【4487】自分はADHDなのではないかと疑っているのですが,病院に行くべきでしょうか

Q: 私は30代の男性、研究者です。任期付きの研究職を得ています。
自分はADHDなのではないかと疑っているのですが,病院に行くべきかがわからないので,こうしてご相談を差し上げた次第です。
具体的に言うと,メールを見られずに困っています。
以下に,詳しく経緯を記します。

20代の終わり頃になって,親から「お前はADHDなのではないか」という旨のことを言われました。子供の頃から薄々思っていたそうです。半信半疑だったのですが,ネット上の「ADHD診断」のようなものをやってみて「そうかもしれない」と思い始めました。というのは,診断には当たり前の項目ばかりが並んでいたので,高得点を叩き出しても「こんなの誰にでも当てはまるだろw バーナム効果じゃんw」と最初は思っていたのですが,家族や友人にやってもらったところ「まったく当てはまらない」という答えばかりだったからです。

思い返せば,子供の頃から,
・部屋を片付けられない
・貧乏ゆすりが多い
・自分の関心があることを滔々と喋ってしまう
・忘れ物や遅刻が多い
・長時間じっと座っているときは何かをいじらずにはいられない(腕時計など)
・長時間(数十分程度)座っていると舟をこいでしまう(数学の追試,親族葬儀,OB訪問,実習中の講義聴講などで居眠りをしてしまったことがあります)
などの症状がありました。自分がだらしない(もしくは体力がない)だけかと思っていたので,「眠気」も症状の可能性があると知ったときには驚きました。

そのうえで,在籍していた大学院の相談窓口に赴いて相談してみたのですが,どうやら常時相談員が常駐しているわけではなく,学内のシステムから予約を取らなければいけない,ということを知って,面倒がって行きませんでした(予約というものが嫌いで,めったに予約は取りません)。

そのときは,なんだかんだで大学院に進み,博士課程にも進めているのだから,別に病院なんて行かなくてもいいじゃないか,社会適応できているじゃないか,と思っていました(博士課程への進学が社会適応かどうかについてはひとまず措きます)。

しかし,メールが見られずに不利益を被るというのが何度も起きていて,自分は社会適応できていないんじゃないかと思い始めました。メールの返信に問題がないときはスムースにメールのやり取りができるのですが,一度返信すべきメールを放置してしまってそれへの催促が届いていたりすると,気が重くなって,返信を放置するどころかメールボックスを見ることを避けることが増えました。ひどいときは数か月単位で放置してしまいます。

1つの案件について放置しているだけならまだしも,メールボックスを丸ごと見られなくなっているので,巻き添えで他の案件にも影響が及ぶようになりました。たとえば,ある案件で煮詰まってメールが開けなくなったとき,数か月後,別件で送っていた外国語論文の査読結果が届いており,それへの修正期限に間に合わず,結果として論文を落としたことに気づきました。危うく取り下げ扱いになりそうだった論文も2本ほどあります。科研費やポスドク職への応募に関するやり取りでも放置してしまっていました。事務や同僚や学会関係者からも忠告やお叱りを受けています(学会発表をする際に,事前のレジュメ提出などをせず連絡もつかないということが複数回あったので。学会直前になって「で,あなた結局報告するんですか? しないんですか?」という電話をいただいたことも何度かあります)。
(学会発表などで,「討論者は自分で用意してね」という形式のものがありますが,原稿はだいたいできているのに恩師か知り合いに依頼するというだけのことがどうしてもできず,結局自分で討論者を用意できなかったこともありました)

そして放置しているあいだは,放置していることが気になってちっとも研究や他のことが手につきませんでした。何度もメールボックスを開こうとしてできず,結局ネットサーフィンなんかをしてしまい,「今日もメールボックスを開けなかった……」と重い足取りで帰る日が続いて,正直これはまずいんじゃないのい始めました。順調なときは本当にきちんとメールボック スをチェックしているので,同僚からも「なんで?」と思われているようです。

林先生にご相談したいのは,私のこのような行動は病院に行くほど重いのかそうではないのか,そして病院に行ったとして行動が改善される見込みがあるのかということです。気が重いことは避けるのが習い性になってしまっていて,もはやそうではない自分を想像することができません。薬を飲むことでメールボックスを見られるようになるのでしょうか。普通に事務的なやり取りができるようになるのでしょうか。それともこれは習い性だから改善される見込みはないのでしょうか。あるいは,私は自分がADHDだと思い込んでいるだけの怠惰な健常者なのでしょうか。お答えをいただけますと幸いです。

 

林:
私のこのような行動は病院に行くほど重いのかそうではないのか

現実の生活に大きな支障をきたしており、その背景にはADHDがあると推定されますので、「病院にいくほど重い」と言えます。

病院に行ったとして行動が改善される見込みがあるのか

あります。ただしADHDの診療に熱心な病院を選ぶ必要があります。ADHDの診断だけなら精神科であれば行えるはずですが、診断をつけるだけの、いわゆる「診断のつけ捨て」という事態になり、診断をつけるだけであとは何もしてくれないことがあり得ますので、どこの精神科でもいいというわけにはいきません。

薬を飲むことでメールボックスを見られるようになるのでしょうか。

ADHDの治療は薬とは限りません。治療法を含め、受診した病院でよく相談されることをお勧めします。この【4487】のケースでは、メールボックスを見られないという問題が薬を飲むことで解決する可能性はあると思いますが、「薬で解決できる」ということと、「薬を飲むべき」は別の問題です。ADHDにおいては特に、薬物療法の開始は慎重に決める必要があります。林の奥 の、ADHDの薬、それは治療か商売か もご参照ください。

(2022.4.5.)

05. 4月 2022 by Hayashi
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