【4843】未治療の統合失調症の友人を、何とか医療に繋げたい

Q: 30代女性です。同い年の統合失調症の友人Aに関する相談です。

彼女は20代の時に無職になり、その頃から「隣人が監視している」「トイレに盗聴器が仕掛けられている」と訴えるようになりました。
当時、統合失調症の知識のなかった私は「考えすぎだよ」と言って、医療に繋げてあげることがてきませんでした。

Aは、独り言と被害妄想が日に日に激しくなり、家族総出で無理やり精神科に入院させたそうです。
しかし、退院すると薬を飲まず、5年前に家出をしてしまい、住所は分かっているのですが、ご両親が何を言っても無視をする、部屋の鍵を絶対に開けないなど、ご家族を拒絶しています。

1年3ヶ月前頃、夜中の2時や3時に電話してくるという異常行動があったの、お父様に相談した所、統合失調症の入院歴があることが分かりました。

私も統合失調症で、今は寛解しています。
お父様に、私が統合失調症だとカミングアウトすることで、Aを医療に繋げられないかと相談され、実行してみたのですが、効果はありませんでした。

ご家族には、治療しないで放置した場合、統合失調症は大変なことになるので、合鍵を作って無理やりにでも早く医療に繋げてあげて下さいとお願いしましたが、お父様も既に匙を投げたのか、治療に繋げてあげることはしませんでした。

1ヶ月前、Aから独り言をぶつぶつ言っているようなメールが届き、「心配だから病院に行って欲しい」と強い口調で(私の態度が悪かったのかもしれません)言いました。
するとAは突然豹変して、「みんなと〇〇〇(彼女の住所)に居るんでしょ」「〇〇工業の〇〇さんの声が聞こえる。みんな怒ってる」「声優の〇〇さんを匿ってるでしょ、見放しな」などと支離滅裂なことを言い出したので、お父様に許可をもらって、警察を呼びました。
しかし、自傷他害のおそれはないと判断され、医療に繋げることはできませんでした。

そこで、Aを心配している旨と、病院に行きたくないなら保健所に相談し欲しいと伝えた所、「あんた頭おかしいんじゃない?警視庁に通報したから」と言われました。
正直、私もストレスで、幻聴が再発しています。

家族に入院させる意志がないので、何をやっても無駄だと、あきらめそうになります。
ただ、優しく明るかった友人に戻って欲しいので、質問させて頂きました。

どうにかして、友人を医療に繋げる方法はないものでしょうか?

 

林: 質問者がAさんのことを心配されていること、そして統合失調症の人を救うには精神科で治療を受けていただく以外に方法はないことを十分に認識され、何とかして医療に繋げてあげられないかと真摯に考えておられることはとてもよくわかります。
しかしながらこのような場合、友人という立場でできることは非常に限られています。【4818】異常に偏執的で攻撃的になった友人のこと【4737】統合失調症を発症し退学してしまった友人について、私たちはどうすればよかったのでしょうか などの回答の通りです。

1ヶ月前に、
支離滅裂なことを言い出したので、お父様に許可をもらって、警察を呼びました。

とされたのは、友人としてできるひとつの最大の方法だったと思います。
けれども、

しかし、自傷他害のおそれはないと判断され、医療に繋げることはできませんでした。

という結果になってしまい、質問者は大変失望されたことと思います。この段階で、警察官は、都道府県知事に通報することはできたはずです。精神保健福祉法23条に次の条文があるからです:

警察官は、職務を執行するに当たり、異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは、直ちに、その旨を、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。

Aさんの場合には、「自傷他害のおそれはないと判断された」とのこと、自傷他害のおそれがある場合に適用される措置入院は、実際には、「おそれ」をどの程度の「おそれ」がある場合に適用できるかという判断が難しいこともあって、ハードルはかなり高い(つまり、相当に確実な「おそれ」がなければ措置入院にはならない)のが現状ですが、23条は措置入院の「決定」ではありませんし、条文は「おそれがある者を発見したときは、直ちに、・・・ 通報しなければならない」というものですから、このAさんの場合、「警察官は、通報まではするべきだった」という解釈も可能で、そうすれば、医療に繋ぐ道筋はできた可能性はありますが、実際にはこの23条の適用もかなりハードルが高いというのも現実です。

統合失調症の方が、病識がないために医療を拒否し、結果として病状がどんどん悪化し、周囲の人も、そして何より本人も大変苦しまれ、結局は最悪といえるまで悪化した時点で、時にはかなり強引な方法によって入院する以外になくなる、あるいは時には自分や他人を傷つけた時点でようやく医療が開始される、というのが、何度となく繰り返されている実態です。このことを憂えている方はたくさんおられます。【4706】「もう少し早期に精神科医療に繋げてあげられるような仕組み・枠組みを構築できないか」という想い(【1082】、【4684】のその後)もご参照ください。

【4737】統合失調症を発症し退学してしまった友人について、私たちはどうすればよかったのでしょうかの回答に私は次のようにお書きしました:

友人としてできる有効なことがあるとすれば、それは現実的には、「Aさんのため」ではなく「統合失調症の人々のため」ということになると思います。それは統合失調症について正しい知識を持つことであり、それが広まるようにすることです。少なくとも正しくない知識を持たないこと、正しくない知識を広めないようにすることです。これが現時点では、つまり統合失調症についての社会の人々の知識が非常に乏しい、それどころか誤った情報が溢れているという現時点では、最も重要なことかもしれません。

「Aさんのため」に友人としてできることは残念ながらかなり限られていますが、「統合失調症の人々のため」には有効なことがあり、それは統合失調症について正しい知識を持つことであり、それが広まるようにすることです。そして、この【4843】は、質問者ご自身が統合失調症であるとのこと、統合失調症当事者の方の声は、統合失調症についての正しい知識を広めるためにはとても強い力があります。その「声」は、一方では、統合失調症の暗い面を強調する場合もありますが(たとえば【4679】他人の被害妄想を面白がって行う嫌がらせ行為について【4680】カモにされている統合失調症患者をなぜ見過ごすのかなど。結果として【2522】林先生はずいぶん無責任だけど精神科Q&Aは大好きですよのようなことも発生しています)、他方では、統合失調症の真実、すなわち、適切に治療を受ければ、健常者と同じような生活が十分に可能であることを、強い説得力とともに広めることができます。この【4843】の質問者は、こうして精神科Q&Aに質問していただいたことで、実質的にそれを行なっていただけていると思います。

(2024.6.5.)

05. 6月 2024 by Hayashi
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