【3438】主治医が入院を勧めたのは、単に自分の手に負えなくなったからではないか
Q: 20代男。プログラマーです。仕事柄、数年来、不規則な生活を続けていました。X年10月頃から頭痛(特に額の前面)や気分の落ち込みも激しくなり、無断欠勤も月に5回ぐらいありました。 睡眠リズムを改善するため、心療内科にX年11月頃から通い始めました。就寝前にマイスリー10mg トフラニール錠10mgを処方されてしばらく続けていました。 X+1年1月に彼女が妊娠し、仕事も忙しくなり、薬を飲まないこともありました。頭痛がさらにひどくなったように感じました。 X+1年2月上旬、睡眠中に激しい頭痛と嘔吐があり、即日頭痛外来に行きテルネリン1mg3食後、頓服としてロキソニン60mgを処方されました。それからも気分の落ち込みが激しく、妻に心療内科の受診を早急に進められました。 X+1年2月中旬、抑うつ状態と診断され、一週間休養をとることになりました。マイスリー、トフラニールに加え、ルボックス50mg、ドグマチール50mgを夕食後と就寝前に一週間分処方されました。それからの一週間は、めまい、頭痛、貧血気味、体の硬直、ぼーっとして何もする気が起きず、一日の半分以上を寝るという生活をしていましたが、うつが原因か薬が原因かわからない状態でした。 その一週間後、会社と家庭がストレスになっているのではないかということで、心療内科で入院を薦められました。その時点でも頭痛がひどく、自分では体の不調は睡眠が足りないからだと思っており自宅療養で様子を見ることにしましたが、妻との衝突でストレスもありました。その後、体全体がうまく動かせない状態になり、寝ていても起き上がれない状態になりました。自分はここで初めてストレスが原因で身体に異常があることで生命の危機を感じました。
ところがそれから、急に感情が高ぶりだしました。そして数日間多動・多弁、短期記憶もうまくできず、眠れない状態になりました。 さらにその3日後、心療内科で躁転したと診断されました。早急に入院することを強く薦められ、X+1年3月からの入院を決断し、ロナセン4mg、バレリン200mgを朝夕食後、マイスリー10mg、ベゲタミンB、セロクエル25mgを就寝前一週間分処方されました。 次の日、17時頃に急に舌がもつれるようになりました。20時頃悪化し舌が出っぱなし、顎が閉じず、よだれも出る状態になり、かなり苦しかったため救急車で精神科に診てもらい、アキネトン注射液5mg 0.5%1mL 1菅を注射してもらったところ症状おさまりました。ただ、薬が多かったかなとはその精神科医も言っていました。そしてアキネトン1mg、セルシン2mgを朝昼夕食後、サイレース1mg就寝前に2日分処方してもらいました(マイスリーは残りがあったのでそれを使うことにしました)。 入院直前、一度だけパニックで泣きじゃくりましたが躁状態はかなりおさまり、普通の状態に落ち着いてきました。気分も以前より良くなってきました。
入院する予定だった病院で経過を説明したところ、入院の必要がないと判断され、救急の精神科と同じ処方をしてもらい、自宅療養で元の心療内科に通院して下さいと告げられました。 当初から通院している心療内科は、いつも矢継ぎ早に患者をさばいていきます。入院を勧めたのもただ自分で手に負えなかったからではないかと思います。今となっては薬の量も適切ではなく、処方は間違っていたのではないかと思います。あまり患者のことを真剣に考えていないのではないかと疑って、信用できません。この心療内科医は信用すべきでしょうか?
林: この【3438】のケースのこれまでの経過は、
うつ状態 → 躁転 (入院予定) → 急激に薬の副作用出現 → 躁状態の鎮静化
と要約することができます。この経過中、躁状態の出現(躁転)をどう考えるかによって、診断はうつ病または双極性障害(躁うつ病)のどちらかに分かれます。すなわち、躁転を抗うつ薬の副作用(賦活症候群 activation syndrome) と考えれば診断はうつ病、躁転を抗うつ薬の副作用ではないと考えれば診断は双極性障害(躁うつ病)となります。これだけの経過から、このどちらであるかの判断は困難ですが、記されている症状と経過からは、どちらかと言えば双極性障害(躁うつ病)の可能性のほうが高いと思います。
いずれにせよ、躁状態に対しては薬物療法が必要です。この【3438】のケースでも、それまでの抗うつ薬とは異なる、躁状態に対する薬物療法が開始されましたが、急激に激しい薬の副作用が出現しています。すなわち、
急に舌がもつれるようになりました。20時頃悪化し舌が出っぱなし、顎が閉じず、よだれも出る状態
これは典型的な急性ジストニアで、抗精神病薬で出現し得る副作用です。対して、アキネトンの注射は適切な対応ですが、内服薬をどのようにされたかの記載がないので(その日の処方については記載されていますが、それまでの薬をどう変えたかについての記載がない)、副作用出現以後の薬物療法が適切であったか否かは不明です。
但し、躁状態は何らかの理由で鎮静化していますので、予定していた入院が取りやめになったのは当然でしょう。また、それに伴い元の主治医に戻されたのも自然です。
そこで質問者の疑問は、「元の主治医が信用できるか」ということですが、その疑問が生まれた理由としての、
入院を勧めたのもただ自分で手に負えなかったからではないかと思います
これはあまり正当な理由とは言えないでしょう。仮に「自分の手に負えなかったから入院を勧めた」のだとしても、逆に、手に負えないのに他の医師に紹介しないほうがはるかに悪い医療です。「自分の手に負えなかったから入院を勧めた」は正当な医療です。
また、この医師の処方によって急激な激しい副作用が出現したのは事実ですが、そのときの処方そのものは決して標準から著しく逸脱したものとは言えません(ロナセン、ベゲタミンB、セロクエルと3種類もの抗精神病薬をいきなり同時に処方するのは、好ましいとは言えませんが、著しく逸脱した処方であるとまでは言えません)。したがって、
薬の量も適切ではなく、処方は間違っていたのではないかと思います。
そのように言うことはできません。激しい副作用が出現したのでまずかったというのは結果論です。
さらに質問者は、
あまり患者のことを真剣に考えていないのではないかと疑って、信用できません
とおっしゃっていますが、これについては根拠が不明なのでコメントは不可能です。
(2017.6.5.)