【4717】ストラテラを飲んでから趣味を楽しめなくなりました

Q: 20代女性です。
2年前に心療内科でADHDであると診断され、アトモキセチン(ストラテラ)を飲むようになりました。 (コンサータよりストラテラの方が効果が緩やかだから、あなたに合っていると先生からは言われています。)
少しずつ量を増やし、飲み始めて8ヶ月経つ頃には処方できる限界の量?のものを飲むようになりました。

私はADHDで、不注意と一つの物事に集中できないこと、そしてそれらに起因する寝不足が主な症状? 悩み?です。
ストラテラがこうした悩みに対して効き目があるのかどうか、今でもよく分かっていません。
ですが、飲むとなんだか体が強張る?というか少し気分が悪くなって緊張した気持ちになります。喉が渇き、少し汗もかきやすくなります。
先生曰く、これが「集中し、頭の中が落ち着いている」状態らしいです。
確かに、仕事での事務作業のミスは減りましたし、会議のメモも取りやすくなりました。
このことを先生に伝えると、「それは薬がよく効いているということだから、このまま薬を飲み続けてください」と言われました。

本題に入ります。最近悩んでいるのが、趣味に没頭できなくなって生活がつまらなくなったことです。
私は元々ゲームやスポーツ観戦、手芸など趣味が多い人間でした。
同じゲームを夜通しで何日もやり続けたり、後先を考えず好きなチームの試合を遠い地方まで観に行ったり。
これは今考えるとADHD故の特性だったのかもしれません。

ですが、今はなんだかそれらのことに熱が入りません。
ゲームをやっていてもどこか頭が冷静というか、必死でのめり込むということが出来なくなってしまいました。1時間ほどやったらスッと飽きてしまうんです。
先生はそれは良いことだと言っていたのですが、私としてはそれでは生活がなんだかつまらないのです。(自分が我儘だとは分かっています)

たまに薬を飲み忘れるときがあって、その時はまた以前のように趣味に没頭できています。飲んで少しすると我にかえるので、やはりこれは薬の効果によるものだと思います。

これは良いことなのでしょうか。
先生に伝えると、きっと困ると思います。
日常のミスを減らして普通の人と同じように暮らすか、多少ぐちゃぐちゃでも刺激的な生活に戻るか。
どちらを取るのかという問題なのかなと思っています。

私のこの考えについて林先生はどう思われますか?
また、私はこのまま服用を続けるべきでしょうか。
うまく両立させる方法などはないでしょうか。

 

林:
A.
確かに、仕事での事務作業のミスは減りましたし、会議のメモも取りやすくなりました。

B.
趣味に没頭できなくなって生活がつまらなくなった

ゲームをやっていてもどこか頭が冷静というか、必死でのめり込むということが出来なくなってしまいました。1時間ほどやったらスッと飽きてしまうんです。

A.もB.もストラテラの効果です。A.については「薬が効いた」と表現するのが普通で、B.については「薬の副作用」と表現するのが普通ですが、「薬が効いた」と表現する立場もあり得るでしょう。

A.について、

このことを先生に伝えると、「それは薬がよく効いているということだから、このまま薬を飲み続けてください」と言われました。

とのこと、主治医の先生のこの言葉のうち、「それは薬がよく効いているということだ」についてはどこからも異論は出ないところです。しかし「このまま薬を飲み続けてください」が正しいのかどうかというのが今回の質問のポイントです。

B.について

先生はそれは良いことだと言っていた

主治医の先生のこのコメントは、B. を「薬が効いた」と表現する立場からのものということになります。
それに対して、

私としてはそれでは生活がなんだかつまらないのです。

質問者のこの感想は、B.を「薬の副作用」と表現する立場からのものということになります。

「必死でのめり込む」のは、その対象がゲームのような場合は、必ずしも良いこととは言えませんので、「必死でのめり込むことができなくなった」のは良いことだとみる余地がありますが、それはすなわち物事に集中することができなくなったということですから、その対象が何であるかによって、良いことの場合も良くないことの場合もあります。
したがって。

(自分が我儘だとは分かっています)

それは我儘とは言えません。

薬には常にメリットとデメリットがありますから、

どちらを取るのかという問題なのかなと思っています。

結局はそういうことになります。
したがって、どちらを取るかは本人次第、というのが一般的には正しいのですが、ただここで、精神科に特有の問題として、本人にはメリットとデメリットが適切に判断できない場合がしばしばあるという事実があります。たとえば全く病識がない場合は、本人にとっては薬のメリットはゼロですから、本人としては副作用に苦しむばかりでデメリットしかない ということになります。
しかしこの【4717】はそのようなケースにはあたりませんから、メリットとデメリットを衡量してご自身で判断なさることが適切だと思います。関連したこととして、【3868】コンサータによって自己の連続性を失いつつあるもご参照ください。【3868】はコンサータについてですが、ストラテラについても、また精神科のいかなる薬にも潜在している問題を【3868】から読み取ることができます。

なお、上記の通り、「ご自身で判断なさることが適切」ではあるものの、その判断の指針を示すのが本来は主治医の役割であると思います。「ADHDの症状にストラテラが有効である」ということだけなら、別に医師でなくても多くの人が持っている知識ですから、「ストラテラを飲んで良くなったのだから、飲み続けなさい」と指示するだけでは、精神科医としての仕事をしているとは言えません。
この【4717】のケースに具体的にあてはめれば、ストラテラをお飲みになる前は、

同じゲームを夜通しで何日もやり続けたり、後先を考えず好きなチームの試合を遠い地方まで観に行ったり。

という状態であったとのこと、そしてそれは質問者本人にとって充実し楽しい生活であったわけですから、ではその状態のままの方が質問者本人にとって望ましいと考えるべきなのか。このとき重要なのは、「同じゲームを夜通しで何日もやり続けたり、後先を考えず好きなチームの試合を遠い地方まで観に行ったり」という表面的な事実だけでは、その判断は困難であるということです。つまりたとえば、そうした行動のために、本来やるべき行動に支障が出ているのか。仮にいま支障が出ていなくても、そうした行動を続ければ将来に取り返しのつかないマイナスが発生すると予想できるのか。そうした点を、ご本人と詳細にわたって検討するのが精神科医の仕事であり、ただADHDにストラテラを処方するだけでは精神科医としての仕事をしているとは言えないでしょう。
(これは一般論であって【4717】の質問者の主治医の批判ではありません。なぜなら、メールには書かれていない事情があって、主治医の先生がストラテラを飲み続けることを指示されているかもしれないからです。すなわち、メールからは読み取れないメリットが、この【4717】のケースがストラテラを飲み続けることにはあるのかもしれないからです)

(2023.8.5.)

05. 8月 2023 by Hayashi
カテゴリー: ADHD, 発達障害, 精神科Q&A, 薬の副作用 タグ: |