【3442】躁状態になったことがないのに躁うつ病と診断されている  

Q: 私は60代女性です。 主人(64歳 退職しており現在無職)は、2年前の10月心筋梗塞を発症しました。ステント留置をして現在は、特に症状もなく生活しています。が、心筋梗塞のショックで、だんだん食欲がなくなり、何事にも興味がなくなり心療内科を受診してうつ病と診断されました。昨年2月です。
そしてスルピリド150/日とトラゾドン25m/日(夕食後1回)、セニラン1mg/毎食後、サイレース1mg、ルネスタ/就寝前を処方され、1か月ほどで、食欲がもどり、新聞や本が読めるまでに回復しました。しかし、その年4月に歯痛が起こり、歯科をいくつか回るうちに不安が出て、うつ病が戻ってしまいました。
不安が大きくなりましたので、処方が変わり、トラゾドンに代わり、トリプタノールが一日10mgから25mgまで4週間で増えました。ただ、状況がよくなりませんでした。
それから、同じ年の6月よりトリプタノールを徐々に減らしながら、ルボックスを25mg/日からスタートし、2か月かけて150mg/日まで増やしました。
これは、主人の兄が3年前にうつ病を発症し、ルボックスで寛解したからです。主治医によると、親や兄弟に効いた薬は、本人にも効く可能性が多いからというものでした。ルボックスは途中、オランザピンとも併用しました。
しかし、効果はなく、生活は、朝食(8時)、その後、20分ほどしたら、また、ベッドに戻り2度寝、10頃起きて、30分ほど散歩する。 昼食後も、30分くらいして午後寝。 夕方起きて、散歩したりテレビを少し見る。ただ、新聞や本、テレビドラマなどはまったく見ることができないという生活でした。
ルボックスは2か月試しましたが、効果がないため、最初にトラゾドンが効いていたということで、戻します(8月からです)スルピリドは途中、錐体外路症状が出ているようなので中止になりました。トラゾドンは25mg/日から再スタートし、3か月ほどで最高150mg/日まで増やしました。しかし、不安は消えたものの本やテレビといった意欲がまったく戻らず、毎日やることがない、味気ない生活になりました。12月ごろより意欲が出る薬をお願いしますというと、トラゾドンが徐々に減り、オランザピンが新たに加わりました。トラゾドン100mg/日、オランザピン10mgが2か月くらい続きました。
しかし、一向に意欲は出ず、今度は、眠気が出てきました。薬の副作用かもしれないということで、2か月ほどで徐々にトラゾドンがなくなりました。
しかし、状況はほとんど変わらずです。(眠気は薬の副作用ではなく、うつ病の症状のようにわたくしには見えましたが)
トラゾドンがなくなりましたので、その代わりにリフレックス15mgが処方されました。その後、滑舌が悪く話しづらいということで、オランザピンも4週間ほどで徐々に減らし、現在はフレックス30mgのみとなりました (今年4月)。そして、少し方向転換するといわれて、炭酸リチウムを200mg/日が追加になりました。
サイレースやセニラン、ルネスタは発症した最初からほとんど変わっていません。睡眠は診察していただいた当初から眠剤のおかげでよくとれていると言います。
ただ、私が、抗うつ剤を増やすか追加してほしいとお願いすると、先生は、主人には躁うつ病の疑いがあるかもしれないといわれました。ですから炭酸リチウムを追加してみるということです。
先生は、ルボックスを使い始めた頃より、主人には躁うつ病の影が隠れているかもしれないと思われていたようです。ですから、オランザピンや炭酸リチウムを処方するといわれました。
しかし、私は、主人と結婚して30数年になりますが、一度も主人は躁状態になったことはありません。主人は、温厚な人柄で40年間サラリーマンを勤め上げ、家族に声を荒げることもありませんでした。もちろんうつ病である現在でもイライラしたり家族にあたったりはしません。
うつ病の治療をしてもらいたい私どもはどのようにするのがよいでしょうか。
主人は、退職しており、今後復職しなくてはいけないとかいうストレスはありません。ただ、退職後すぐ心筋梗塞、うつ病を発症して、老後を楽しみにしていたので、不憫に思えます。サラリーマン生活からやっと解放され、これから少し楽しもうと思っていた矢先なのです。うつ病になってからもイライラしたり怒ったりすることはありませんが、口数が少なくなり、じっとしていることが多いです。毎日の生なぜ、主治医が躁うつ病の可能性があるかもしれないと思われたかというと、主人の兄が2年前うつ病になったときに、いろいろ薬を試した結果、ルボックスで劇的によくなったと言ったことに関係しているようなのです。そのように言った時、主治医は「劇的によくなるというのは危ないのだ」のような発言をしていました。先月改めて、躁うつ病と思われる根拠を尋ねたところ、家族に精神疾患患者がいることが大きいといわれました。ですが、実際に兄を診察したわけでもない主治医がなぜ、兄のことを躁鬱病であると判断したのか理解できません。兄は、ルボックスとリフレックスでほぼ寛解し、現在も薬は服用中ですが、元気に暮らしています。しかし、診断は相変わらずうつ病です。
また、主治医は、SSRIには、否定的で、特にパキシルなどはとんでもない薬だとおっしゃいます。うつ病に効くという意味で、抗うつ剤は、三環系のみであるという持論をお持ちです。また、オランザピンを併用されるのが多く、ルボックスやトラゾドン、リフレックスといつもオランザピン併用です。そして、オランザピンを増量する時は、必ず、抗うつ剤の量が減ります。私どもとしては理由がよくわかりません。状況もよくなっていないからです。
今後、この先生のもとで治療を続けるのがよいのか、もう少し、薬に対しても好みがなく、患者に合わせた処方をしていただける先生を探すのがよいのか迷っています。
また、転院した場合、この主治医からの紹介状を持っていくとなると、主人の診断に躁うつ病がつくことが考えられます。実際、現在は躁うつ病のうつ状態だろうといわれています。このような紹介状を見れば、次の医師からもうつ病の治療はしてもらえない可能性もあると思います。
活は、上記にも書きましたように、食事以外は、少しのテレビとベッドで過ごす長い時間です。少しでも意欲が出そうだと新聞を読もうとしますが、頭に入らないといってあきらめてしまいます。
今度の治療へのアドバイスを頂けましたら幸いです。よろしくお願いいたします。

 

林: 今かかっておられる医師の診断と治療は大いに疑問です。これでは治る病気も治りません。すぐに別の医師を受診してください。そして適切な治療を受ければ、ご主人の今の症状はきれいに治ると思います。
主治医の方針についてのこのメールに書かれている質問者の疑問はほぼどれも正当です。つまり主治医が間違っているということです。質問者の希望されているとおり、ご主人は抗うつ薬で治療すべきで、そうすれば症状改善が十分に期待できます。おそらくご主人のお兄様のように寛解状態が得られるでしょう。
主治医が抗うつ薬を処方しないのは、ご主人に躁うつ病の可能性が高いと診断していることが理由のようですが、それは質問者のご指摘の通り疑問です。
すなわち

なぜ、主治医が躁うつ病の可能性があるかもしれないと思われたかというと、主人の兄が2年前うつ病になったときに、いろいろ薬を試した結果、ルボックスで劇的によくなったと言ったことに関係しているようなのです。そのように言った時、主治医は「劇的によくなるというのは危ないのだ」のような発言をしていました。

抗うつ薬で「劇的によくなるというのは危ないのだ」ということ自体は、一般論としては、医師としての慎重な姿勢として評価できるものです。すなわち、うつ病ではなく躁うつ病(双極性障害)の可能性ありと考える根拠になるということです。しかしそれはあくまで可能性の一つにすぎず、うつ病であっても抗うつ薬で劇的によくなることは決して稀ではありませんので、抗うつ薬で劇的によくなったことだけを根拠にうつ病の診断を否定するのは医学的に全く不合理です。また、「劇的によくなった」とひとことで言ってもそのよくなり方には大きな幅がありますので、「劇的によくなった」という抽象的な言葉だけから躁うつ病と判断するのもまた医学的に全く不合理です。そして何より、「劇的によくなった」のは本人ではないのですが、うつ病の症状が明らかな本人のうつ病診断を否定し躁うつ病と診断するのもまた医学的に全く不合理です。

先月改めて、躁うつ病と思われる根拠を尋ねたところ、家族に精神疾患患者がいることが大きいといわれました。ですが、実際に兄を診察したわけでもない主治医がなぜ、兄のことを躁鬱病であると判断したのか理解できません。

その通りです。「理解できません」という質問者の感覚が正しく、主治医は間違った判断をしています。(但し、「が大きいといわれました」はやや気になるところで、ほかにも何らかの根拠があって躁うつ病と診断しているのかもしれません。そうなれば話は全く別になります)

また、主治医は、SSRIには、否定的で、特にパキシルなどはとんでもない薬だとおっしゃいます。うつ病に効くという意味で、抗うつ剤は、三環系のみであるという持論をお持ちです。

それは持論ではなく妄想です。

また、オランザピンを併用されるのが多く、ルボックスやトラゾドン、リフレックスといつもオランザピン併用です。そして、オランザピンを増量する時は、必ず、抗うつ剤の量が減ります。私どもとしては理由がよくわかりません。状況もよくなっていないからです。

その処方方針も疑問ではありますが、全く不合理とまでは言えません。
それよりも、炭酸リチウムを200mgの処方を続けているほうが問題です。仮に何らかの根拠により、躁うつ病の診断が正しかったとしても、200mgという量ではほとんど何の意味もありません。つまり、そもそも躁うつ病という診断が不合理ですが、仮にその診断が正しかったとしても、今の処方は躁うつ病の治療としても不合理だということです。

今後、この先生のもとで治療を続けるのがよいのか、

よくないです。別の先生を受診してください。

もう少し、薬に対しても好みがなく、患者に合わせた処方をしていただける先生を探すのがよいのか迷っています。

これは薬に対する好みというレベルの問題ではありません。医学的に診断も薬物療法も間違っているということです。薬に対する好みはある程度まではどの医師にもあります。医師が「患者に合わせた処方を」するのは当然というのもおかしいほど当然の話で、それをしないのは治療とは言えません。

また、転院した場合、この主治医からの紹介状を持っていくとなると、主人の診断に躁うつ病がつくことが考えられます。実際、現在は躁うつ病のうつ状態だろうといわれています。このような紹介状を見れば、次の医師からもうつ病の治療はしてもらえない可能性もあると思います。

普通はそういうことはありません。転院の場合、その時点で症状が安定していればともかく、そうでない場合は治療方針を見直すのが普通です。この【3442】のようなケースでは、うつ病か躁うつ病かは薬物療法の方針決定のうえで重要ですので、たとえ紹介状に躁うつ病と書かれていても、責任感ある医師であれば、診断を見直すはずです。その際、躁うつ病と診断された経緯をご家族(質問者)から医師によく説明することが正確な診断の助けになるでしょう。

なお、
仮に躁うつ病という診断が正しかった場合、このケースに抗うつ薬を処方しないのが正しいかどうかはまた別のレベルの問題です。
現代の有力な治療ガイドライン(医師の標準的な治療方針が示されているものを治療ガイドラインといいます)では、「躁うつ病には抗うつ薬を処方しない」のが正しいということになっています。躁うつ病では、たとえその時にうつ病相であっても、抗うつ薬を処方した場合に、うつが改善するというポジティブな効果よりも、躁転してしまうというネガティブな効果のほうが大きいことが研究で示されているというのがその主な理由です。
また、かつてうつ病と診断されていたケースの中に、実は多くの躁うつ病(双極性障害)が含まれていてそれが医師によって見落とされていたことがわかってきたこともあり、「うつ病に見えても、実は躁うつ病である可能性を見落とさず、安易に抗うつ薬を処方しない」ことが精神科医の間ではコンセンサスになりつつあります。
けれども現状は、コンセンサスというよりトレンドといった様相を呈しており、本来なら必要な抗うつ薬が処方されないために病状の改善が得られていないというケースが散見されるようになっています。この【3442】はその典型例と言えるでしょう。
今後、このトレンドがどう変化していくかは未知数です。
但しこの【3442】のケースは、そもそも躁うつ病という診断自体が不合理ですから、「躁うつ病には抗うつ薬を処方しない」のが正しいかどうかということ以前の問題です。

(2017.6.5.)

05. 6月 2017 by Hayashi
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