精神科Q&A
【2024】統合失調症に罹患したら自分が病気と思えないのだとしたら、統合失調症の症状について知っておいても意味がないのでしょうか
Q: 30代女性。林先生の精神科Q&Aの愛読者です。 統合失調症については、Q&Aでもよく取り上げられていますので、その症状についてはよく認識しているつもりです。 ですが、もし自分が統合失調症に罹患した場合、例えば「同僚が最近自分の悪口を言って、会社に来られないようにしている」とか「部屋に盗聴器が仕掛けられているようだ」とか「隣人の声が昼夜を問わず聞こえてくるようになった」などの被害妄想や幻聴が現れた場合、今の私の精神状態なら、「これは統合失調症の症状だと思われるので精神科を受診しよう」と思いますが、既に統合失調症を発症してしまった場合は、病識がなくなってしまうのでしょうか。周囲の人が異常に気がついて受診を勧めてくれても、自分は病気ではないからと病気を放置してしまうようになってしまうのでしょうか。 林先生、以上の疑問に対してご回答くださいますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
林:
既に統合失調症を発症してしまった場合は、病識がなくなってしまうのでしょうか。
病識というものは様々なレベルがあり、「統合失調症を発症したから、病識はなくなる」と単純にいうことはできません。もちろんケースによっては完全に病識がない場合もありますが(たとえば【1141】などでは、病識は完全に失われていると判断できます)、明らかに発症していても、ある程度の病識があるケースは多いものです。
また、発症のごく初期や前駆症状の時期には、ある程度の病識があるのはむしろ普通です。【2023】までのケースの多くがそうであることをご確認ください。
他方、【2020】のように、神秘的・超自然的な考えが急激に出てきた場合は、かなり初期の時点で病識がほとんどないことも多く、受診していただくまでにはかなりの困難を伴うのが常です。が、そういうケースでも、事後によく話をお聞きしてみると、神秘的・超自然的な考えが出てくるより前の時期から、被害妄想的な過敏さなどが目立たないながらも続いていたということがしばしばあるものです。したがって、
周囲の人が異常に気がついて受診を勧めてくれても、自分は病気ではないからと病気を放置してしまうようになってしまうのでしょうか。
とは限りません。
むしろここで指摘したいのは、異常に気づいた周囲の人が、その異常は統合失調症という重大な病気の兆候であるという意識をお持ちになるかどうかが重要だということです。この意識がないと、精神科受診を勧める周囲の人の気持ちが今ひとつはっきりせず、躊躇しているうちに症状が悪化し、余計に受診しにくくなるということが起こりがちです。ですから、
統合失調症については、Q&Aでもよく取り上げられていますので、その症状についてはよく認識しているつもりです。
そのように認識していただくことは、ご自身が統合失調症になった場合はもちろん、身近な方がそうなった場合に、大きな意義があると言えます。
そして、いかなる病気でも同じように、より早期の軽い時期に、さらには、前駆症状の時期に受診することができれば、さらにご本人のためであるといえます。
但し問題は、【2007】で少し詳しくご説明した通り、前駆症状らしきものがあったからといって、その後100%が統合失調症を発症するとは限らないことです。
100%どころではありません。20%から40%程度というのが、【2007】でもご紹介した数値でした。
引き続き、統合失調症の前駆症状の疑いのケースのご紹介を続けます。
次の【2025】からは、偽陽性について、これまでよりさらに留意した回答になります。
◇ ◇ ◇
【2000】から【2078】までの回答は一連の流れになっています。【2000】、【2001】、・・・【2078】の順にお読みください。
(2011.6.5.)