【4113】双極性障害か、性格の問題か

Q: 30代女性です。
いつも拝読させていただいております。
先日、仕事をなくしてからというもの毎日やることがなくてだらだらしておりまして気分が落ち込み、過眠、過食、性欲の消失、読書等の趣味ができなくなる、発熱、世の中に対して申し訳ない気持ちで涙が出る等があり、あまりに疲れやすくて毎日眠いので、単なる怠けと甘えかなとは思いつつも状況を変えたく、治療できたらうれしいなと思い心療内科を受診しました。

すると双極性障害と診断され、びっくりしつつもとりあえず薬(ラモトリギン、エビリファイ)を服用しています。結果、すこし気分がよくなって日中の異常な眠気もなくなりそれなりに活動できるようになりました。しかし、それは単なる鬱気味か何かだっただけであって双極性障害ではないのでは?と思っています。その場合不要な薬は飲みたくないので、先生の意見を伺いたいです。本でラモトリギンは胎児に影響があるというのを読みまして、そのうち子供を産みたい気持ちもあり怖くなりました。

診察でお話した、双極性障害と診断された根拠となっているであろうエピソードは下記です。

・大学を出て希望の企業に就職するも上司に体を触られる等のセクハラがあり、会社に居づらくなって動悸、胸が苦しい等の症状が出て1年未満で退職。

・半年後起業し、それなりに成功。熱中しているときはあまり寝ずに働いていたこともあります。しかし過労と人間関係の悩みもあり2年ほど経って発熱や背中の痛みや動悸等の症状で心療内科を受診、自律神経が乱れているとのことで漢方薬など服用するも改善せず、仕事の能率も落ちてしまい申し訳なく感じ退職。自分で始めた事業だったので喪失感が大きく、資金もなくなってしまい無気力状態に。(仕事をしていた頃はいつも溌剌として元気ではありましたが人に対して攻撃的になる等は全くなく、人の顔色を過剰に気にするところもありどちらかというと気は弱いです。いつも優しいといわれており、部下からも安心して相談など受けていました。異常にお金を使う等の行動もまったくありません。)

・その後、徐々に心身を持ち直してまた同じ領域で個人事業主として事業を始めて軌道に乗り始めた頃に身内が急死。多額の借金があり、家庭がめちゃくちゃになり裁判を起こされるなど疲弊。深く落ち込みました。一時的に使命感から仕事をしまくり、仕事以外の時間はベッドの上でずっと泣いている生活。なぜか性欲だけが異常に亢進し、自己嫌悪に。

・その後、徐々に持ち直してとてもやりがいのある仕事を始め、自分の中のピークの頃ほどではないがそこそこ充実した日々を1年間ほど送る。その間、突発性難聴が発生してストレスが原因といわれるもあまりストレスの自覚のない生活を送っていました。しかしその仕事自体が取引先の不祥事の関係でなくなってしまい、やることがなくなり無気力になり現在に至ります。

・無気力状態で寝ているようなときは人に会うのもおっくうですが、会ったら会ったでけっこう楽しく、社交的に振る舞い、元気そうだねと言われます。
ときどき講演会等で登壇するような表に出る仕事が入ることがあり、その際は大変元気にでかけていって社交的に振る舞い、帰宅後も体調が良いです。

これらの話から、「ほとんど寝ずに精力的に働けるときと、過眠で寝たきりのときがあったり、性欲がありすぎたりなさすぎたり、浮き沈みが激しい」ということで双極性障害のⅡ型とみることも確かにできるとは思います。しかし一方でそれぞれのエピソードには理由があり、会社でセクハラにあって落ち込むのは普通、事業を始めてはりきってがんばるのもよくある話かと思いますし、その結果体調を崩して退職して落ち込むのも仕方ないかなと思います。身内が死んで落ち込んで無気力になるのも、今仕事を失って無気力になってしまっているのも、普通、あるいは性格の問題なのではないかという気もするのです。

しかし診察していただいた先生には「あなたはやることがコロコロ変わっている。例えば医者は20年くらいかけてひとつの道を極めるのに。」等言われました。たしかにお医者さんなどの専門職の方に比べたら私はたいして何も長続きしておらず情けなく思いますが、学生時代の夢が叶わずに就職し、残念ながら退職し、それからその分野で事業をやってみたものの体調不良で辞め・・・などそのときそのときに理由があったと自分では思っていて、しかしもっとがんばりたかったと悔しく思っているので、このように言われて怒られているような気持ちになってしまい悲しくて泣いてしまいました。

私は平均的な人に比べてここ数年浮き沈みが激しい人生を送っているかもしれませんが、個人的には夢中でがんばっているときはとても楽しく、友人や夫に確認しても、人への攻撃的な態度、浪費等の問題行動などは一切ない、確かに人一倍がんばっているなと思うときもあるがいつも穏やかにみえるということから特に人に迷惑もかけていないように思います。できれば無気力状態のときのみ、適切なのであれば薬の力を借りたりしてやっていけたらと考えています。
双極性障害だったら嫌だ、などとは思っていません。治療が必要であれば前向きに積極的に治療していきたいとは思っています。不要な薬を飲むのが怖いです。
私は双極性障害なのでしょうか。それとも単に今はうつ状態、もしくは仕事を失った結果怠け体質になってしまっただけなのでしょうか。とても困っており、先生のご意見をいただけますと本当にありがたいです。何卒よろしくお願いいたします。

 

林:
私は双極性障害なのでしょうか。それとも単に今はうつ状態、もしくは仕事を失った結果怠け体質になってしまっただけなのでしょうか。

わかりません。わかりませんが、双極性障害である可能性の方が高いと思います。理由は以下の通りです:

(1) 質問者自身が記載しているように、

「ほとんど寝ずに精力的に働けるときと、過眠で寝たきりのときがあったり、性欲がありすぎたりなさすぎたり、浮き沈みが激しい」ということで双極性障害のⅡ型とみることも確かにできる

と言えます。すなわち、少なくとも双極性障害の疑いはあるということです。

(2) 逆にそれを否定する根拠として、

一方でそれぞれのエピソードには理由があり、

という事実から、病気ではなく正常な心理的反応であるとする質問者の解釈も正しそうに見えます。
けれどもこれは双極性障害を否定する理由にはなりません。
なぜなら、双極性障害であっても、躁状態になるとき、うつ状態になるときには、何らかのきっかけがあるのは珍しくないからです。そして、双極性障害の本人は、自分の気分の波には理由があるから病気ではない、と考えるのはむしろ普通ですが、このときの「理由」は、客観的に見れば、気分の波とはとてもつりあわないレベルのものであることが大部分です。

(3) したがって(1)(2)からは、「双極性障害の疑いあり」「双極性障害を否定する根拠は見出せない」ということになります。しかしこれだけでは「双極性障害が否定できない」というだけですので、「双極性障害かもしれないし、そうでないかもしれない」とまでしか言えませんが、診察した医師が双極性障害と診断したという事実は、「双極性障害である」と推定する強い根拠になります。質問者が述べる、それぞれのエピソードのきっかけについての客観的事実と、それぞれのエピソードの具体的内容を把握したうえでの判断だからです。
但しこのとき、

診察していただいた先生には「あなたはやることがコロコロ変わっている。例えば医者は20年くらいかけてひとつの道を極めるのに。」等言われました。

という説明は、一見して不合理です。なぜならこれは、質問者のこれまでの経過を病的と判断した理由として、「20年くらいかけてひとつの道を極める」ということを質問者がしていないことを根拠にしていると読めるからです。現実には「20年くらいかけてひとつの道を極める」ことをしていない人はたくさん存在するわけですから、それをしていないからといって病的であると言えるはずがありません。
けれどもおそらくメールのこの部分は、医師の説明の一部を質問者が要約したためにこのような形になったのであって、医師は質問者が病気であることを説明するためのごく一部としてこの例を挙げたと推定できます。

(4)
私は平均的な人に比べてここ数年浮き沈みが激しい人生を送っているかもしれませんが、個人的には夢中でがんばっているときはとても楽しく、友人や夫に確認しても、人への攻撃的な態度、浪費等の問題行動などは一切ない、確かに人一倍がんばっているなと思うときもあるがいつも穏やかにみえるということから特に人に迷惑もかけていないように思います。

双極性障害の人の多くは、躁状態のときの自分を好むものです。
また、病的である部分を過小評価し、病的でない部分を強調するのも普通です。「人への攻撃的な態度、浪費等の問題行動などは一切ない」はまさにそれに一致しています。

(5)
できれば無気力状態のときのみ、適切なのであれば薬の力を借りたりしてやっていけたらと考えています。

双極性障害の人がそのようにお考えになることはしばしばあります。それは適切な場合もあれば、不適切な場合もあります。たとえば、躁状態の病的さについての本人の認識が過少であれば、不適切ということになります。この【4113】のケースで適切か不適切かはわかりません。

以上、この【4113】のケースは双極性障害である可能性の方が高いと思います。但しこの回答の冒頭に記した通り、「わかりません」の方が正確な答えです。

(2020.9.5.)

05. 9月 2020 by Hayashi
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