【2906】私は統合失調症と診断されましたが、それは誤診で、解離性障害なんじゃないかと思っています。
Q: 20歳の女です。父、母、兄の4人家族です。
質問させていただくのは初めてです。
16歳から大学病院の精神科にかかり、統合失調症と診断されました。
現在、6つの薬を処方され飲んでいます。
ジプレキサザイディス5mg、エビリファイ12mg、エビリファイ3mg、ゾルピデム酒石酸塩5mgEE、レネスタ2mg、ロラゼパム0.5mgです。ロラゼパムは朝昼晩3つ飲んでいます。
症状は虫、猫、黒髪の小さな女の子、人の手が見える幻覚と、女の悲鳴や自分のやめてという声が聞こえる幻聴です。
関係ないかもしれませんがほぼ毎日悪夢を見ます。
内容は母親、兄、父に乱暴される夢です。
過去に虐待されたことはたぶん、ないと思います。
私はあまり昔の記憶も最近の記憶も忘れています。
お話がそれました、本題に入ります。
私は統合失調症と診断されましたが、違うと思うのです。
私は解離性障害なんじゃないかと思っています。
理由は、頭の中に数人誰かがいるのと、たまに記憶がないことです。
頭の中に誰かがいるのは小学5年生頃からです。
その頃はあまり声が聞こえずなんとなく何かがいるなという程度でした。
最近は私が悩んでいたり苦しんでいたり一人でいると話しかけてきます。
主に私と頭の中でお話してくれる人は私に似ている16歳の女の子です。
私の頭の中を占拠しているのもこの子です。
体を動かしているのは私ですが、なにをするか考えるのはこの子です。
私とこの子の考えは独立していて、私はからっぽですがこの子は恋をしています。
これらは統合失調症の症状なのでしょうか?
それとも解離性障害なのでしょうか?
私の妄想なのでしょうか?寂しいから私が演じているのでしょうか。
ずっと気になっていますが恥ずかしくて主治医に話せません。
林: 解離性障害の可能性のほうが高いと思います。
私は解離性障害なんじゃないかと思っています。
理由は、頭の中に数人誰かがいるのと、たまに記憶がないことです。
結論としては、質問者のこの推定は正しい可能性が高いです。但し「頭の中に数人誰かがいる」ことは、解離性障害でも統合失調症でもしばしばある体験です。「たまに記憶がない」は、統合失調症よりは解離性障害に多い体験ですが、「たまに記憶がない」といっても、その「記憶のなさ」の具体的内容によっては、統合失調症の可能性が高い場合もあります。
ですから、
私は解離性障害なんじゃないかと思っています。
理由は、頭の中に数人誰かがいるのと、たまに記憶がないことです。
もしこれだけの記載であれば、「解離性障害、統合失調症、どちらも考えられます。どちらの可能性が高いかは、わかりません」となります。
けれどもこの【2906】には、より具体的な症状の記載があります。次の通りです:
症状は虫、猫、黒髪の小さな女の子、人の手が見える幻覚と、
このようなかなり実体的な幻視(幻覚)は、解離性障害に特徴的な症状です。
女の悲鳴や自分のやめてという声が聞こえる幻聴です。
統合失調症の幻聴は、自分を批判する悪口や、自分を脅かすような内容であることが多いのに対し、このような幻聴は解離性障害に多く見られるものです。上の幻視とあわせ、これら症状からは解離性障害の可能性が濃厚ということになります。
関係ないかもしれませんがほぼ毎日悪夢を見ます。
内容は母親、兄、父に乱暴される夢です。
解離性障害らしい悪夢です。
過去に虐待されたことはたぶん、ないと思います。
この【2906】における過去の虐待経験の有無は不明ですが、このように本人に自覚があるかないかということと、実際の虐待経験の有無は必ずしも一致しません。【1901】6歳から12歳まで受け続けた性的虐待と22歳の今の私、から 【1948】7年前に父から受けた虐待の記憶がよみがえったをご参照ください。
私はあまり昔の記憶も最近の記憶も忘れています。
この文章は日本語になっていませんが、何らかの記憶障害があり、それは昔のことと最近のことについてであることは読み取れます。記憶障害についてより具体的な内容がわかれば、解離性障害か否かはより正確に判断することができます。これについても上記の【1901】から【1948】などをご参照ください。
頭の中に誰かがいるのは小学5年生頃からです。
その頃はあまり声が聞こえずなんとなく何かがいるなという程度でした。
こうした、「気配を感じる」という体験は、解離性障害にしばしば見られます。もっとも、ここでも「気配を感じる」という表現にまとめてしまうと、それは統合失調症でもしばしば見られますが、この【2906】のケースの体験は解離性障害の色彩が強いものであると言えます。
最近は私が悩んでいたり苦しんでいたり一人でいると話しかけてきます。
主に私と頭の中でお話してくれる人は私に似ている16歳の女の子です。
私の頭の中を占拠しているのもこの子です。
体を動かしているのは私ですが、なにをするか考えるのはこの子です。
私とこの子の考えは独立していて、私はからっぽですがこの子は恋をしています。
解離性同一性障害の前段階ともいえる体験です。やはり解離性障害の可能性濃厚です。
以上より、この【2906】では、
私は統合失調症と診断されましたが、それは誤診で、解離性障害なんじゃないかと思っています。
という疑問への答えは、
その通りです。統合失調症というのは誤診で、あなたは解離性障害だと思います。
になります。
一般的には、「自分は統合失調症と誤診された」「自分は統合失調症でない」と主張されるケースの大部分は統合失調症です。【2829】統合失調症だと誤診されました
【2369】統合失調症と診断されたが誤診だと思います
【2767】私は統合失調症ではないですよね
などをご参照ください。
けれども、もちろん本当に統合失調症と誤診されているケースもあります。統合失調症と誤診されやすいものの代表が、この【2906】のような解離性障害です。時にこの二つの区別は難しいことがあります。【2407】中学生の統合失調症の治療について 【2630】統合失調症と診断されて 6 年目ですが、自分の嘘に悩んでいます 【2388】脳内で男の子と会話しています などをご参照ください。
なお、特にこの【2906】の質問者には
柴山雅俊監修 解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 講談社 2012
をお読みになることをお勧めします。
著者の柴山先生は、現代の日本における解離性障害の権威といえる精神科医で、解離性障害についての臨床経験もおそらくナンバーワンであると思われます。
上記の本の副題 「影の気配におびえる病」に映し出されている通り、柴山先生は「気配を感じる」という体験を、解離性障害の診断根拠として重視しておられます。また、解離性障害に特徴的な夢のことも比較的詳しく書かれており、【2906】の質問者にとっては特に参考になると思われます。統合失調症と解離性障害の違いを見分けるポイントも整理して書かれています。
(2015.2.5.)