【4910】何もできなくて死にたいと思う (【4771】、【4798】のその後)
Q: 【4771】催眠術にかかっている感覚 、【4798】「慎重に治療を続ける」というのはこれでいいのでしょうか で質問した20代女性です。
前回質問したときは安定していると思っていたのに、質問後3ヶ月経った頃から憂鬱な気分になることが増え、どんどん悪化しています。
まず仕事に行くことが苦痛になり、休職しましたが良くならず、仕事を辞めてしまいました。
仕事を辞めて休んでいても良くなるどころか毎日死にたいとばかり考えるようになり、生きていることがつらくてたまりません。
働かなくてはと思っても、自分は何もできないと思えて働くことが怖いです。
アルバイトからでも始めようと思っても、独身で正社員じゃないことを周りから馬鹿にされるのではないかと思ってしまい、死にたくなります。
自分は何もできない、努力する気力もない、世間体が気になる、そういう思いで身動きできない状態ですが、死ねばすべて解決できるのではないかと思います。
それか、薬が悪いのではないかと思います。抗精神病薬を飲んでいるから、本来自然と生じるはずの気力や楽しさが抑えられているのではないでしょうか?
今飲んでいる薬はラミクタール50mgとレキサルティ1mgです。半年ほどこの処方です。
林: その後の経過をご報告いただきありがとうございました。
【4798】の回答に記した通り、この質問者は「基本的には双極性障害と診断できそうですが、統合失調症の色彩もそこここに見られる」と言えます。今回の【4910】でご報告いただいた内容からは、現在は、双極性障害らしさが前面に出た状態で、双極性障害のうつ病相にほぼ一致した病像が見られていると言えます。したがって現在の症状の治療としては、双極性障害のうつ病相に有効な治療が適切ということになります。
薬が悪いのではないかと思います。
質問者はこうした推定をしておられますが、この推定には根拠がありません。
質問者がこう推定された理由は、「いま具合が悪い。いま薬を飲んでいる。したがって、薬が原因なのではないか」という論理だと思います。ここだけを切り取ってみれば、この論理は不合理とは言えません。けれども、薬によってこの【4910】のような症状が出ることは医学的にも臨床統計的にもまず考えられないこと、【4910】の症状は双極性障害のうつ病相に一致していることからは、薬が原因であると考える根拠はありません。質問者が書いておられるように「抗精神病薬を飲んでいるから、本来自然と生じるはずの気力や楽しさが抑えられている」ということはあり得ないとまでは言えませんが、【4910】の内容は「本来自然と生じるはずの気力や楽しさが抑えられている」と描写できる範囲を大きく超えていますから、「「抗精神病薬を飲んでいるから、本来自然と生じるはずの気力や楽しさが抑えられている」ということはあり得ないとまでは言えない」という事実があっても、今の症状が薬であると推定する根拠にはなりません。
双極性障害のうつ病相の治療は複数あり、個々のケースによってどれが適切かは異なります。しかしこの【4910】では、半年ほど前の【4798】ではラツーダがうつ状態に有効だったことが明記されていますが、まずはラツーダを試みるのが最も適切でしょう。そもそも【4798】にはラツーダがかなりはっきりと有効だったことが記されているのに、【4798】から今回の【4910】のまでの間になぜラツーダが中断されたのかが理解しにくいとも言えます。今回のメールには「質問後3ヶ月経った頃から憂鬱な気分になることが増え、どんどん悪化しています」と書かれていますが、この経過とラツーダ中断との時間的関係はどのようなものだったのでしょうか。いずれにせよ、ラツーダを再開すれば、今の症状が改善する可能性はかなり高いと思います。
(2024.12.5.)