【4963】ほぼ赤の他人であるものの毎週必ず会う人物が統合失調症の場合どのように過ごせば良いか

Q: 20代女性、大学生です。
同じ授業に出席しているというだけの関係性の方(以下A)が統合失調症からくる(と思われる)妄想によって苦しんでいました。
授業後の休憩時間、通信環境の不具合?何らかのバグ?によって課題が送信出来なかったことがきっかけで妄想が発露しました。
他人のことなのであまり詳細には書けませんが、Aの主張の要点を書き出すと、

「ノートパソコンが自分に意地悪している」
「だから殴ったり罵倒したりして懲らしめている」(実際に「バーカ!」「意地悪するな」などパソコンに向かって叫び、殴っていました。)
「でも親のパソコンだから破壊までは出来ない」
「それを見抜いているからパソコンは意地悪をやめない」
「パソコンを仕付けるためにみんなの前で大声で罵倒しなければならず恥ずかしい、それを見てまたパソコンが楽しむ」

ということのようです。

私は統合失調症というものの存在を前からなんとなく知っていた(林先生のQ&Aもたまに拝見しています)ので、
「あなたは間違っている、パソコンに意思があるわけないじゃないか!」
と否定するのは返って悪手だとわかっていましたが、ふと じゃあ私はどうすれば良いのか?と疑問を抱きました。

統合失調症患者との関わり方を調べても家族や友人目線での接し方ばかりで、99%関わりのない人目線の接し方には触れられていせんでした。
確かに道端ですれ違った人が統合失調症でもその人の身内に任せて無視しなさいというだけなのかもしれませんが……。

私ももう二度と会わないであろう人の統合失調症を治そうとするほど志は高くありませんが、なにぶんAは同じ授業に出席しているので毎週同じ空間で過ごすことになります。
そして妄想に関しても、例えば「自分の眼を見た人間は悪魔になってしまう」と言ってどんなときもサングラスをかけている くらいなら全然平気なのですがAの場合は、現状人間は標的ではないものの上記のように暴力的な面があるので少し恐怖感を抱いています。
そのうち妄想が肥大して「周囲の人間も自分を貶めようとしている」と人間がターゲットにならないことを祈っていますが……、そもそもパソコンへの妄想もAの症状の一部でしかない可能性が往々にしてあり、今回トリガーにならなかっただけで何か引っ掛かってしまったら標的にされることもありそうで怖いです。

Aは前述の主張をしているとき、たまたま通りかかった教授に声をかけて「先生何とかしてください!」と同様の主張をぶつけて、教授の配慮で別室へ連れていかれましたが、もし私に「酷いと思わないか!?」と振られていたら他人としてどう答えるのが正解だったかわかりません。
「違うよ、病院いこうよ」と言っても「間違いない、酷いパソコンだ」と答えても症状の悪化、妄想の定着、肥大を招いてしまう気がしてしまいます。

私や私以外の他人は、どう過ごすのが私たち そしてAにとって最善もしくは最適ですか?

 

林: 統合失調症であることがほぼ確実で、治療を受ければ回復が期待できるところが、本人に病識がなく、治療を受けていただくことが非常に困難。これは統合失調症をめぐってしばしば発生する事態で、この【4963】もその一例ということになります。
医療はいかなる場合でも、本人の意思を最大限に尊重することが大原則です。この大原則に従えば、本人に治療を受ける意思がなければ、誰にもその人に治療を受けさせることはできないということになります。ですから、あらゆる手を尽くして、本人に治療を受ける意思を持っていただくことが第一です。「あらゆる手」とは、たとえば【0427】殺人を依頼されました。引き受けると答えました。のような手も除外しないということになるでしょう。

それでも本人の意思で治療を受けていただくことができない場合や、そもそも「あらゆる手」といっても、手がない場合もあり得ます。この【4963】はそれにあたると言えると思います。
そのような場合には、ご家族であっても非常に困難で、友人であっても非常に困難ですから、この【4963】のようにほぼ他人の場合は、さらに非常に困難というのが現実です。法律上は、「精神障害者又はその疑いのある者を知つた者は、誰でも、その者について指定医の診察及び必要な保護を都道府県知事に申請することができる。(精神保健福祉法 第22条)」という条文がありますが、現実にはよほどのことがない限り、この条文の内容を具体的行動に移すことは困難ですし、仮に具体的行動に移しても(すなわち、通報しても)、本人の意思に反してまで治療をしなければならないという法的判断が下されるまでには非常に高いハードルがあります。

では、いかなる条件が満たされれば、本人の意思に反してでも治療をすることが許容されるのか。仮にその条件が設定できたとしても、必ず相当多数の人々がその設定された条件に反対されるでしょう。けれども、反対する人が存在するからといって何もしなければ、【1828】兄がひどく攻撃的なのですが、親族で話し合った結果、何か起こして警察沙汰になるのを待つしかないという結論に達しました【1868】統合失調症の夫は、医療からも司法からも見捨てられました 【1869】統合失調症の姉・・・結局どこにも頼れず、他人を傷つけ措置入院となりました などの悲惨な状況が何回でも繰り返されることになります。そのような悲惨な状況に至る前には、【0277】入院させたいが、保健所に相談しても人権のことばかり言われて何もしてもらえません。悪くなるのを黙ってみているしかないのでしょうか。【1859】統合失調症と思われる隣人の昼夜を問わない大声に近所中が迷惑しているが、警察も役所も人権を持ち出して何もしてくれない などの状況がしばしばあるものです。このような現実を直視すれば、最も適切なレベルの条件設定が必須であることは自明です。そのためには、人々に、統合失調症という病気についての事実を広く知っていただくことが第一歩です。関連して、【4684】未治療、あるいは治療からドロップアウトしてしまった統合失調症や妄想性障害の患者さんたちに、なぜ医療は介入できないのか【4706】「もう少し早期に精神科医療に繋げてあげられるような仕組み・枠組みを構築できないか」という想い もご参照ください。

(2025.6.5.)

 

05. 6月 2025 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: , , |