【3316】炭酸リチウム200mgだけ処方する医師は信用できるか

Q: 38歳男性です。

3か月ほど前より不眠、焦燥感、不安があり、2か月前に精神科を受診しました。

10年ほど前にも別のクリニックの受診歴があり、そのときはうつ病と診断され、抗うつ剤としてトレドミン、抗不安剤としてセパゾン、睡眠薬としてアモバンを処方されておりました(正確な量はすみませんがわかりません)。

その際は1年ほどで寛解し、問題なく生活しておりました。

引っ越したことで前のクリニックに受診できず、新規のクリニックを受診したのですが、以前の処方(トレドミン、セパゾン、アモバン)を先生に伝えたところ、もっとよい薬があるからということで、レメロン(15mg/毎夜)、メイラックス(1mg/頓服)、炭酸リチウム(200mg/毎朝)を処方していただきました。

その後レメロン30mg→45mg/毎夜、加えてイフェクサー37.5mg→75mgと処方していただいておりますが、炭酸リチウムはそのあいだずっと200mgのままです。

症状は、受診した当時のようないてもたってもいられない焦燥感や恐怖感はなくなり、前よりは改善しているような気がいたしますが、何となく無気力感は続いています。また、毎日の眠気も相当にあります。先生に伝えたところ、それはうつの症状でいずれ改善するとのことでした。

質問は、受診当初からいままで2か月間ずっと処方されている炭酸リチウム200mg/日についてです。このQ&Aを拝見すると、200mgではあまり意味がないとの記述がありましたが、いかがなものでしょうか。

その先生とは性格的には相性も合っていると感じますし、症状の改善も少しずつですがみられております。そういう場合、処方の一部に疑問を持ったとしても従うべきでしょうか。

 

林: 従うべきです。

その先生とは性格的には相性も合っていると感じますし、症状の改善も少しずつですがみられております。

そうであれば、従うべきです。処方の一部が疑問であることは、それに比べれば些細なことです。

以上が結論ですが、結論はともかくとして、この医師の処方は大いに疑問です。
まずリチウムについては、質問者が疑問に感じておられる通り、200mgという量は意味がないと言える量です。またそれ以前に、この【3316】のケースにリチウムを処方する必要があるとは思えません。

そして問題はリチウムだけではありません。
最初の処方、すなわち、

レメロン(15mg/毎夜)、メイラックス(1mg/頓服)、炭酸リチウム(200mg/毎朝)

これらのうち、メイラックスは頓服で使用するのは疑問です。メイラックスは作用時間が特に長い抗不安薬だからです。(もっとも、それでも頓服で使用するという治療法が誤りであるとはまでは言えません)

また、

 その後レメロン30mg→45mg/毎夜、加えてイフェクサー37.5mg→75mg

この処方が適切か否かについては何とも言えません。レメロンとイフェクサーはどちらも抗うつ薬であり、抗うつ薬を2種類処方することの適否は議論のあるところです。もしこれが最初から2種類でしたら大いに疑問ですが、1種類では改善が不十分であった場合には2種類併用するという考え方もあります。

それはそうと、

毎日の眠気も相当にあります。

これはレメロンの副作用である可能性が否定できません。また、もし頓服のメイラックスをしばしば使っておられるとしたら、そのメイラックスの影響もかなりあると考えるべきです。

しかしながら、

先生に伝えたところ、それはうつの症状でいずれ改善するとのことでした。

とのこと、この医師がそのように判断した根拠が不明です。眠気がうつの症状であること自体はしばしばあることです。うつの症状であるにもかかわらず、ご本人や周囲の方が、眠気は副作用だと信じておられることは非常によくあるものです。けれどもレメロンに関しては、抗うつ薬の中で特に眠気の副作用が出やすいことは精神科の常識です。したがってこの【3316】のケースの眠気がレメロンによる眠気ではないと判断するのはかなり難しいことですので、この眠気が うつの症状 と言い切るのは相当に疑問です。

以上の通り、この医師の薬物療法はかなり疑問です。それは精神科薬物療法についての基本的な知識を持っていないのではないかと疑わせるレベルです。

けれども回答は冒頭の通りで、

その先生とは性格的には相性も合っていると感じますし、症状の改善も少しずつですがみられております。そういう場合、処方の一部に疑問を持ったとしても従うべきでしょうか。

に対する答は
はい、従うべきです。
になります。医師との相性と、現に改善しているという事実は何より重視すべきだからです。もちろん薬物の使い方が危険なものであれば話は別ですが、この医師の薬物療法は疑問ではあってもそこまで逸脱しているとまでは言えません。

(2016.11.5.)

05. 11月 2016 by Hayashi
カテゴリー: うつ病, 病院を変えたい・変えるべきか, 精神科Q&A, 薬の副作用