【2414】うつ病で思考が退化してしまうことはありますか

Q: 23歳、男の大学生です。高校卒業後現役で国立大学に進学し、二年生の時にうつ病を発症しました。症状の経過です。

X年:不眠が最初に強く出たので、最初の治療は睡眠薬の処方(まずレンドルミン1錠、コンスタン1錠)でしたが、それからどんどん増えていって、それでも中途覚醒が治らないのでトリプタノール25mgを処方され、中途覚醒がおさまりました。年内は特にうつ病が深刻になることはなく、継続してトリプタノール50mg程度を飲んで過ごしていました。

X+1年:うつ病が八月に明白に悪化した(とにかく毎日怖い、死ぬことばかり考える、将来が悲観的で絶望的、無力感、自分はどうせ死ぬ、それも惨めに死ぬ、他人にあざ笑われながら惨めに死ぬのだと何度も考え死のうとする)ので、トリプタノールの量を自己判断で300mgまで上げたところ、入院を勧められましたが、家族の意向により休学、自宅療養という形でリーマス300mg、トリプタノール150mgを飲むようになりました。休学すると病気は比較的回復し、トリプタノールは100mgぐらいでも平気になりました。

X+2年:春に復学しましたが、やはり通学が尋常ではなく辛くなりなんとか単位は取れたものの学校には数回しか行きませんでした。後期も復帰してはいますが、やはり辛く学校には行けません。リーマス300mg、トリプタノール150mg、ドグマチール100mg、サインバルタ40mgが現在の処方です。

ここからが質問です。私は数学が専攻で、同期入学の人間と比べても頭が悪いというか、思考力で劣っているのは仕方ないと思っています。指導教員にも大目に見てもらっています。そうは言っても最低限卒業するために単位をそろえなければいけないのに、日常の計算すらままなりません。むろん二桁の足し算ぐらいならなんとかなりますが、微分積分、あるいはsinやcosといった数学記号の混じった計算をまともにやることはできません。これらは専攻で日常的に頻出する単語で、私は頭が真っ白になりながら講義を受けて、絶望感を抱きます。とても単位は取れない。単位が取れなければ卒業は出来ません。うつ病は治るということですが、私は治るどころか悪化しています。とはいえ林先生の言うことは正しいでしょうし、普段のかかりつけの先生も信頼しています。治療は確かに功を奏していると思います。しかし判断力の低下や、計算能力の低下が、あまりに著しいためこのままでは大学を中退することになりかねません。運良くうつ病が綺麗に治っても、毎日問題集や教科書にかじりついて勉強する意欲はとてもではないですがわいてきません。むろん就職などできるわけがありません。一日十何時間も、無為に寝て過ごさなければいけないのですから。就活はしていません。周りには大学院受験すると言っていますが、はっきり言って大学院の入試に受かる気がまったくしません。勉強するにも、頭が真っ白になってできません。もうこの世にはほとほと疲れ果てました。精神科に長期入院するお金もありません。障害年金か何かをもらえるぐらい悪化すれば、むしろいいと思います。病院のすみでひっそりと死んでいきたいと思います。この脳の能力の低下は不可逆的なものでしょうか。うつ病から来るものですか、それとも薬から来るものですか。将来治療によって回復するものでしょうか。私の感覚では、頭の一部分がひっそり沈黙して、何かをしようという気をすべて奪っているように思えます。いま私は23歳ですが、もう頭はぼろぼろで、テレビを見ては寝るというおじいちゃんみたいな生活です。大学生どころか、高校レベルの計算問題を出されても、わかりません、としか答えようがありません。このままゆっくりと判断力が低下していって、認知症のようになっていくなら、もうそれはそれでいいと思います。そうしたら、どこかで静かに老人ホームのような場所で息を引き取りたいと思います。

林:

私の感覚では、頭の一部分がひっそり沈黙して、何かをしようという気をすべて奪っているように思えます。

 これはまさに うつ病の症状です。

「うつ病」という病名からは、「うつ」「抑うつ」「落ち込む」「悲しい」などが主症状であると考えられがちですが、実はうつ病の本質とは、ここに描写されているようなエネルギーの低下・枯渇であるという考え方も相当に有力なものです。

本質論は措くとしても、実際のうつ病の典型的な臨床経過としては、不安やうつがよくなってきても、意欲低下や判断能力の低下の回復は遅れるのがむしろ普通です。したがってこの【2414】の

 治療は確かに功を奏していると思います。しかし判断力の低下や、計算能力の低下が、あまりに著しい

 という状態は、うつ病の一時期としては典型的といえます。

うつ病は適切な治療を受け続ければ治ります。あせらず今の治療を続けてください。

(2013.7.5.)

その後の経過(2013.12.5.)

05. 7月 2013 by Hayashi
カテゴリー: うつ病, 精神科Q&A