【3297】就職してからはっきり認識するようになった自分の異常性は、何らかの障害を示唆するものなのか

Q: 私は25歳男性、会社員で、今は海外に駐在しております。
これまでの人生、過程では色々なことがありましたが、あらゆる物事が結果オーライとなるような非常に運の良いもので、現在までの私は極めて順調な人生を歩んできていると周囲からは見えると思います。
しかしながら、大学卒業・就職と同時に上京し、一人暮らしをして仕事を開始したあたりから、自分の欠点や異常性(変わっている点)を、自らはっきりと認識するようになりました。

例としては、以下のようなことがあります。

◆時間にルーズ
約束の時間、学校の授業などには、遅れるつもりがなくてもほぼ必ず遅れてしまう。次こそは間に合うように、と思ってもやはり、次も遅れてしまう。
仕事、飛行機の搭乗時刻など、遅れた場合に多大なダメージがあるものでも、基本的には時間ぴったりに到着する。最悪の場合は遅れてしまう。

いずれも、寝坊や、スケジュールがタイトすぎる等の理由はなく、なぜか余裕を持った行動が出来ない。
なぜ遅れたのか聞かれれば、もっともな理由をつけて答えるが、実際には家でのんびりしていたのみの場合がほとんど。
思い返せば、これは幼少時からであったと思います。(小学生の頃も遅刻が多かった)

学生時代のテスト前の勉強、社会人になってからの書類や見積もりの提出期限などに対しても同様で、余裕をもって進められず、学生時代には成績が悪化し、社会人としては周囲への迷惑につながっています。いずれも不本意で、改善しようと常に思っているのですが、できないのです。

◆片づけが出来ない
整理整頓が出来ず、部屋は散らかり放題です。散らかっている状況は不快なのですが、片づけは極めて苦手で、片づけをしていると頭が爆発しそうな感覚に陥ります。
社会人になって、オフィスの自分の机やファイル類の中身もぐちゃぐちゃで、あらゆる人に怒られますが、改善は難しく、怒られて半日使って片づけても(頭の爆発しそうな感覚に耐えながらに片づけです)、数日するとまた元のように散らかってしまいます。物も捨てられません。

◆集中力のなさ
授業、会議、会話、作業などに集中することが出来ず、他のことを考えたり、ぼーっとしたりしてしまいます。結果、内容が頭に入らなかったり、睡魔(睡眠が足りないわけではなく)に襲われたりします。

◆一つのことへの執着、熱中、もやもや(?と相反するものかもしれませんが、私の中には併存しています。)
ひとつのことが気になりだすと、解決されるまでそのことが気になって、他の事が手につかないのです。ほかの重要なことがあることは重々わかっているのに、です。
これは、もっとも不思議に思っている点です。最近気づきましたが、やはり思い返せば幼少期からです。
いくつか例を挙げます。

1.家を出かける前、履こうとして手に取った靴下が、片方しかない。例によってギリギリの時間であるため、他のそろっている靴下を履いて家を出ればよいのですが、それが出来ない。その片方しかない靴下の相方を探さなければ気持ちが収まらないのです。特に大事にしていた靴下ではありません。探し回っている間に、時間が刻々と過ぎ、友人に迷惑を掛けていることが分かりながらも、靴下を探さなければという強い気持ちに支配されてしまいます。同様の例は極めて多く、何かを探す行動を始めてしまうと、見つかるまで探し続けてしまいます。例え悪影響があったとしてもです。自分でもおかしいと思います。

2.消しゴムを会社や学校に忘れたことに帰宅後気づいたとします。私は、その消しゴムに思い入れがあるわけでもないのに、翌朝学校や会社で消しゴムを見つける瞬間まで、消しゴムのことばかり考えてしまいます。

3.昔聞いた曲の曲名、といったどうでもよいことも、わかるまで、一日中調べてしまいます。仕事中にも気になりだすと、トイレに隠れてスマートフォンで調べたりします。
友人に電話をかけ、鼻歌を口ずさんで「わかるか?」と聞いたりしたこともあります。興味の対象は多種多様で、曲名だけでなく、どこかの国のビザの取得方法だったりもします。地下鉄のどの駅が大使館に近いのかなどを調べます。その国に行く予定などないのにです。仕事中にその大使館に隠れて電話をかけ、詳細な必要書類を聞いたりしてしまいます。ある時は例えばどこかの国のサッカーの2部リーグにどういうチームがあるのかが気になります。どうでもよいことが気になって仕方がないのです。

◆人間よりも、動物といるほうが自分らしくいられる。
人間と接しているときの自分は、何らかのウソの固まりのような気がします。道で犬や猫などの動物と出会うと、何とも言えない安心感、親近感を覚えます。周囲に聞けば、普通はそういうわけではないようです。動物好き、で片づけられない自分の中の何か(上に挙げた自分の特性を生み出している欠陥)によって生じている感情なのでしょうか。

◆周りに合わせたくない、うまく合わせられない
大人になればやりたくないことでも普通は周りに合わせてやるものだと思います。しかし、自分はそれに強い苦痛を感じるため、やりたくないことからは逃げ続けています。労働組合の運動会、新人は来るものだから、などど言われれば言われるほど、行く気が失せます。若手はこういう言動をすべき、などと言われれば、真逆の言動を取りたくなります。周囲からは協調性に欠けると思われているようです。

一方、人を笑わせたり、親切にすることは得意なため、周囲からは面白いが、変わっているという評価を受けています。ただ、変わっている面、協調性のなさを疎ましく思う人にはとことん嫌われてしまいます。

◆受験や就活などの際は、極めて集中し、満足のいく結果を出してきた
集中力のない私ですが、例えば学業をおろそかにして留年候補であったのに、高3の一時期から一気にギアを上げて勉強して志望の大学(自分で言うのもなんですが、日本で入るのが難しいとされる5本の指に入る大学です)に合格したこと、大学でもサボりにサボっていたのに就活では集中力を発揮して周囲からは羨ましがられる企業に入りました。手前味噌で恐縮ですが、このような土壇場の集中と、本番での実力以上とも思える力の発揮も私の特殊性と考え、ここに記載しました。

以下は余談程度にお考えください。

◆犯罪を犯して警察から逃げる夢をよく見る
自分には犯罪歴はなく、願望もありません。しかし、何らかの犯罪を犯して警察から逃げる夢をよく見ます。上記に挙げた特性と関連しますか。

◆天井からギロチンが降ってきて睡眠中に絶命することをよく考える。
これは、最近ですが、睡眠中に天井からギロチンが降ってくれば、痛みなく死ぬのだろうか、ということをよく考えます。

以上、これらの特徴から、林先生は当方が何らかの精神疾患、障害に分類されるとお考えになりますか。

ここにお書きした私の特徴は、改善したいと思っておりますが、それを意思だけで行わねばならないのか、あるいは何らかの医療的サポートによって緩和することができるのかを知りたいと考えております。

また、自分がただの怠け者なのか、そうでなく何らかの障害を持っているのかを知ることで、心の中にあるモヤモヤを晴らせればと思っています。

 

林: このメールに書かれている内容から、質問者は自閉スペクトラム症(発達障害)の傾向を持っていると言えます。

林先生は当方が何らかの精神疾患、障害に分類されるとお考えになりますか。

上記の通り、「自閉スペクトラム症(発達障害)の傾向を持っている」とまでは確実に言えます。しかし、「自閉スペクトラム症(発達障害)の傾向を持っている」ことと「自閉スペクトラム症(発達障害)と診断できる(に分類される)」は決して同じではなく、両者の区別は時に曖昧です。林の奥  の、ダンス・ダンス・ダンスなどもご参照ください。

この【3297】のケースのように、社会人になったときから異常性が表面化する、すなわち、

現在までの私は極めて順調な人生を歩んできていると周囲からは見えると思います。
 しかしながら、大学卒業・就職と同時に上京し、一人暮らしをして仕事を開始したあたりから、自分の欠点や異常性(変わっている点)を、自らはっきりと認識するようになりました。

このような経過は、自閉スペクトラム症(発達障害)の人、またその傾向を持つ人にしばしば見られるものです。【3170】大学生をしているから ADHDではないと言えるのでしょうか の解説もご参照ください。

ここにお書きした私の特徴は、改善したいと思っておりますが、それを意思だけで行わねばならないのか、あるいは何らかの医療的サポートによって緩和することができるのかを知りたいと考えております。

この問いに対する答は難しいです。なぜならこの【3297】のケースは、回答の冒頭に記した通り、「障害の傾向はある」とまでしか言えないからです。このような場合には、医療的サポートにより緩和することが、「できるか・できないか」と問われれば、「できる」が答になりますが、「できる」からといって、そうしたほうがいいとは限らないからです。つまり、自己努力で対処するほうが望ましいという考え方も充分にあり得るところです。

なお、医療的サポートのうち、薬物療法については林の奥  の、ADHDの薬、それは治療か商売かをご参照ください。

 また、自分がただの怠け者なのか、そうでなく何らかの障害を持っているのかを知ることで、心の中にあるモヤモヤを晴らせればと思っています。

そのご希望に叶うかどうかは別として、精神科Q&Aの他の発達障害のケース、たとえば 【3219】発達障害と診断された私の症状です などはご参考になると思います。

(2016.10.5.)

05. 10月 2016 by Hayashi
カテゴリー: 発達障害, 精神科Q&A