【4970】祖母と母が統合失調症でした。統合失調症の発症を防ぐことはできないのでしょうか。
Q: 私は30代の女性です
林先生に、統合失調症の発症は防ぐことができるのかをお伺いしたいです。
私の祖母は、私の母が幼い頃に統合失調症を発症し、母は祖母(母の母)を献身的に介抱してきました。祖母が亡くなって数年後、私の母も中年の年齢で統合失調症を発症(おそらく)し、自ら命を絶ってしまいました。おそらくというのは、正確に医師に判断されたわけではないからです。私は母と離れて暮らしているため、父から聞いた母の様子や、残された日記等から私が判断しています。(監視されている、見張られているといった内容の日記で、まさに統合失調症の妄想だとわかるものでした)
母は統合失調症の祖母を介抱しながら人生を過ごしており、統合失調症には詳しかったはずです。「この病気自体は遺伝するわけではないけれど、なりやすい体質は遺伝する。私達(母自身や私のこと)も気をつけないとね」と言われたことを覚えています。この病気をよく知っている母でも、いざ自分が発症すると、病識を持てず妄想に囚われて命まで絶ってしまうのかととても恐ろしく悲しくなりました。
そして、祖母・母と発症したこの病気をいずれ自分も発症するのではないかと不安になっています。私は祖母・母と見た目も性格もそっくりです。遺伝的素質は充分にあると思います。いくら健康な状態の私が知識を持っていても、いざ発症すると病識をもてないことは母の例からよく分かっていますので、夫にこの病気のことを説明し、あてはまる言動があればすぐに発症を疑って病院へ連れて行くようお願いしています。
万が一発症した後の対応は、そのようにしたいと思っているのですが、そもそも発症を防ぐことはできないのでしょうか?これだけ自分が遺伝的に病気になりやすいと分かっているのに、なす術がないことが悔しいです。女性は2-30代や更年期の年齢に発症しやすいとのことから、その時期に環境の変化やストレスの多いことは避ける等、そういったことで防げるのでしょうか?(母でいうと、更年期の時期に、祖母の死という大きな変化があったことが発症の引き金だと考えています) 性格的に考え込んでしまいやすいので、思考法をトレーニングして楽観的に考えられるようにするとか、また予防的にメンタルクリニックに通うとか(これは、通い続けていれば、発症しても通院がルーティンなので発症を見つけてもらいやすいのではという意味もこめて)色々考えています。
私には娘・息子がいます。娘は私に見た目がそっくりです。そっくりなことは親として嬉しく可愛いのですが、この病気のことを考えると娘もいずれ病気を発症するのではと不安です。
何か少しでもできることはないのでしょうか。
林:
林先生に、統合失調症の発症は防ぐことができるのかをお伺いしたいです。
まず端的にお答えします。統合失調症の発症を防ぐことはできません。
お祖母様、お母様が統合失調症で、不幸な経過をたどっておられたのを目の当たりにしていた質問者が、ご自身やお子様も統合失調症を発症する可能性があること、そしてそうであればその発症を防ぎたいとお考えになることはよく理解できることです。しかしこのとき、最も大切なことは、「統合失調症の発症を防ぐことはできない」という事実を受け入れることです。そのうえで、ではどうするのが最善かを考える必要があります。その意味で、
夫にこの病気のことを説明し、あてはまる言動があればすぐに発症を疑って病院へ連れて行くようお願いしています。
質問者のこのご対応は最善だと思います。つまり、発症の兆しがあれば直ちに受診して治療を受けることです。
女性は2-30代や更年期の年齢に発症しやすいとのことから、その時期に環境の変化やストレスの多いことは避ける等、そういったことで防げるのでしょうか?
防ぐことはできません。発症の可能性をある程度は低くすることはできるかもしれませんが、「その時期に環境の変化やストレスの多いことは避ける」は現実には非常に難しいでしょう。
(母でいうと、更年期の時期に、祖母の死という大きな変化があったことが発症の引き金だと考えています)
それは結果から見ればそうかもしれませんが、その出来事を避けることは事実上不可能であったことは明らかです。
性格的に考え込んでしまいやすいので、思考法をトレーニングして楽観的に考えられるようにするとか、
それによって発症の可能性をある程度は低くすることはできるかもしれませんが、「ある程度」にとどまります。
また予防的にメンタルクリニックに通うとか(これは、通い続けていれば、発症しても通院がルーティンなので発症を見つけてもらいやすいのではという意味もこめて)
理論的にはそれは有効ですが、現実には、症状がない状態でメンタルクリニックに通院しても、十分に精密に診療をしていただける可能性はかなり低いでしょう。
私には娘・息子がいます。娘は私に見た目がそっくりです。そっくりなことは親として嬉しく可愛いのですが、この病気のことを考えると娘もいずれ病気を発症するのではと不安です。
何か少しでもできることはないのでしょうか。
発症の兆しがあれば直ちに治療を受ける。できることはこれに尽きると思います。
この病気に限らず、予防法がない病気はたくさん存在しますが、そうした病気に対しては「こうすれば予防できる」というデマが発生しやすく、また、「予防法がない」という説明よりも「予防法がある」という説明を信じたくなる気持ちもよく理解できるところですが、それは詐欺師に騙されやすい心理にほかなりません。
夫にこの病気のことを説明し、あてはまる言動があればすぐに発症を疑って病院へ連れて行くようお願いしています。
繰り返します。質問者のこのご対応は最善だと思います。つまり、発症の兆しがあれば直ちに受診して治療を受けることです。
ただここで、「発症の兆し」の内容が問題で、統合失調症の前駆期や初期は、統合失調症に一般に特徴的と言われている症状以外の形で兆候が現れることが非常に多いという認識をお持ちになることが重要です。ひとつの典型的な形はうつ状態で、しかも、うつ状態になってもおかしくないだけの出来事に反応したように見えることもしばしばあります。そういう場合、「これは心理的な反応だから、統合失調症の発症のはずがない」と思いがちですが、そうしているうちに悪化していくというのも一つの典型的なパターンです。統合失調症の「発症の兆し」は、あらゆる精神的不調の形を取る、とぜひ認識し、受診のタイミングを逸しないように十分にご注意ください。
以下のQ&Aも関連した内容ですのでご参照ください。
【2024】統合失調症に罹患したら自分が病気と思えないのだとしたら、統合失調症の症状について知っておいても意味がないのでしょうか
【3667】統合失調症とその病識について
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(2025.7.5.)