【3441】職場で精神的におかしいと言われます

Q: 50代女性です。
年齢のせいか物忘れが増えたと感じています。注意はしているのですが、仕事でも細々した業務が増え手一杯になると、忘れていたりつい確認がおろそかになることがあります。その度、ひそひそと「信じられない」とか「あり得ない」とか言われます。やったことが無い業務も丸投げされ、指導できる人もない中一人でやらされ、問題があるとでたらめな指示を出した上司は全部の責任を私に押し付ける始末です。私のミスなら非難されても仕方がないのですが、自分たちの勘違いや失念によるものまで全て私がおかしいということにされ悔しい思いをしています。
一緒に作業をしている同僚は状況を知っており「自分たちが悪いのにこちらのせいにしてここの人達はおかしい。」と言っています。少しは救われるのですが、その会話の内容も盗聴されていて、「他人に責任転嫁して、酷いことを言っている」と報告され精神的にも参っています。
認知症だと言われたことがあり、心配になって精神科を受診し状況を話しテストも受けましたが「認知症ではありません!周りに敏感になり過ぎているから、統合失調症ではないけれど弱い薬を出します。」と言ってセロクエル(だったと思います)を処方されました。
家族もその同僚も私はおかしくないと言ってくれますが、多くの人達からおかしいと言われ続け解雇の話も出て、最近では精神疾患ではないかと思うようになりました。
やはり精神的におかしいのでしょうか?

要領を得ず、長文になり申し訳ありません。ご回答宜しくお願いいたします。

 

林: 処方されたセロクエルを、まずはきちんと一定期間飲んでみることをお勧めします。
診断名は「統合失調症の疑い」と一応は理解しておくことが、今後の改善とそれに向けての適切な治療のためには適切でしょう。
以下、質問文の内容に照らしつつ、この回答についてご説明いたします:

50代女性です。
 年齢のせいか物忘れが増えたと感じています。注意はしているのですが、仕事でも細々した業務が増え手一杯になると、忘れていたりつい確認がおろそかになることがあります。

ここまでは特に病的なものを示唆する内容とは言えません。
もちろん、このような自覚的な物忘れが、認知症の始まりということはあり得ますが、それは「あり得る」というレベルの話であって、これだけで認知症の始まりを積極的に心配する必要はありません。

その度、ひそひそと「信じられない」とか「あり得ない」とか言われます。

しかしこれは病的な香りがあります。職場等でこのように陰口を言われるというのは、統合失調症妄想性障害にかなり特徴的な症状です。そしてそうした症状が出るときは、「何の理由もないのにいわれのない悪口や陰口を言われている」という場合もあれば、「これこれの理由があって、しかしだからといってそれほど非難されるようなことではないのに、悪口や陰口を言われている」という場合あります。この【3441】は後者にあたるケースです。つまり、「職場でも物忘れによる小ミスが増えた」が「これこれ」にあたることになります。但しもちろん、ここまでの時点で統合失調症等に罹患していると結論することはできません。あくまでも可能性であり、かつ、症状としては典型的だということです。このように指摘されると当の本人は、「そういうケースが典型的というのは理解できるが、自分の場合は本当に悪口や陰口を言われているのでそれにはあたらない」と反論されるでしょう。それもまた統合失調症等の方が典型的にする反論です。

やったことが無い業務も丸投げされ、指導できる人もない中一人でやらされ、問題があるとでたらめな指示を出した上司は全部の責任を私に押し付ける始末です。私のミスなら非難されても仕方がないのですが、自分たちの勘違いや失念によるものまで全て私がおかしいということにされ悔しい思いをしています。

これは事実が不詳でコメントしにくいです。「自分たちの勘違いや失念によるものまで全て私がおかしいということにされ」は、典型的な被害妄想のパターンである一方で、職場で現実にそのようなことが起きているということも考えられるからです。
但し、これも情報不足で不明の点が残りますが、質問者は50代の女性で、長年いまの職場に勤務していたとすれば、今になって急に周囲からこのように不条理な扱いを受けるというのは考えにくいとまでは言えるでしょう。

 一緒に作業をしている同僚は状況を知っており「自分たちが悪いのにこちらのせいにしてここの人達はおかしい。」と言っています。少しは救われるのです

これも二つの解釈が可能です。一つは「一緒に作業をしている同僚」が本当に「自分たちが悪いのにこちらのせいにしてここの人達はおかしい」と思っているという解釈。もう一つは「一緒に作業をしている同僚」は、質問者の訴えが妄想であることを認識していて、しかし適当に話をあわせているか、あるいはあわせてはいないまでも曖昧な応対をしていて、それを質問者が自分の妄想にあわせて納得しているという解釈です。

が、その会話の内容も盗聴されていて、「他人に責任転嫁して、酷いことを言っている」と報告され精神的にも参っています。

ここに来て、質問者は統合失調症等に罹患しており、質問者の言う職場での陰口や不当な扱いは、幻聴・被害妄想である可能性が大きく高まります。ここまでお書きしてきた二種類の可能性のうち、職場に本当に問題があるというほうの可能性はほぼ棄却されると言ってもいいでしょう。
おそらく質問者はこれをお読みになると、「盗聴は事実。林は事実を確認もしないでいい加減なことを言っている」とお感じになるでしょう。それもまた妄想を持つ人に特徴的な反応です。もちろんメールによる情報には限りがあり、したがって回答の確実性にも限りがありますが、たとえより確実な証拠に基づく説明をされても納得しないのが妄想を持つ人の特徴です。

 認知症だと言われたことがあり、

周囲の方が質問者の何らかの変調を、「認知症」という可能性として指摘したのか、あるいは、そもそも「認知症だと言われた」のが幻聴だったのか不明です。両方の可能性は同程度でしょう。

心配になって精神科を受診し状況を話しテストも受けましたが

テスト内容が不明ですが、認知症を完全に否定することもまたできません。記憶等のテストでは認知症の初期の診断はできず、かつ、認知症の初期に幻覚や妄想のみが目立つ場合があるからです。
但しこの【3441】のケースの経過からは、認知症よりも統合失調症や妄想性障害の可能性のほうがはるかに高いです。

「認知症ではありません!周りに敏感になり過ぎているから、統合失調症ではないけれど弱い薬を出します。」と言ってセロクエル(だったと思います)を処方されました。

「!」は医師の言葉というよりもそれを聞いた質問者の感情を反映していると思われ、するとここに引用されている医師の言葉全体が、内容そのものは正確な引用だとしても、ニュアンスや強調部分はかなり異なるとも考えられますので、表現は削り取って内容だけを取り出してみますと、この医師の言葉は次のように解されます:

・    認知症ではない・・・認知症の診断は否定した。上で述べたとおり、厳密には認知症は否定できませんが、事実上は否定していいでしょう。

・    周りに過敏になっている・・・事実の指摘。幻聴や被害妄想であると医師が判断し、しかし本人にそう説明しても納得するはずはないので、このような表現で説明することはごく一般的です。(精神科Q&Aは医療相談ではないので、本人が納得する・しないにかかわらず、事実を回答します。これが実際の医療との大きな違いです。)

・    統合失調症ではない・・・どのような文脈でこの説明がなされたかによって解釈は変わってきます。特に本人から質問がなければ、あえて「統合失調症ではない」と医師から説明する必要は通常ないので、なぜここで統合失調症という言葉が出て来たのかはやや不可解で、【3441】の本人から質問があったのかもしれないというのが一つの推定になります。仮に本人が「私は統合失調症ですか」と質問したとすると、そうであると答えると治療拒否されるおそれありと医師が判断すれば、「統合失調症ではない」と説明するのがごく一般的です。

この医師の説明場面がどのようであったかはともかく、診断名は、回答の冒頭に記した通り、「統合失調症の疑い」と一応は理解しておくことが、今後の改善とそれに向けての適切な治療のためには適切でしょう。「一応は理解していく」という回りくどい言い方をしたのは、この【3441】は統合失調症や妄想性障害と正式には診断できない、言い換えれば、診断基準は満たさないと考えられるからです。しかしながら症状と経過からみて、統合失調症等と同等の変調が脳内に発生していると考えるのが妥当です。
ですから、

・    薬を出す・・・診察した医師が、診断名はともかくとして、抗精神病薬を処方したのは適切な対応であると言えます。

 家族もその同僚も私はおかしくないと言ってくれますが、多くの人達からおかしいと言われ続け解雇の話も出て、最近では精神疾患ではないかと思うようになりました。

この文章表現は、質問者の病識が曖昧であることを反映しています。曖昧というのは、「病識ありともなしとも言えない。あるいは揺れている」ことを意味します。
つまりここには、周囲の人の話として、

家族もその同僚も私はおかしくないと言ってくれます

という、「病気でない」ことを支持するもの

多くの人達からおかしいと言われ続け

という、「病気である」ことを支持するもの
が並立していて、本人としてはどちらを信じるべきか迷っていることが窺われます。
もしこのまま病気が進行すると病識は失われ、「家族もその同僚も私はおかしくないと言ってくれる。だから私はおかしくない。それなのに多くの人達はおかしいと言う。多くの人達は私に悪意を持って陥れようとしている。言いがかりをつけて解雇しようとしている」という反応になるでしょう。

しかし現時点での質問者には

多くの人達からおかしいと言われ続け解雇の話も出て、最近では精神疾患ではないかと思うようになりました。

というふうに、自分の病的なところを冷静に受け入れようとする姿勢が見られます。つまり曖昧ながら病識はあるということができます。
今の段階なら比較的スムースに治療を受けて回復することができます。「周りに敏感になり過ぎているから、統合失調症ではないけれど弱い薬を出します」と説明して抗精神病薬を処方した医師の対応は今の段階における非常に適切なものと言えます。ご本人の側からすれば、この医師の適切な対応を受け入れ、処方された薬をきちんと飲むことが最善です。以上の要約と結論が回答冒頭の記載です。再掲します。

処方されたセロクエルを、まずはきちんと一定期間飲んでみることをお勧めします。
診断名は「統合失調症の疑い」と一応は理解しておくことが、今後の改善とそれに向けての適切な治療のためには適切でしょう。

(2017.6.5.)

05. 6月 2017 by Hayashi
カテゴリー: サイトの方針, 妄想性障害, 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: |