精神科Q&A

【1987】新薬リフレックスで、うつ病は見違えるように良くなったのですが、理由なくイライラするようになりました‏


Q: 37歳女性です。既婚、子供一人がいます。4年前にうつ病を発症し現在も治療中ですが、半年前から新薬のリフレックスを試しています。ずっと飲んでいたルボックスから徐々に切り替えるような形で、現在はルボックスがゼロとなり、リフレックスのみを服用しています。 リフレックスは確かにすごく良い薬だと思います。それを飲んでからは見違えるように元気になり、何を食べても美味しくて、よく書かれている過食・体重増加の傾向もあります。 ただそれ以上に、飲み始めてから変なイライラが増えたのです。どこを調べても、リフレックスでイライラして困っている、という情報がなく、これは私の気のせいなのか?、私だけなのか?、どう捉えていいか分からないのです。
主治医に相談したところ、イライラの度合いが「ブチ切れる」程でないのなら、ある意味、仕方のない事・・のように答えました。リスレックスは脳内のセロトニンを増やす薬ですよね? セロトニンが増えるとイライラするというのを読んだことがあります。 きっと先生も、明言はしませんが百も承知で、でもそれ以上にリフレックスですごく元気になったことに代えられない・・と思っているのかも、と自分で感じます。
ただ、本当にこのイライラが、リフレックスによるものなのか、そういうことがあり得る薬なのか知りたいのです。何かふとした時に、突然スイッチが入るようにイライラする・・・という感じで、夫から見ていても「少し異常に見える」と言います。私自身、「なんでこんな事で・・」という事に過剰反応し、自分で抑えられない怒りが湧くのを肌で感じます。そして突然また「普通」に戻ったりするのです。主人は「どう考えてもリフレックスのせいに見える。薬のせいで、感情の振れ幅が抑制できないんじゃないか?」と言います。 薬が徐々に減っていき、無くなるのを待つしかないのか?だけど本当に、飲まなくなったらこのイライラが消えるのか?自分でもどうしたらいいか分かりません。 ちなみに、最初に1錠で始めた時からイライラが出て、その後2錠、3錠と増えても変わることはなく、現在は2錠です。


林: このイライラは、抗うつ薬であるリフレックスによる賦活症候群(アクティベーション・シンドローム activation syndrome)だと思います。対策としてはリフレックスを飲むのをやめるのが唯一ともいえる方法です。けれどもこの【1987】の質問者においては、他の抗うつ薬では得られなかった症状改善が、リフレックスを飲むことによってもたらされていますので、直ちにリフレックスをやめるのがいいかどうかは慎重な判断を要するところです。とはいえ、賦活症候群の結果として他人を傷つけることは、日本ではハイジャック機長殺人事件の例(【0900】)があり、また海外の論文にも紹介されている通りで、十分にあり得ることですので、【1987】のようにはっきりと賦活症候群とわかる場合には、やはり原因となる薬を飲むのはやめ、他の薬にかえるのが適切であると私は考えます。

賦活症候群については【1709】に解説しましたのでご参照ください。

少しだけ付け加えますと、
賦活症候群 (activation syndrome / stimulation syndrome) という用語は、もともとは2004年にアメリカのFDA (Food and Drug Administration) が提唱したものです。日本でも2009年には、すべての抗うつ薬の添付文書に「重要な基本的注意」として、「自殺企図」「自殺念慮」に加えて「他害行為」が明記されるに至っています。
 【1709】でも解説しましたが、この副作用は、どの抗うつ薬でも現れる可能性があります。一部の報道ではSSRIに特有のように伝えられていますが、それは大きな誤りです。
 そして、この副作用の重要な点の一つは、イライラのような症状は、うつ病そのものの症状としてもあり得るものですから、抗うつ薬を飲んでいる人にイライラのような症状が出たとき、それを副作用であるかどうかを判断するのはかなり難しいことが多いということです。安易に副作用と判断して薬を飲むのをやめると、うつ病が悪化し、さらに悪い事態になるおそれがあります。
 けれどもこの【1987】のケースでは、かなり長い治療歴の中で、リフレックスを飲み始めてから、今までにない特有のイライラが見られていますので、リフレックスの副作用という判断にまず間違いないといえます。それでも主治医がリフレックスの処方を中止しないのは、

きっと先生も、明言はしませんが百も承知で、でもそれ以上にリフレックスですごく元気になったことに代えられない・・と思っている

というご判断があってのことだと思われます。
 質問者を直接診察していない私が、主治医の判断を覆すことはできませんが、あくまでこのメールに書かれた情報だけから判断すれば、リフレックスは中止すべきであると私は考えます。
(すなわち、質問者のうつ病の症状として、このメールには書かれていない非常に重篤なものがあって、それはこれまでの治療歴からみて、リフレックス以外では改善が期待できない、といった事実がもしあれば、リフレックスは中止できないということになるかと思います。「リフレックスを中止すべき」という私の判断は、精神科Q&Aの他のすべての回答と同じように、あくまでもメールの内容以外の重要な情報はないと仮定してのものにすぎません)

(2011.5.5.)


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