【3953】自殺した父に謝りたい

Q: 20代女性です。
私が中学生の頃、父が自殺しました。
父は亡くなる1ヶ月ほど前から鬱の状態で、病院を受診し、うつ病の薬を飲んでいました。しかし当時、私は反抗期で、父の病気をあまり重く考えておらず、うつ病の父に言ってはならないことを言ってしまいました。
私の父と母は、当時、別居をしておりましたが、私は週末になると、祖父母と暮らす父の家に泊まりに行っていました。
父と最後に会った週末の土曜日の夜でした。父が、「メールのやり方を教えてくれないか」と私に話しかけてきました。私は「そんなの自分で調べて」と冷たく突き放してしまいました。父なりの、反抗期の私とのコミュニケーションだったのは分かっていましたが、私は愚かにも、その父からのコミュニケーションを拒絶してしまいました。そして、そのメールの話をした数時間後、父は、「パパと暮らしてくれないか」と聞いてきました。あのとき、私が「うん、暮らそうかな」と言っていたら、父は自殺しなかったと思います。しかし実際に私が返した言葉は、「学校が遠くなるから嫌だ」というものでした。これが、生きている父との最後の会話となりました。

父が亡くなり、もう10年以上になります。父が亡くなってすぐは、父の自殺の第一発見者となった、私の母の方が精神的に不安定になってしまい、そのため私は自分の辛さをあまり誰にも言えずにいて、自分の気持ちに蓋をして、あまり考えないようにしていました。

しかし、当時、父の死から目を背けた結果なのか、10年以上経った今、父の死に考えさせられることが多く、どう客観的に考えても、父の死の引き金になったのは、私の最後の言葉や態度だったのだと思ってしまいます。
どんな状態でも、父には生きていてほしかったというのは本音ですが、死を選んだ父を私は責めることができません。
ただ、死にたいと思うほど辛かった父の、一人娘である私にさえも、一緒に住むのは嫌だと言われた、当時の気持ちを考えると、なんと言っていいか分かりませんが、ただただ胸が痛くなります。
叶うことはないのは重々承知ですが、父に謝りたいと、最近そればかり考えてしまいます。私は一生このことから逃れられないことはわかっていますが、父が、急に死を選んだ理由は、私の最後の言葉が大きかったのでしょうか。

 

林: うつ病 の人が自殺したとき、その理由は健常人が推定できる範囲を超えています。すなわち、普通の意味での感情移入による理由の推定は不可能か、少なくともきわめて困難です。
ここでいううつ病とは真のうつ病のことで、たとえば【3267】私は病気ではなく、ただの甘ったれではないでしょうか【2156】うつ病と診断されていますが、本当は甘えでしょうか などを指します。【2473】うつ病の彼女との付き合い方に悩んでいます【2161】うつ病から復職した20代女性社員の扱いについて のような明確な擬態うつ病はもちろん指しません。一方、【2861】高圧的な上司の影響でダウンした私は擬態うつ病だったのでしょうか のようなケースは、その深い苦悩は察せられますが、それは健常人に感情移入できる範囲で、真のうつ病とは言えません。なお、「真のうつ病」とは、「内因性うつ病」とほぼ同義です。内因性うつ病については、うつ病の聖杯などをご参照ください。
この【3953】のケースについては、具体的な経過や症状がほとんど不明ですので、真のうつ病であったかどうかはわかりません。したがって、娘である質問者の言葉が自殺の「原因」であったと言えるかどうかはわかりません。但し、その言葉と自殺が時間的に接近している以上、「きっかけ(引き金)」であったとは言えるでしょう。すなわち、

父の死の引き金になったのは、私の最後の言葉や態度だったのだと思ってしまいます。

引き金という意味ではその通りだと思います。
けれども、

父が、急に死を選んだ理由は、私の最後の言葉が大きかったのでしょうか。

それについてはわかりません。言い換えれば、質問者の最後の言葉があったからこそ自殺されたのか、それとも、質問者の最後の言葉の有無や如何にかかわらず、自殺されたのか、それはわかりません。

当時中学生だった質問者に、当時のご自身の言葉の重みを洞察することは不可能に近かったと思います。

(2020.1.5.)

05. 1月 2020 by Hayashi
カテゴリー: うつ病, 精神科Q&A, 自殺