【3470】双極性障害、境界性パーソナリティ障害で記憶がなくなることは普通ですか

Q: 20代後半の女です。
10代の頃摂食障害を患い通院を開始し、大学2年の頃ほぼ完治。
就職後パニック障害を発症し、休職中に自殺未遂をし、うつ状態とのことで治療を開始、1年程で退職し療養生活を送り出しました。その頃は自殺願望、無気力感、首、背中の痛みなどに苦しみ、実家でほぼ引きこもりの生活となりました。

しかし家族関係の悩みから実家に居たくない気持ちが大きく、療養後半年頃から不特定の男性の家に泊まり込むなど活動量が増え食事は減り5kg程体重が落ちました。また、自殺未遂(首吊り、大量服薬)を繰り返すなど不安定な状態が続き、(服薬は続けていました)遂に療養から2年程で医療保護入院、救急搬送を繰り返すようになりました。入院前や入院中、入院直後などの記憶があまりないのですが、聞くところによるとお酒を大量に飲んだり薬を大量に飲んだり、リストカット、風俗勤務などをしていたようです。うっすらとは覚えているのですがあまり記憶がありません…が楽しそうにしたと思えば泣き出したり路上でリストカットをしたり飛び降り場所を探したりしていたようです…

今は入院時の主治医からの提案で、病院近くに一人暮らしをしはじめ、訪問看護などを利用し生活しています。療養三年目の現在は、無気力で外出もままならず(週に1度の通院はしています)、時々激しい不安や、思考が纏まらなくなったり、悪い考えが止まらなくなることもあります。体の痛みも継続しています。

入院時の主治医の診断は境界性パーソナリティ障害と双極性障害でしたが、今の主治医の処方はサインバルタ30、ジェイゾロフト25、デパス3と眠剤、頓服でリスパダール、鬱状態の治療の時に飲んでいた薬の量が減っただけのような感じです。薬が効いている実感もあまりなく、もう三年目、自分が怠けているだけなのか、今後良くなるのか、私は鬱なのか双極性障害なのかはたまた記憶がよくなくなるので(混合期や鬱が酷い時)解離しているのでは、もっと悪くなるのでは?と怖いです。服薬も看護師さんに確認してもらいきちんとしています。
双極性障害、境界性パーソナリティ障害で記憶がなくなることは普通ですか? 今のまま治療を続ければよくなるでしょうか。。
乱文、長文失礼しました。お答え頂ければ幸いです。

 

林:
薬が効いている実感もあまりなく、もう三年目、自分が怠けているだけなのか、

怠けているだけではないのは確かです。まずこのことを強くお伝えしたいと思います。治療を受けているにもかかわらず苦しい状態が続いているこのようなケースでは、時にご本人が自分は怠けているだけではないかとお考えになることがありますが、この【3470】のケースは怠けということはありません。病気です。但し診断が難しいケースです。

入院時の主治医の診断は境界性パーソナリティ障害と双極性障害でしたが

とのことですが、それはあり得ない診断名です。境界性パーソナリティ障害双極性障害は区別がつきにくいことがありますが、両方が合併することは(少なくとも現代の精神医学の標準的な考え方に基づけば)あり得ません(診断基準上は別の話です)。当初は双極性障害と診断されていて、後に境界性パーソナリティ障害であると診断が変更されるケース、及びその逆に、当初は境界性パーソナリティ障害と診断されていて、後に双極性障害であると診断が変更されるケースは比較的よくあります。このような場合の双極性障害は多くの場合双極Ⅱ型障害です(【2707】私は境界性パーソナリティ障害ではなく、双極 II 型障害だったのでしょうかなどをご参照ください)。
この【3470】のケースは、どちらかというと境界性パーソナリティ障害の可能性のほうが高そうに見えますが、わかりません。双極性障害の可能性も十分にあると思います。このような場合の治療方針は医師によっても異なってきますが、もし私が治療を担当するのではあれば、現時点では双極性障害として治療をするでしょう。というのは、双極性障害であれば、適切な薬物療法によって大きく改善することが期待できるからです。その意味で現在の【3470】の処方は疑問です。これはうつ病の処方であって、双極性障害の処方ではないからです。(但し、これは精神科Q&Aの常ですが、私の回答はあくまでもメールの記載内容だけに基づいています。すなわち、メールに記載されている症状と経過からは、境界性パーソナリティか双極性障害か判定困難ですが、症状記載の描写にはかなりの限界がありますので、実際に直接診察しておられる医師は別の印象・診断をされていることも十分に考えられるからです)。

なお、

双極性障害、境界性パーソナリティ障害で記憶がなくなることは普通ですか? 

これに関しましては、「普通ではありません」が答えになります。但し質問者もお書きになっているように、経過中に解離が発生し、その結果記憶が失われていることはあります。これは境界性パーソナリティ障害でしばしばあります。

また、この【3470】のケースでは

入院前や入院中、入院直後などの記憶があまりないのですが、聞くところによるとお酒を大量に飲んだり薬を大量に飲んだり、

とのことですので、このときの記憶障害はアルコールや薬によることも考えられます。

(2017.7.5.)

その後の経過 (2020.7.5.)

05. 7月 2017 by Hayashi
カテゴリー: サイトの方針, パニック障害, パーソナリティ障害, 境界性人格障害, 拒食症, 精神科Q&A, 躁うつ病