【4011】適応障害における睡眠薬処方の必要性について
Q: 会社員の女性、中間管理職、50代です。
あるプロジェクトに担当者としても関わるようになり、超過勤務、休日出勤などを重ねる中、段々と気力や集中力を失い、ある日メールの文章が何度読んでも理解できない、勤務中にも関わらず涙が止まらないなどの症状が出たため、同僚に報告、早退し、その日のうちにメンタルクリニックを受診し、適応障害による重度の抑うつ状態と診断されました。
抗うつ剤としてイフェクサー(当初は37.5mg)、睡眠障害に対してはゾルビデム5mgを処方されました。
勤務はその後、折々休みながらも続けていましたが、イフェクサーを段階的に150mgまで増量し、6ヶ月が経過しても、疲れやすい、気力が起きない、集中力も著しく欠ける等が続いたためかなり休みがちになり、会社と相談してまとまった有給休暇を取りつつ休職の手続きを進めているところです。
その間、睡眠障害(寝つきが悪く朝方4時ごろまで眠れない、眠れる時も3~4時間で目覚めてしまう)も続いており、ゾルビデム10mg → エバミール2.0mgを処方されていましたが、短時間睡眠(2時間~4時間)が改善されないため、医師に相談したところ、フルニトラゼパム2mgを処方され、昨夜服用したところです。
しかし、明け方、起床前近くに非常にリアルな悪夢の繰り返しがあり(実際の自室に様々な、現実にはあり得ない人物が入ってきて、夢かと気付き、起きたかと思うとまたそれが夢の続きでまた有り得ない人物が入ってくるの繰り返し)、戸惑っているところです。
質問は、睡眠障害というものの改善が、適応障害における抑うつ状態の改善に必要不可欠なのかどうかです。
現在の抑うつ状態は、発症前を10、発症時を1の状態とすると、3~4の低空飛行といった感じで、ひどい落ち込み等の気分障害はありませんが、何かをする気力や集中力はなく、何も楽しむことはできず、日中はほぼ横になっている状態です。
勤務を続けている際は、遅刻をしないために睡眠の改善を必須と考え、睡眠薬の処方も守って服用していましたが、自宅で休むことができるようになった現在、寝付きが悪いこと、睡眠時間が短いことに必ずしもこだわらなくて良いのではと、フルニトラゼパムの服用後、考えてしまいました。
リアルな悪夢が副作用かどうかは分かりませんが、薬のベネフィットというには心理的な悪影響の方を感じてしまい、眠れないなら眠れないで良いのではないかという気がします。もちろん医師には相談するつもりですが、先生は如何お考えでしょうか。
林: あなたは適応障害ではなく、うつ病だと思います。うつ病に対し、イフェクサー37.5mgで開始し徐々に増量するという治療は適切なものですが、
イフェクサーを段階的に150mgまで増量し、6ヶ月が経過しても、疲れやすい、気力が起きない、集中力も著しく欠ける等が続いた
という経過をみますと、イフェクサーの効果はまだまだ不十分ですので、225mgまで増量するか、または、別の抗うつ薬等に変更するのが現時点では推奨される方法です。このままイフェクサー150mgを続けてもあまり改善は期待できないでしょう。
ご質問の中心は睡眠薬の使用についてですが、質問者の病状に鑑みれば、睡眠薬よりも抗うつ薬による治療の方がはるかに重要な事項です。
それはそれとして、フルニトラゼパムの開始と悪夢に明らかな時間的関係があるようですので、フルニトラゼパムは中止し、他の睡眠薬にかえるのが適切でしょう。質問者は睡眠薬の必要性に疑問を持っておられ、それは全く不合理な疑問とは言えませんが、現在までの経過と症状からすると、今は睡眠薬を使ってでも十分な睡眠を取ることが回復のためには必須ともいえます。そして、繰り返しになりますが、それより何より、抗うつ薬の処方をさらに調整することが必要で、このままでは回復はなかなか期待できません。
この【4011】は、発症と仕事のストレスの間に明確な時間的関係がありますので、適応障害は確かに考えられる診断の一つにはなります。しかし、症状が適応障害としては重篤にすぎ、うつ病の色彩が濃厚なこと、そしてこれだけ症状が長引いていることからは、うつ病の可能性のほうがはるかに高いです。【2861】高圧的な上司の影響でダウンした私は擬態うつ病だったのでしょうか 、およびそれに関連する林の奥 のうつ病の聖杯 もご参照ください。
適切な治療を受け、回復されることを願っています。
(2020.3.5.)