【2407】中学生の統合失調症の治療について

Q: 娘についてのご相談です。私は母です。現在中学3年生、14歳、女子。中学2年の4月終わり頃より不安が強く、胸のあたりの圧迫感、両足膝上の痛みを時々感じるが、異常が見つからず。年が明けて2月、学校にいるのが辛いと言い出し、総合病院心療内科初診。精神安定剤処方。その後、学校へ行くと不調。強い自責、絶望感、希死念慮を訴え、X年3月初旬病院に入院。現実感喪失、幻聴や誰かに見られている感じを訴え、統合失調症の前駆症状を念頭に治療開始。
3月初旬・1日2回・毎朝夕食後・リスペリドン細粒1mg投与
→半月後(4月)・朝食後・リスペリドン細粒1mg+夕食後・リスペリドン細粒1.5mg+セロクエル細粒30mg+頓服としてリスパダール液
→その半月後(4月中旬)・1日3回・毎食後・リスペリドン1mg+セロクエル60mgを3回に分けた分量+頓服としてリスパダール液 。
→5月退院(当初より5キロ太る)
退院後は、リスペリドン1mg、セロクエル50mgを朝、昼、夕の3回に分けて服用、寝る前にリスペリドン1.5mg、セロクエル50mgを服用。リスペリドンの治療開始から1週間後と2週間後に、頭痛や嘔吐(胃液まで吐く)ことが2回あり。その際、セレネースの点滴を受ける。
・ 治療前まで、絶望感や希死念慮、漠然とした不安感、自己卑下は見られたが、支離滅裂や理解不能な行動や言動は一切なし。身の回りのことも入浴も普通。テレビ、本、音楽、人混みも平気。ただし学校は居づらいとのこと。
・ 治療開始してから、幾度かカウンセリングを求めたが、今は薬で休ませるのが先決とのこと。しかし、ほぼ1日一緒にいるためか私との会話が増える。薬のためか会話のためかよくわからないが、不安感や希死念慮は消える。だが、次第に表情が乏しくなり1日中ボーッとした感じになる。薬で脳を休ませているため、との説明。それでも本を読んだり、音楽を聴いたりはする。ただし集中力が出ない。
・ 現在、午前中は朦朧とした感じ。昼頃から夜にかけて徐々に上向きになっていくようで、活動しようとはするが、身体が言うことを聞かず、集中力も続かず、自分に失望していく状態。テレビはいつでも見る。
・ 幻聴はあったようだが、脳内の声として認識していて、外から聞こえるわけではなく、現実との区別が付いている。本人いわく、頭の中にもう一人自分がいるようだとのこと。
・ 現実感の喪失は時々起こっていた。1週間前も3ヶ月ぶりに1回見られた。見慣れた場所が違う世界に感じる感じ。
・ 意思の疎通が困難になったことは一切ない。ひきこもりもない。入浴を嫌がることもない。
・ 入院中、頭痛や嘔吐が2回ありましたが、本人いわく「寝過ぎて頭が痛くなって気持ち悪くなった」とのこと。(主治医によれば幻聴によって恐怖心があおられて不調になったとのこと)

ここからが質問です。
統合失調症、離人症、不安障害、適応障害、うつ病など、病名が問題だとは思ってません。幻聴が決め手となっているようですが、果たしてこの症状を幻聴と言うのか?(主治医は幻聴だとおっしゃってます)他の疾病にこのような幻聴はあり得ないのでしょうか。 テレビも見る、本も読む、音楽も聴く、外へも出かける、文章も書く、まとまりのない行動や言動が一切ありません。あるのは一般的に言われる陰性症状というのか、ウツのような症状です。 確かになんらかの病気であることは確実だと思いますが、このまま今行われている治療(抗精神病薬の投与)を続けていて本当にいいのか、どれくらい待つ必要があるのか、薬による副作用で逆に症状を増やしているのではないのか、脳の検査はしなくていいのでしょうか、本人やる気が出た時にやりたいことができなくてそれでいいのか、肉体的にも精神的にも薬で取り返しがつかないことにならないのか、それが一番の心配なのです。

 

林: 統合失調症の可能性が最も高いと思います。少なくとも、統合失調症の可能性を第一に考えて治療を進めるべきです。
質問者は、「幻聴」について疑問を持っておられます。すなわち、

幻聴はあったようだが、脳内の声として認識していて、外から聞こえるわけではなく、現実との区別が付いている。本人いわく、頭の中にもう一人自分がいるようだとのこと。

おそらくは上記の点に着目して、

果たしてこの症状を幻聴と言うのか?

と質問しておられるのだと思います。
この症状は質問者が「幻聴」という言葉から持っているイメージとは違うことが、その疑問の主な原因と思われますが、まず結論から端的にお答えすると、これは幻聴です。しかも統合失調症らしい幻聴です。
統合失調症の症状としての「幻聴」は、健康な人が持っている「幻聴」とは違うことがしばしばあります。特に発症の初期についてはそうで、「聞こえているのか聞こえていないのかはっきりしない」とか「自分の考えなのか、聞こえているのかはっきりしない」とか「頭の中で考えが響く」などと、本人からは表現されることがよくあります。少しだけ専門的な説明をしますと、「幻聴といっても、聴覚性ははっきりしない」ことが、統合失調症の幻聴ではよくあります。

他の疾病にこのような幻聴はあり得ないのでしょうか。

このご質問の底には、「娘が統合失調症であってほしくない」という母親としての願望があります。もちろんこのようにメールで報告された症状だけでは、真に統合失調症らしい幻聴かどうかは確定まではできません。似たような症状は他の病気でもありえます。しかしこの【2407】では、経過と症状の全体像が、統合失調症の初期として典型的といえます

幻聴が決め手となっているようですが、

とのこと、あるいは主治医の先生はご家族にそのように説明されたのかもしれませんが、それは説明の便宜上のことであって、診断は幻聴を決め手になされたのではなく、全体像からなされたものです。幻聴の存在は決め手というより、診断の確実さを増すものであるというのが正確でしょう。

確かになんらかの病気であることは確実だと思いますが、このまま今行われている治療(抗精神病薬の投与)を続けていて本当にいいのか、どれくらい待つ必要があるのか、薬による副作用で逆に症状を増やしているのではないのか、脳の検査はしなくていいのでしょうか、本人やる気が出た時にやりたいことができなくてそれでいいのか、肉体的にも精神的にも薬で取り返しがつかないことにならないのか、それが一番の心配なのです。

このご心配は理解できるところです。偽陽性問題として【2007】【2072】【2283】などに解説してありますのでそれらもご参照ください。統合失調症の診断が症状に基づいて行われる以上、どこまでいっても偽陽性問題は払拭できません。けれどもこの【2407】のケースに関していえば、統合失調症の可能性はかなり高いので、偽陽性問題よりも偽陰性問題( 【2035】 などをご参照ください)のほうを心配するほうが理にかなっているケースといえます。今の治療を続けるべきです。

(2013.7.5.)

 

その後の経過(2013.9.5.)

05. 7月 2013 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症