【3298】役に立つ解離性障害って存在しますか
Q: 30代男性です。人前に立つ仕事をしております。
ご相談は、統合失調症は放っておくと悲惨な末路をたどるケースが多いとのことですが、役に立つ解離性障害は存在するのか?放っておいても大丈夫なのか?という件についてです。
私は本来はあがり症で吃音があり、引っ込み思案で空気が読めないアスペルガー症だと思っています。ですが、「完璧な自分」に「交代」することで、吃音はなくなりスムーズに人と接することはおろか、難しい楽器の演奏だったり緊張する面接やプレゼンテーションだったりを無意識のうちに完璧に乗り越えられる、という不思議な特技があります。
私はこれを「オートモード」と呼んでおります。オートモードは自分の意思で起動させることができ、自分自身の人格は正確な表現は難しいですが、「後ろでぼーっとしながら見ている」感じです。そしてオートモードすごいなあ、ああこういう風に人と話したらいいのかあ。すごく親身に人の相談にのってあげてるなあ。などと他人事のように思ってるうちに完璧にやりとげてくれ、あっというまに苦痛なことが終わっていきます。今の職業について、1日の半数以上はオートモードで過ごしています。嫌なことだけでは無く、通勤での車の運転などもオートモードに任せており、事故など起こすこと無くあっというまに家に着きます。
ただオートモードを行うと非常に疲れてしまい、土日は24時間中20時間は寝て過ごしています。また、オートモードには人格は無く、本当に「自動的にいやなことを完璧にこなしてくれるモード」という感じです。ミスはほぼなく、何事も自分でやるよりオートモードでこなしたほうがいいものができてしまう、というありさまです。
自分自身、これは普通の状態では無いとうすうす感じており、いろいろ調べた結果、貴サイトにたどり着きました。ほとんどの記事を読ませて頂いた結果、自分に当てはまるのは「解離性障害」に近いのかな、と思った次第です。そう思った理由として、次のようなものがあげられます。
・両親から幼少より命の危険もある虐待を受けながら育ち、虐待を受けている時間に、意識をぼーっとさせる癖がつく。
・中学時代に酷いいじめに遭い、妄想の中の「完璧な自分」だけが友人であり、ある日突然「完璧な自分」に交代可能なことを知る
・おばけ、幽霊のような幻覚をよく見る、空中での足音や誰もいない部屋でふすまが閉まる音などの幻聴をよく聞く
・無意識に意味の無い虚言が多い(お昼食べた?と同僚に聞かれたとき、食べたのに「食べてないよ」等。自分でも言った後にびっくりする)
・オートモードじゃない時には病的な方向音痴がある。ナビがあっても目的地にたどり着くことが困難、たまに自宅に帰るときにも道に迷う
・忘れ物や仕事・約束のすっぽかしがひんぱんにある
・妄想癖があり、ぼーっとしてると数時間過ぎていることも多い。30代を過ぎた今でも「完璧な自分」以外の人格を持ったイマジナリーコンパニオンが数人いる。(妄想の産物である自覚はある、交代はできない)
精神科に行け、と思われると思いますが、私が怖いのは治療によりこのオートモードが無くなってしまうことです。今の仕事は間違いなく辞めることになり、友人との会話も一切できずひきこもりになる可能性が高いために通院に踏ん切りがつきません。
先生に改めてお伺いしたいのは
1、私は正常でしょうか、解離性障害でしょうか、はたまた何かの病気でしょうか。
2、病気だった場合、今自分に困り感が無いのですが、通院すべきでしょうか? 困り感がないどころか、このオートモードは役に立っていると思うのですが、どうでしょうか? もし治療を開始した場合、このオートモードは無くなってしまうのでしょうか?
3、この症状は、放っておいたら人を傷つけたり幻覚幻聴が酷くなるなど統合失調症のように悪化しますか?
林:
1、私は正常でしょうか、解離性障害でしょうか、はたまた何かの病気でしょうか。
解離の症状は確かにあります。そしてその解離症状は幼少時の虐待と関連があると思います。
但し、「解離の症状がある」ことは、「だから解離性障害である」ということにはなりません。それはどの診断名においても同じといえば同じですが(つまり、「症状がある」ことと「病気である」は、診断基準上は別です)、そうは言っても症状があることと病気であることはほぼ同じものもありますが、特に解離という症状は、健康な人にも充分にあり得るものですので、「その症状によって何か問題が生じているか」が、診断名がつく・つかないを分ける重要なポイントになります。そしてこの【3298】のケースは、症状によって問題が生じているとは(少なくとも現時点では)言えませんので、「解離症状はあるが、解離性障害と言えない」ということになるでしょう。
2、病気だった場合、今自分に困り感が無いのですが、通院すべきでしょうか? 困り感がないどころか、このオートモードは役に立っていると思うのですが、どうでしょうか? もし治療を開始した場合、このオートモードは無くなってしまうのでしょうか?
現時点では通院の必要はありません。
解離とは、そもそもが自我の防衛のための症状(というより心理現象)ですので、「役に立つ」のはあり得る、と言うよりむしろ、役に立つ点があるのは当然です。ですから解離性障害の治療は、必ずしもその解離症状を取り除くことが目標になるとは限りません。おそらく最もわかりやすいのは解離性健忘の場合で、健忘の内容は多くの場合本人にとって耐え難い外傷体験ですので、記憶を取り戻すことはかえってよくないこともしばしばあります。
健忘以外の解離症状も、大部分の場合は本人にとって不都合な何らかのことを避けるために役に立っているものですが、それは「避ける」という意味では役に立っていても、結果として別の問題が発生するのが常です。それに対してこの【3298】は、解離症状をうまく活用している稀なケースと言えるでしょう。
3、この症状は、放っておいたら人を傷つけたり幻覚幻聴が酷くなるなど統合失調症のように悪化しますか?
そういうことはまずありません。
しかし、今後の人生において、この「オートモード」を用いる場面があまりに多くなると問題が発生するかもしれません。ひとつ考えられるのは、解離性同一性障害(多重人格)への発展です。けれども今の時点でそこまで心配する必要はないと思います。
(2016.10.5.)