれども現実にはこれが何より決め手となる基準で、大部分のケースで、この基準だけから、病的か否かが判断できるものです。
そしてこの【1411】のケースは、明らかに「普通にみられるハイテンションよりさらにハイ」です。メールに記載されているこの義姉様の状態から、そうであることは間違いありません。
「私は元々こういう性格だったし、外へ出るのが好きだった」
これは、躁うつ病の躁状態のご本人の多くが(大部分が、と言ってもいいでしょう)がおっしゃることです。第一に、自分が病気であることが認識できないために、第二に、その前のうつ状態があまりにつらく、今の躁状態が自覚的には快適なために、このような言葉が出てくることになります。つまり、躁うつ病の躁状態の人が、このように人の意見に耳を貸さないのはごく普通のことですから、周囲の人はこのような言葉に惑わされず、ご本人のため最善を尽くしてあげる必要があります。それは治療を受けさせてあげることです。
しかしここで問題は、義兄様の認識です。
義兄にいわせると、元々の性格がそうで、うつ状態が治ったのがうれしくてちょっとはじけ気味なのではないか、となります。
このような甘い認識では、事態は悪化していくでしょう。
もっとも、元々が明るい性格の方だった場合、躁状態になっても、それが病気か元々の性格かはわかりにくいことは確かにあります。しかしこの【1411】は、ここに書かれている具体的内容からみて、元々の性格というレベルを超えていることは明らかです。
付き合った頃を含めて20年連れ添っている義兄がいうことがもっとものような気もします。
そのように思われることにも一理ありますが、ご家族のように非常に身近な方からは、逆に病的な面が見えにくいことがあるのも事実です。また、うつ状態で苦しむご本人を長く見ておられた場合には、それが治ったことへの安堵感や喜びが大きく、躁状態への評価が甘くなるのもまたよくあることです。
でも、躁うつ病について調べていくと、きちんと治療すべき病気だと知り、もし躁うつ病ならこのままの状態にしておいていいのか、悩みます。
質問者のお悩みはもっともです。早く治療を始めなければなりません。このまま放置すれば、義姉さんは社会的信用(たとえばサークル内での信用)をどんどん失っていき、それはあとから「あれは病気だったから」といってもなかなか回復できないものです。そして、早晩やってくるうつ状態において、躁状態のときの自分の言動を深く後悔し、うつ状態がさらに悪化し治りにくくなるというのもまたよくあることです。一日も早く治療を受けさせてあげてください。それにはまず義兄様とよくお話し、現実を客観的に認識していただくことが必要でしょう。