精神科Q&A

【2072】小中学校時代の私は統合失調症だったのでしょうか。今も独り言だけはあります。‏


Q: 20代の男性です。今回メールをしたのは、10代の頃の私の異常な行動について先生の意見を伺いたいと思ったからです。具体的な症状は、以下のようなものでした。

・ いきなり笑い出す。学校で授業を受けている最中に、特におかしくもないのにいきなり大声で笑い出し、それが何十分も続く。先生の話し声や教室の景色など、普段は何ともない物がおかしくてたまらず、一度笑い出すと、自分でも笑いを止める事が出来なかった。 
・ 妄想。「核戦争が起こる」「空から隕石が降ってくる」といった事がすぐさま現実になるとリアルに感じられ、その考えがまとわり付き、夜になっても眠れなかった。また、カーテンの隙間から誰かが覗いている気がして落ち着かず、1人でいると誰かに襲われないかと不安だった。 
・ 体が動かなくなる。私の体を私以外の何かが支配しており、それに邪魔をされたせいで体が動かなくなった。本当に文字通り体が動かなくなり、自分の意思でうまく体を動かせなかった。 
・ 空から声が聞こえる。お店で物を買ったりした時に、時たま「何故そんな物を買ったのか」と私を問い詰める声が聞こえた。男の声とも女の声ともつかない抑揚のない声で、本当に「空から聞こえた」としか言えないものだった。 
・ 独り言意味の無い独り言を何度も繰り返したり、歌い出したりする。全く意図して行ったわけではなく、周囲から指摘されて始めて自分が独り言を話しているという事に気が付くような状態だった。 

これらは全て小学校高学年から中学校までの時期に起こった事です。中には私の記憶によって書いているものもあるため、完全にこうだったとは言い切れませんが、非常に病的な状態であった事は確かだと思います。 先生のホームページを見ると、私はもしかしたら統合失調症だったのかもしれないと思いました。しかし、仮に私が統合失調症だったと仮定すると、分からない点があります。というのは、私は精神科での治療を全く受けていなかったにもかかわらず、これらの症状は高校へ進学した時期に、独り言を除いた全ての症状が綺麗さっぱりとなくなり、その後も特に変化無く今に至るからです。治療を受けずに症状が無くなるという事があり得るのでしょうか? 単に私が変わり者だったというだけで、私の考えすぎなのでしょうか? 長々と書きましたが、今一度先生への質問をまとめたいと思います。 
・ 私は何らかの病気(精神に関する病)だったのでしょうか?
・ 今後この症状が再発・悪化する恐れはあるのでしょうか? 以上です。よろしくお願いします。


林: この【2072】の質問者が小学校から中学校にかけて体験された症状は、典型的な統合失調症の症状であるといえます。けれども、

しかし、仮に私が統合失調症だったと仮定すると、分からない点があります。というのは、私は精神科での治療を全く受けていなかったにもかかわらず、これらの症状は高校へ進学した時期に、独り言を除いた全ての症状が綺麗さっぱりとなくなり、その後も特に変化無く今に至るからです。

ご本人のこの疑問はもっともで、治療も受けずに自然に症状が消えるというのは、統合失調症という病気の常識に反した経過といえます。

けれども、こういうケースがあることは、実はよく知られています。
【2007】にご紹介した、統合失調症の前駆症状疑い項目の中にも、

一過性の精神病症状

というものがありました。これは、「軽い精神病症状」とは異なり、その時点の症状は確かに統合失調症に一致していて、決して軽くないのですが、しかし一過性に消えてしまう、というものを指しています。
ここであらためてご指摘したいのは、「一過性に消えてしまうことがある」ことよりもむしろ、それが「統合失調症の前駆症状疑い項目」の一つであるということです。すなわち、一過性で消えてしまったから安心ということではなく、それは将来において統合失調症が発症するかもしれないという予測因子であるということです。

そしてこの【2072】では、「綺麗さっぱりとなくなり」と書かれているものの、実際には独り言が残っているわけですから、決して綺麗さっぱりとなくなっているとは言えません。

たとえ綺麗さっぱりなくなっていたとしても、一過性の精神病症状があれば、将来の統合失調症の発症を注意しなければならないわけですから、ごく一部でも症状が残っているこの【2072】のケースでは、さらに注意が必要ということになります。したがって、

今後この症状が再発・悪化する恐れはあるのでしょうか?

この問いに対する答えはイエスです。


◇ ◇ ◇

この【2072】の質問者が小学校から中学校にかけて体験された症状は、典型的な統合失調症の症状であるといえますので、この時期に精神科を受診すれば、統合失調症と診断され、おそらくは薬を処方されたでしょう。それが偽陽性問題です。

けれども、実はここに、偽-偽陽性問題(false-false positive)というものがあります。話が複雑になって恐縮ですが、これは、「偽陽性だと思っていたが実際は偽陽性ではなかった」というものです。たとえばこの【2072】のケース、今の時点では統合失調症とはいえませんので、仮に中学生の頃に精神科で統合失調症と診断されていたら、それは偽陽性ということになります。
 しかしながら、たとえば今から一年間経過をみたら、その間に統合失調症を発症するという可能性も十分にあります。すると、現時点での「偽陽性」という判定は誤りということになります。そうなりますと、「偽の偽陽性」ですから、これを「偽-偽陽性問題」といいます。

【2007】で、たとえ統合失調症の前駆症状疑い項目があっても、実際に統合失調症を発症する率は20-40%であるというデータをご紹介しました。
 しかしこのデータにも偽陽性が含まれている可能性があります。可能性というより、必ず含まれているといったほうがいいでしょう。
 というのは、この20-40%という数値は、統合失調症の前駆症状疑い項目がある方の経過を一定期間追跡調査して得られたものにすぎないからです。「一定期間」とはおのずと限りがあり、研究というものの現実からいって、1年か、せいぜい数年間にすぎません。すると、さらに長い年月にわたって調査行なえば、より多くの方が統合失調症を発症する可能性があるといえます。

このように、統合失調症の早期発見・早期介入をめぐっては、様々な問題があります。


【2000】から【2078】までの回答は一連の流れになっています。【2000】、【2001】、・・・【2078】の順にお読みください。


(2011.6.5.)



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