【4354】統合失調症の薬とコンサータを一緒に飲んでも大丈夫でしょうか?

Q: 10代女性です。
おかしいと思ったのは3日前の夜でした。トイレに入ったとき、後ろから誰かに見られている気がしたのです。かなりはっきり見られていると思いました。こんなことは今までありませんでした。

次の日(2日前)起きて、また布団の中で隣から見られていると思いました。黒い影(脳内イメージです)が私のことを観察していると。関係念慮が始まったのもこの直後からです。家族のしていることがいちいち、私への当てつけ、あるいはサインか、とにかく自分と関係していると感じたのです。
このころまでは「考えがよぎる」程度であまり確信は無く、自分の中で「いやいやそんなわけ無いでしょ」といった感じで打ち消していました。
でもその日(2日前)のお昼頃、弟が明日の昼食はパスタがいい、と言った直後「考えを読まれた?」と感じました。しかし、少し冷静になって考えると弟の発言を聞くまでパスタのことは愚か明日の昼食のことなど微塵も考えていなかったのです。サトラレのカラクリはこれか!となると同時に衝撃を受けました。家族の話がダブルミーニングのように聞こえ、でもその一方でそんなことはないとわかっていました。
散歩に外に出たときすれ違う人と目が合う気がしましたが、敵意や恐怖は感じませんでした。それでもこの状態は何かにつけイライラして苦しく、なんで統合失調症の初期患者はこの苦しさで病院行かないんだろうと不思議に思いました。夜はやたら暗闇が怖く、鏡も恐ろしいものに思えて見られませんでした。観察する何かは消え、しかし見られていると言う思いは消えませんでした。もっと厳密にいうと、「どこから、どんな手段で見られているかはっきりしないが『見られているという不安』がある」という感じです。

昨日(1日前)になると関係念慮が確信の色を帯び始めました。心のなかで打ち消すのが難しくなり、何が何でも病院に行かないとヤバいと思い始めました。言いようのない不安、焦燥感も大きくなりました。散歩に出ても「目があった」「相手がこちらを見た」と感じる頻度が明らかに増えていました。散歩中、立ち止まったときに太ももがピリピリとしびれ、「体感幻覚だ!」と思いました。帰る途中、一度だけ「私が今ここでスマートフォンをイジることが前を歩く人に何らかのサインになるかもしれない」と感じました。これも関係念慮ですが、私がサインの送り手だと感じたのはこの一度だけです。
関係念慮が消えるのは何かに没頭しているときだけだったので、SNSを見たり、本を借りて読むようにしました。その間やその直後は関係念慮が気になりませんでした。

そして今日、念慮の頻度は減ったものの、確信に恐怖が加わりました。不思議と冷静に動けていたのが救いです。精神科を初めて受診しました。そして「見られている気がする」「家族が私を待ち伏せしていると感じたことがあった、それが悪化している」と言うことを話し、オランザピン2.5mg錠とリスパダール0.1%の液状薬をもらいました。リスパダールはオランザピンと違い、特に不安が強いときに服用するそうです。

ここで一つ質問なのですが、コンサータとオランザピンは共に服用して大丈夫なのでしょうか?

わたしにはADHDがあり、その対処としてコンサータを処方してもらっていました(コンサータを続けて飲んでいたあるとき、処方免許?が変わったということで、コンサータに替えてベタナミン10mg×2錠を処方してもらっていました。今回病院に行き、ベタナミンはあまり効かなかった事を告げたところ、紹介状を書いてもらうことになりました。ちなみにここ数ヶ月はどちらも飲んでいません)。
ネットで調べた限りではコンサータはドーパミンを増加させる薬で、オランザピンはドーパミンを減少させる薬なので効果が相殺されてしまったり、今現在の関係念慮症状を悪化させてしまったりしそうで不安です。今かかっている先生に飲み合わせが悪かったりしますか?と訪ねたところ別にそんなことはない、といった風な答えが返ってきましたが少々不安です。

 

林: まず、質問者の3日前からの体験は、統合失調症の発症としてかなり典型的なものです。したがってオランザピンやリスパダールなどの抗精神病薬で治療を開始することは適切であると言えます。
ただしこの【4354】のケースではいくつか考えるべき点があります。

(1) 3日間という短い期間に、このように精神科の教科書に出ているような典型的な症状が進行し、かつ、それを本人が病的な症状であるというかなり明確な病識を持っていることは珍しいです。ここでポイントは「かつ」の部分で、A「3日間という短い期間に、このように精神科の教科書に出ているような典型的な症状が進行」と、B「本人が病的な症状であるとかなり明確な病識を持っている」が併存することがかなり珍しいという意味です。AとBのどちらかでしたらよくあることですが、この【4354】のように、急激に進行している症状について明確な病識を持つことができるというのは珍しいです。これについては、一方で、統合失調症についての情報がかつてに比べるとかなり行き渡っているため病識を持ちやすくなったという明るい解釈も可能ですが、他方で、統合失調症ではないのではないかという可能性も考える必要があります。

(2) 質問者はADHDとのこと、ADHDなど、広い意味での発達障害のケースでは、統合失調症に似た症状が出てくることがあります。このような場合、その統合失調症に似た症状は、ADHDから二次的に発生したという考え方と、ADHDと統合失調症は無関係で、たまたま二つが併発したという考え方と、ADHDと統合失調症には根本となる原因部分、すなわち遺伝子レベルに共通性があって、併発しやすいという考え方、大きく分けてこの三つの考え方があります。
この三つのどれであるかを決定することは現在の医学的知見からは不可能です。この【4354】については、ADHDと診断されて薬物治療を受けているということ以外にADHDについての情報がありませんので、なおさらADHDと統合失調症症状との関係についての推定は困難です。

(3) 質問者はコンサータあるいはベタナミンを服用していたとのこと。理論上はこれらの薬で統合失調症に似た症状が発生することがありえます。しかしここ数ヶ月は服用されていなかったとのことなので、その可能性は小さいでしょう。逆に、服用されていなかったということは離脱症状として発生したことが、これも理論上は考えられますが、その可能性はきわめて低く、ほとんど考える必要はないでしょう。

(4)
コンサータとオランザピンは共に服用して大丈夫なのでしょうか?

このご質問にシンプルに答えるとすれば「大丈夫です」になります。コンサータとオランザピンの併用による有意な有害事象は、公式には「ない」からです。

今かかっている先生に飲み合わせが悪かったりしますか?と訪ねたところ別にそんなことはない、といった風な答えが返ってきました

先生のそのお返事は公式には正しいです。
しかし

ネットで調べた限りではコンサータはドーパミンを増加させる薬で、オランザピンはドーパミンを減少させる薬なので効果が相殺されてしまったり、今現在の関係念慮症状を悪化させてしまったりしそうで不安です。

このご懸念は理論的にはもっともだと思います。
したがっていま言えることは、「公式にはともかく、理論的には併用が好ましくない可能性があるということを念頭におき、慎重に服用を続ける」ということになると思います。

(5) それ以前に、この【4354】のケースで本当にコンサータ服用が必要かどうかをよく考える必要があります。コンサータは、少なくとも他の向精神薬に比べたとき、危険性は相対的にかなり高い薬です。もちろん「危険性は相対的にかなり高い」からといって、服用すべきではないとは決して言えません。ただし、服用した場合のメリットがその危険性より高い場合に初めて服用すべきです。コンサータについては、現代の日本の一部の医療機関では、かなり安易に処方されているという実態があります。この【4354】のADHDについては具体的な症状の記載がありませんので、コンサータが必要かどうかは不明ですが、少なくともこの数ヶ月は服用されていないとのこと、それでも大きな問題が発生していないのであれば、コンサータを服用する必要があるかどうかをこの機会に真剣に考えることをお勧めします。林の奥 の ADHDの薬、それは治療か商売か  もご参照ください。

(2021.8.5.)

その後の経過 (2023.2.5.)

05. 8月 2021 by Hayashi
カテゴリー: ADHD, 発達障害, 精神科Q&A, 統合失調症, 薬の副作用 タグ: , , |