【4775】特定の方から事実無根の誹謗中傷を受けている

Q: 私は40代女性です。身内が営む個人商店が、特定の方(Xさん、女性・50 代)から事実無根の中傷を受けています。
素人考えながら、Xさんは統合失調症ではないかと思い、質問させていただきました。
以下、経緯を記載いたします。とりとめのない長文になってしまいますがご容赦ください。

Xさんは、半年前頃突然来店され、次のような主張を一方的に展開された (身内曰く、「怒鳴り散らした」)そうです。
・営業活動に伴って生じる振動が、近隣住民の健康を害し、乳幼児を殺している
・顧客の個人情報を闇組織に売っている
いう間でもなく、Xさんが指摘するような事実は一切ありません。事業内容もとりわけ振動が生じるようなものではありません。
また、Xさん自身に関して、次のように話しているそうです。
・商店が出す振動が神経に干渉し、健康を害された
・我が子の健康を案じており、店に対して強い不安と怒りを抱いている
・高名な記者と交流があり、この店のことを告発するつもりである
これ以降、1~2か月に一度の頻度で来店され、同様の主張をしているそうです。
身内に向かって「このような悪行を働いて良心が傷まないのか」と問い詰めることもあれば、道路に出て近隣住民に対して選挙演説のような口調で悪事を知らしめようとすることもあるようです。
目を見開き、顔を真っ赤にして声が枯れんばかりに叫んでおり、見るからに異様な様子だということです。
(私は直接居合わせたわけではありませんが、身内や近隣の方の証言には一貫性があるため、事実と仮定して記載させていただいております)
また、ネット上で店舗のクチコミに同旨の誹謗中傷を書き込まれています。
(これにより、Xさんの本名とSNSのアカウントが判明しました。後述します)

影響についてですが、近隣住民の方は知る限り誰も真に受けておらず、むしろ身内に同情してくださっているようです。
ネット上のクチコミについても、普段ネットを利用しない、昔から利用してくださっている顧客が大半のため、今のところ影響は出ていません。
身内は、はじめの頃は事実無根とはいえ記者に告発と聞いて少しまいっている様子ではありましたが、少なくともこの半年間Xさんは騒ぐばかりで実害がなく、今のところ警察に相談するつもりはないようです。

先述したXさんのSNSのアカウントをさかのぼったところ、Xさんは昨年あたりから支離滅裂な主張を他店や公的機関等にもされていることが分かりました。
この世は黒幕が存在し、Xさんのような善良な市民が巧妙に隠されたやり口で生命や財産を侵害されているという世界観に基づいておられるようです。
また、数年前に精神疾患で通院していたようですが、病名は不明です。直近1年の間に通院や服薬の記載はなく、その代わりに「医療機関は患者を薬漬けにする金儲け団体だ」といった趣旨の主張しておられます。
時折他人から反論を受けていましたが、自分の主張を非常に攻撃的かつ一方的に展開し、会話が成立しておりません。
これらのことから、Xさんは統合失調症なのではと推測するに至った次第です。

Xさんに対してどのように対処すべきか、素人ながら次の方法を考えております。先生のお考えをうかがえますと幸いです。
1.警察に相談する
長時間の居座り、誹謗中傷等で営業が阻害されていること、店の備品を興奮して叩く・蹴るなどの行為があるためです。
一方で、以前他の方へのご回答でもありましたが「警察に通報すれば、本人の妄想の確信を強めてしまう」可能性があり、逆効果でしょうか。
しかしながら、私の身の回りで、警察への通報がきっかけで措置入院となった事例を見たこともあります。このXさんは措置入院が必要なほど深刻な状態とは判断されないでしょうか。

2.Xさんの話に耳を傾けたうえで、こちらの主張を話す
いささか能天気かもしれませんが、事実無根の主張もXさん本人からすれば紛れもない真実であり、Xさんなりに家族や地域を守るために必死になっていると思うと、誰にも主張を聞いてもらえない現状はさぞつらいだろうと少しばかり同情の念を覚えます。
Xさんの話を傾聴したうえで、不安な気持ちに寄り添い、「そのような事実はありませんから、ご安心ください」と丁寧に説明することは、事態の解決につながりうるでしょうか。
黒幕が存在する等の妄想を根本から無くすには薬が必要ですが、「この商店がこういったことをしている」という妄想の枝葉の部分については、Xさんの不安が和らげば解消されるのでは……という考えです。
事実を回答する方針とのこと、もし甘い考えでしたらはっきり仰っていただければと思います。

 

林: 質問者が推測しておられるとおり、このXさんは統合失調症でしょう。妄想性障害も考えられますが、統合失調症の可能性の方が高いと思います。
メールに書かれている内容はすべてXさんが統合失調症であることを支持していますが、いくつか例を挙げますと、

・営業活動に伴って生じる振動が、近隣住民の健康を害し、乳幼児を殺している
・顧客の個人情報を闇組織に売っている

このように、特定の個人ないし組織が(ここでは質問者の個人商店)に多大な被害を受けている・その個人ないし組織は、裏で大きな悪事を働いている、というのは、統合失調症(や妄想性障害)にかなり典型的な被害妄想です。

この世は黒幕が存在し、Xさんのような善良な市民が巧妙に隠されたやり口で生命や財産を侵害されているという世界観

このように「黒幕」に該当する個人ないし組織が陰で絶大な力をふるっているというのも、統合失調症(や妄想性障害)にかなり典型的な妄想です。

数年前に精神疾患で通院していたようですが、病名は不明です。直近1年の間に通院や服薬の記載はなく、その代わりに「医療機関は患者を薬漬けにする金儲け団体だ」といった趣旨の主張しておられます。

統合失調症として医療を受け、しかし何らかの理由で自ら治療を中断し(病識欠如が理由かもしれませんし、医療側に何らかの問題が実際にあったのかもしれませんが、統合失調症の治療中断(および、そもそも最初から治療を一切受けようとしないケースも)は病識欠如を理由とする場合が圧倒的に多いです。たとえば【3761】何回も薬をやめ再発している統合失調症の息子【3876】薬をやめてから私の統合失調症は悪化しています。けれども精神科通院には抵抗があるのです。【3816】医療の中から幻聴という名の偽りの言葉を取り消していただきたい【4025】薬を減らしてくれるという医師の病院に転院したい【4173】統合失調症と診断されていますが、いまだに半信半疑で、薬を飲むことに抵抗があります京都アニメーション放火殺人事件 の被告人Aも同様です。)、その結果病状が悪化したのでしょう。薬を忌避するというのもこういう場合の典型例で、その忌避に伴い、服薬を勧める医療機関を非難するのもまた典型的です。

このようなケースは、精神科で治療を受ければ改善が期待できるわけですから(たとえば【4731】統合失調症と診断され治療を受け回復しました。今は自分が病気だとわかります。【4684】未治療、あるいは治療からドロップアウトしてしまった統合失調症や妄想性障害の患者さんたちに、なぜ医療は介入できないのか【4706】「もう少し早期に精神科医療に繋げてあげられるような仕組み・枠組みを構築できないか」という想い  というような疑問・想いが発生するのは自然です。けれども【4684】の回答に記した通り、現実には様々な問題があり、この【4775】のような方に実際に治療を受けていただくのは容易ではありません。

2.Xさんの話に耳を傾けたうえで、こちらの主張を話す
事実無根の主張もXさん本人からすれば紛れもない真実であり、Xさんなりに家族や地域を守るために必死になっていると思うと、誰にも主張を聞いてもらえない現状はさぞつらいだろうと少しばかり同情の念を覚えます。

質問者がそのようにお考えになるのは自然で(「少しばかり」という部分を自然とみるかどうかは別です)、

Xさんの話を傾聴したうえで、不安な気持ちに寄り添い、「そのような事実はありませんから、ご安心ください」と丁寧に説明する

多くの心ある人はそのように考え、実際にそのように行動されるのですが、いくら丁寧に、また、「そのような事実はない」という証拠を示しても納得されないのが妄想というものです。したがって、

・・・と丁寧に説明することは、事態の解決につながりうるでしょうか。

まずつながることはありません。もちろん、妄想内容を頭から否定することに比べれば適切な対応です。しかし、

黒幕が存在する等の妄想を根本から無くすには薬が必要ですが、「この商店がこういったことをしている」という妄想の枝葉の部分については、Xさんの不安が和らげば解消されるのでは……という考えです。

最もうまくいったとしても、Xさんの不安が一時的に多少は和らぐといった程度で、「妄想の枝葉の部分については、・・・解消される」ことはまず期待できません。逆に、「自分たちの悪事を認めようとせず、嘘ばかりついている」と非難攻撃が高まるおそれも否定できません。

1.警察に相談する
長時間の居座り、誹謗中傷等で営業が阻害されていること、店の備品を興奮して叩く・蹴るなどの行為があるためです。

この【4775】のケースでは警察に相談することが適切だと思います。「店の備品を興奮して叩く・蹴るなどの行為」などは他害行為ですから、措置入院の要件を満たすと考えられます。

一方で、以前他の方へのご回答でもありましたが「警察に通報すれば、本人の妄想の確信を強めてしまう」可能性があり、逆効果でしょうか。

これは精神科Q&Aのどの回答を指しておられますでしょうか。「警察に通報すれば、本人の妄想の確信を強めてしまう」可能性 は、当然にあることはありますが、実際に他害行為がある場合には、妄想の確信を高めることを理由に警察に通報しないというのは適切でないでしょう。他害行為をどこまでも容認するおつもりであれば別ですが。

しかしながら、私の身の回りで、警察への通報がきっかけで措置入院となった事例を見たこともあります。このXさんは措置入院が必要なほど深刻な状態とは判断されないでしょうか。

上記の通り、現に他害行為がある以上、措置入院の要件は満たしています。(法律の文言上は、「自傷他害のおそれ」ですので、まだ他害行為がなくてもそのおそれがあれば要件を満たすことになりますが、実際には「おそれ」を正確に判定することは不可能ですので、現に他害行為があったかなかったかの方が重視されるのが現実です)。ただし措置入院の適応基準は、都道府県によってかなりの差がありますので、【4775】の質問者の地域でどうであるかはわからないというのが正確な回答になります。

(2023.1.5.)

05. 1月 2024 by Hayashi
カテゴリー: 妄想性障害, 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: , , |