虚言癖、嘘つきは病気か  

 

虚言は精神医学の死角にある。
かねがね私はそう考えていた。最近では特に強く考えるようになっていた。
二つの意味がある。
第一に、虚言の精神医学的研究はあまりに少ない。一方、世の中の病的な虚言は、おそらくかなり多い。想像以上に多い。精神科の外来でも、あるいは一般社会でも、注意深く観察すれば、嘘をつく人は相当な数にのぼることに気づく。それも病的な嘘だ。たくさんの嘘をつく。普通では考えられない嘘をつく。それが病的な虚言だ。但しそれがわかるのは嘘がばれた時である。ばれなければ永遠にわからない。ばれていない虚言は一体どのくらいあるのか。膨大にあるのかもしれない。だが虚言についての研究論文はあまりに少ない。
第二の意味はさらに深刻だ。
虚言が精神医学の死角にあるということの第二の意味。それは、虚言は精神科の診断のすべてを粉砕するパワーを持っているということだ。なぜなら、精神科の診断は患者の言葉に大きく頼っている。客観的な検査は少ない。本人の主観的訴えが決定的となる場合がほとんどだ。精神科の診断は患者の話に嘘がないことを大前提としている。虚言は、あったとしても稀であるという暗黙の仮定がある。しかしその仮定が正しいという保証はどこにもない。もし虚言がかなり多ければ、現代の精神科の診断は、いや過去の診断も、これからの未来の診断も、全くあてにならないということになる。虚言の可能性を無視した精神科診断学は、あまりに能天気な診断学だ。

という背景から生まれたのが、『虚言癖、嘘つきは病気か  Dr.林のこころと脳の相談室特別編』だ。虚言という精神医学の死角に光をあてようとする構想を、どのようにして一冊の本に仕上げたか。それを語りたいところだが、今ここでは控える。長くなりそうだからだ。長くなるとなぜよくないか。いま書いているこの文は『虚言癖、嘘つきは病気か  Dr.林のこころと脳の相談室特別編』の宣伝だからだ。ついシリアスに書き始めてしまったが、その続きはまたの機会にするとして、ここからはもっと宣伝らしく書く。

これは、とても面白い本である。

いきなりだ。
いくら宣伝だといっても、いきなり「とても面白い本である」はないだろう。これでは子供の感想だ。著者はもっと気の利いたことを言わなければならない。
だがしかし、私は自分で読んで素直にとても面白いと思ってしまったのだ。8月12日、一回目の著者校正で全体を通して読んだ私は、出版社に思わずこんなメールを出してしまった。

ところで、能天気な話で恐縮ですが、この本、面白いですね。
 ・・・自分の文章を面白がって読むとは実に能天気ですが・・

出版に向けて秒読みの忙しいスケジュールの真っ最中に、著者からのこんなメールを受け取った出版・編集の方々は、何と能天気な奴だと思ったのではないか。私は深く反省した。ところが著者最終校正で読んだらあらためてまたとても面白いと感じた。だからまた書いてしまった。8月27日だ。

校正で通読して、また能天気にもこの本はとても面白いと実感してしまいました。

一度ならず二度だ。懲りない。呆れられたに違いない。「能天気」と自分で書いて言い訳すればいいというものではない。
このことは出版社のブログにも書かれているまぎれもない事実である(「呆れた」とは書いてないです)。

そして出版(電子書籍では配信というのが正しいのかもしれない)されたのは、何と著者最終校正の翌日、2014年8月28日だ。紙の本では考えられないスピードである。同じQuickBooksシリーズの『家の中にストーカーがいます』の時は、企画から出版までのquickさに感心というか驚嘆したが、今回、最終校正の翌日に配信とは。もはやこれを超える迅速さは存在しない。QuickestBooksと改名してもいいのではないか。

いま私は何を書いているのか。
一つは、『虚言癖、嘘つきは病気か  Dr.林のこころと脳の相談室特別編』は、虚言という精神医学の死角にある現象について私が考え続けていたことを元にまとめた意欲作であるということ。
もう一つは『虚言癖、嘘つきは病気か  Dr.林のこころと脳の相談室特別編』はとても面白い本だということだ。
つまり宣伝文を書いているのだが、どうもほとんど素材のままの文で、宣伝としての深みに欠ける。出版があまりに迅速で宣伝が追いつかなかった・・・というのもまた著者らしからぬ言い訳だが、事実である。

『虚言癖、嘘つきは病気か  Dr.林のこころと脳の相談室特別編』は、虚言者たち、または虚言者かもしれない人たちのケースファイルである。その44のケースの中には有名人も含まれている。
Case22 森口尚史氏「iPS心筋を移植 初の臨床応用」、Case23 佐村河内守氏「全聾の天才作曲家」、Case24 野々村竜太郎氏「政務費で1年に195回出張、記者会見で号泣」、Case43 金メダリストA氏の性犯罪、Case44 小保方晴子氏・・・
こうした人々が本の中に息づいている。出版までの迅速さあってのことだ。
であれば宣伝文の質などたいした問題ではない。重要なのは本の質、本の内容だ。
というわけで、
『虚言癖、嘘つきは病気か  Dr.林のこころと脳の相談室特別編』は、とても面白い意欲作です。緊急発売。宣伝文はまた後日ゆっくり書きます。

 

 

 

 

 

 

 

03. 9月 2014 by Hayashi
カテゴリー: コラム