【4737】統合失調症を発症し退学してしまった友人について、私たちはどうすればよかったのでしょうか

Q: 私は 20代女性です。
今はもう大学を卒業していますが、大学在学中に友人に起こった出来事について今でもどうするべきだったのかと考えてしまいます。
その出来事の発端は友人の1人(A)としますが、SNSに実名で悪口を書かれたというものでした。私を含めた友人たちが見てもそのような事実はなかったのですが、Aはそれを電車の中で言われたと感じているようでした。
その次に起こったのは大学構内を移動中、すれ違いざまに学生にあのSNSにあった人だと言われたみたいです。そのときAと一緒にいた別の友人はそんなものは聞こえていなかったと言っていました。
そして最終的にはLINEから情報が漏れている、だから探偵に依頼したと言い大学も休みがちになり、とうとう退学してしまいました。
長くなってしまいましたが、私が先生に聞きたいことは2つあります。
(1) 彼女は統合失調症の前触れのようなものを発症していたか
(2) 私を含めた友人たちがどう動けばAは退学せずに済んだのか
先生の回答を待っています。

 

林:
(1) 彼女は統合失調症の前触れのようなものを発症していたか

はい、ご指摘の通りです。彼女が統合失調症の初期または前駆期であったことは明白です。次のような症状はその時期のものとして典型的です:

SNSに実名で悪口を書かれた
それを電車の中で言われた
すれ違いざまに学生にあのSNSにあった人だと言われた
LINEから情報が漏れている
探偵に依頼した

(2) 私を含めた友人たちがどう動けばAは退学せずに済んだのか

Aさんは統合失調症を発症していたのですから、Aさんにとって最善のことは、一刻も早く精神科で適切な治療を受けることで、それ以外には方法はなく、退学を防ごうとするのであればそれしかない。まずこのことをはっきりと意識する方法があります。これを前提に、どうするべきであったかを考える必要があります。

病気であれば、治療を受けるのが最善であることはあらためて言うまでもありません。そして統合失調症には有効な治療法があります。それなのにAさんの場合、なぜそれができなかったのか。これはAさんの場合に限ったことではありません。統合失調症であることは明白なのに、治療を始めることができないままに悪化していく例は膨大にあります。その理由は単純ではありませんが、最も大きな理由の一つは、病識の問題です。統合失調症では病識すなわち自分が病気であるという認識が欠けていることが多く、自分の体験していること( Aさんでいえば、SNSに実名で悪口を書かれた それを電車の中で言われた すれ違いざまに学生にあのSNSにあった人だと言われた LINEから情報が漏れている など)は事実であると確信していることがしばしばあります。そうしますと、友人の方がAさんのことを心配し、受診を勧めても拒否される可能性が非常に高くなります。【1429】妄想的な友人に受診をすすめたら敵視されるようになってしまった はその典型的な例です。他方、統合失調症の方の病識は、ゼロではないことも多いので(たとえば【4731】の方は、「嫌がらせを受けているとは思ったものの、1割くらいはもしかしたら精神的な病気なのでは?と思った」と言っておられます。こういうケースもまた膨大にあります) 、すすめ方によっては受診に繋がることもあり得ます。

そうは言っても、その「すすめ方」は実際にはかなり難しいですし、適切なすすめ方をしたとしても成功するとは限りません。つまり、

私を含めた友人たちがどう動けばAは退学せずに済んだのか

そのご質問に対する端的な答えは、「どう動いたとしても相当に困難であった」というものになります。
友人としてできる有効なことがあるとすれば、それは現実的には、「Aさんのため」ではなく「統合失調症の人々のため」ということになると思います。それは統合失調症について正しい知識を持つことであり、それが広まるようにすることです。少なくとも正しくない知識を持たないこと、正しくない知識を広めないようにすることです。これが現時点では、つまり統合失調症についての社会の人々の知識が非常に乏しい、それどころか誤った情報が溢れているという現時点では、最も重要なことかもしれません。

このケースは退学という残念な結果になってしまっています。その後の経過が不明ですが、統合失調症が無治療のまま経過すれば、最悪であれば自傷他害が発生するに至ることもあります。
すると、本人の意思に反してでも治療をした方がよかったのか、それともそこまではすべきでないのかということまで考える必要があります。
このケースで言えば、Aさんの意思に反してでも治療をすれば、退学はしないですんだでしょう。ではそうすれば良かったのか。ここからはご自身でお考えいただければと思います。

(2023.10.5.)

05. 10月 2023 by Hayashi
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