【4798】「慎重に治療を続ける」というのはこれでいいのでしょうか(【4771】のその後)

Q: 【4771】催眠術にかかっている感覚 の20代女性です。回答いただきありがとうございます。
「抗精神病薬の効果によって軽快した可能性もあります」と回答いただきましたが、私の場合は自然に軽快しました。なぜならそのとき処方されていたのはラミクタール50mgとレクサプロ5mgだけだったからです。ですが今はラツーダ20mgを処方されていて、ほとんど日常生活に支障なく過ごしています。

「慎重に治療を続けてください」とも回答いただきましたが、現状で良いのかわからないので、これまでの経過も書きます。
まず精神科にかかる前、学生の頃は常に憂鬱な気分を抱えて過ごしていました。具体的には一日中ベッドの中で過ごしたり、食器を洗う気力がなくてお皿にカビが生えたり、お風呂に入らなかったり、元々は綺麗好きなのに部屋の中がゴミだらけでも片付ける気力がない時期がありました。

大学を卒業してから今までの憂鬱さが嘘のように人生が楽しくなり、睡眠を削って仕事にも趣味にも意欲的になり、休みの日は趣味のイベントで県外に行き、夜行バスで朝帰ってそのまま仕事をしても元気だったりという生活を2ヶ月ほど続けていました。ただ睡眠時間が3,4時間だったので元気でしたが目眩がするようになりました。また、喋りすぎて声が枯れるときもありました。

大学卒業後1年ほどはとても楽しい人生でしたが、段々仕事でいい結果を出さないといけないというプレッシャーを感じるようになり、しかしなかなか仕事に取りかかれなくなり眠れず罪悪感を感じるようになりました。
それでもなんとか誤魔化しつつ仕事をしていたのですが、ある日、いつも仕事でアドバイスを貰っていた先輩のアイディアを盗んで、自分の成果にしてしまったことに気づきました。「気づいた」というのは、本当に私はアイディアを盗もうなどと全く思っていなかったのですが、気づいたらそうしてしまっていました。でも具体的に何を盗んだのか自分でもはっきりわからないうえに、周囲から盗んだと指摘されたこともないので、これが本当のことなのか妄想なのか未だにわかりません。自分の怠惰を認めたくないから妄想だと思いたいのかもしれませんし、でも本当にそんなことをするつもりはありませんでした。
とにかく取り返しのつかないことをしてしまってどうしていいかわからず、恐ろしくなり、精神科を受診しました。本当は、このままでは周りから訴えられるという恐怖に耐え切れなくて受診したのですが、こんな不当な理由で受診したとは主治医には話せなかったので鬱状態という診断になりました。憂鬱よりも恐怖心が強く、そのうち周りから訴えられ社会的信用を失くすと信じていて、普通に生活していると周りから非難される気がしたので家に引きこもっていましたが、どこからかバレているような恐怖がありました。
逃げるように仕事を辞めて、それくらいから催眠術にかかっている感覚もでてきました。どうにか罪を許してもらえるように毎朝神様にお祈りするようになり、これは今でも続けています。

それまで処方されていたのはラミクタールだけで、この頃にレクサプロも追加され、しばらくすると恐怖心や催眠術の感覚も薄れてきて、大学を卒業した頃のように活動的になってきました。新しい仕事にも就きました(初診から元気になるまで約1年です)。
元気なときは楽しいだけでなく、些細なことでイライラしたり、人前では我慢していても家で泣き叫んで物を投げたりすることもあります。時々我慢できずに人前で怒ったりしてしまい、それでラミクタールだけになっていたのですが、今度は本当に鬱状態という感じになってきたので(恐怖ではなく、常に憂鬱で休みの日も何もする気が起きないなど)ラツーダが処方されました。

ラツーダを処方されてからは自分の中で初めて「感情が安定している」という感覚がわかるようになり、半年ほど憂鬱でもなく活動的過ぎることもなく過ごしていました。ですが、薬を飲むとじっとしていられないような、でも思うように動けないような不快感が少しあり、我慢できないことはないけど嫌だったので、もう薬を飲まなくて大丈夫だろうと思って薬をやめました。
するとまた鬱状態になったので再度ラツーダを服用しています。

現在は、薬をやめるとまた状態が悪くなるのだと受け入れて、これからも継続して薬を飲もうと思っているのですが、林先生のご回答にある「慎重に治療を続ける」というのはこれであっているのでしょうか。結局、自分は双極性障害なのか統合失調症なのかわかりませんが、薬はやめてもいいけど異変を感じたらまた再開するというやり方でも「慎重な治療」と言えるのでしょうか。
長くなりましたが、またご回答いただければ幸いです。

 

林: その後の経過、そしてこれまでの経過のより詳細なご報告をいただきありがとうございました。

林先生のご回答にある「慎重に治療を続ける」というのはこれであっているのでしょうか。

はい、いま質問者が受けている治療、そしてその治療に対する質問者の姿勢は、いずれも適切だと思います。

自分は双極性障害なのか統合失調症なのかわかりませんが

確かにこれまでの経過を見ますと、基本的には双極性障害と診断できそうですが、統合失調症の色彩もそこここに見られるようです。統合失調症と双極性障害は、普通はどちらであるかはっきり区別できることが多いのですが、この【4798】ようなケースがあることは精神医学では昔から知られており、「統合失調症感情障害」「精神病症状を伴う双極性障害」などという診断名がつくことになります。ただ「統合失調症感情障害」にしても「精神病症状を伴う双極性障害」にしても、診断基準上の取り決めではそう診断するということにすぎず、「統合失調症と双極性障害の性質をあわせもつ病態」という程度の大雑把な認識の方が現実的だと思います。

診断名はともかくとして、【4798】のケースは今後慎重に治療を受け続けることが必要です。そしていま受けておられる治療はその意味で適切です。是非これからも油断することなく治療を受け続けてください。

(2024.3.5.)

05. 3月 2024 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症, 躁うつ病 タグ: |