【3156】私は双極性障害ですか? 薬を飲んだときのほうが調子が悪いのですが。

Q: 20代の女性です。大学生です。私は双極性障害じゃなかったのでしょうか?

2年前の冬、辛いことが重なりそれを忘れようと1ヶ月間ほどほとんど眠らず講義と遊びと5つのアルバイトを掛け持ちしていたことがありました。もともと人の集まり に参加し、話したりすることが好きで、疲れは感じず毎日どこかの集まりに参加し活動などしていました。眠るのを惜しんで遊んだりしていました。
その後疲労感が出始め、眠れないことが辛くなってきたので大学の保健センター?の精神科医に不眠について相談、双極性障害の疑いということで精神科の病院に紹介状を書いてもらいました。そこの病院での診断はうつ病。それからジェイゾロフトとグッドミンで様子をみていました。それから春にかけて状態は悪くなり、部屋を片付けることができなくなったり、身なりを整えることができなくなったりと、ひどい格好で大学に通っていました。人と目もあわさず、話すこともほとんどなくなりました。この頃の記憶はあまり残っていません。後から友人に聞くとおかしかったと言われました。ただ辛く、休学したくない思いがあったことだけ覚えています。
初夏頃、気持ちがはれ、いろいろな集まりにまた参加するようになりました。浴びるほどお酒をのんで川に飛び込むなどをみた友人が心配し医師に連絡、診察を受けると「あなたは双極性障害の疑いがあったのですね、そうかもしれません」と紹介状のことを思い出したかのようにとりだし、診断は双極性障害となりました。リーマス800mgとソラナックス、マイスリー、グッドミンを処方さされました。薬を飲み始めまた鬱状態のようになり、鉛になったように動けなくなる日が続きました。
休学はしたくない、でも辛い。考えたくない、ずっと寝ていたい、そう思ってソラナックスとマイスリーを飲みました。気がつけば病院で寝ていました。持っていた睡眠導入剤をすべて飲んでいたようでした。友人が異変に気付き通報してくれたようでした。そこからすぐに休学しました。
別の病院に移り、双極性障害1型と診断。リーマス800mg、セロクエルで様子をみていました。少しカラオケに行ったと言うと、リスパダールやレボトミンを処方されました。恐ろしくなりリーマスと眠剤のみ、飲み続けていました。
夏、秋と薬を飲み続けましたが、甲状腺の検査データがおかしく、甲状腺機能亢進状態でした。症状の指のふるえや動悸が苦しかったです。また、腎性尿崩症となり口渇多飲頻尿が苦しかったです。そして病院と薬を自身の判断でやめてしまいました。
心配してくれる人に申し訳なく辛かったですが、本当に副作用が苦しく飲んでいれませんでした。
春になり復学したため、念のためともう一度別の病院へ通いました。そこでは「双極性障害1型ではないと思う、いまは3型4型ってのがあってね」と話されました。
よくわからぬままリーマス800mgとマイスリー処方で様子見。血中濃度はちょうどでした。
しばらくして、やはり副作用がでてきました。他には薬を見ただけで吐き気がするようになったり吐いたりするようになりました。喉に何かがつまったような感覚になりずっと気持ち悪く、体重も月に4kg減少してしまいました。
そしてまた、薬を自身の判断でやめてしまいました。それからは何もありません。
鬱状態も躁状態ともとれるようなことは起きていません。もちろんおちこんだりはしゃいだりはありますけれど、普通に戻れたかなと思います。
最近はとても穏やかに過ごすことができています。私は双極性障害ではなかったのではと思います。薬を飲んでいるほうがずっと辛かったです。
わたしはもう一度病院へ行くべきなのでしょうか。ずっと薬を飲み続けるのが苦しいです。どうすれば双極性障害が治った、そもそも双極性障害ではなかった、といったことが証明できるのでしょうか。よろしくお願いします。

 

林: あなたは双極性障害(躁うつ病)だと思います。精神科への通院と服薬を開始すべきです。

そしてまた、薬を自身の判断でやめてしまいました。それからは何もありません。
 鬱状態も躁状態ともとれるようなことは起きていません。もちろんおちこんだりはしゃいだりはありますけれど、普通に戻れたかなと思います。
 最近はとても穏やかに過ごすことができています。私は双極性障害ではなかったのではと思います。

それは双極性障害の診断を否定する根拠にはなりません。双極性障害という病気は、躁状態、うつ状態、寛解状態(躁状態でもうつ状態でもない状態)が繰り返し現れる病気です。したがって、ある時期が寛解状態であることをもって、双極性障害でないということにはなりません。その時期に服薬していてもしていないくてもです。このままでは早晩また躁状態かうつ状態が現れるでしょう。精神科の通院を再開してください。

このメールに書かれている経過を振り返ってみましょう。そこからはあなたが双極性障害(躁うつ病)であることがはっきりと読み取れます。

2年前の冬、辛いことが重なりそれを忘れようと1ヶ月間ほどほとんど眠らず講義と遊びと5つのアルバイトを掛け持ちしていたことがありました。もともと人の集まり に参加し、話したりすることが好きで、疲れは感じず毎日どこかの集まりに参加し活動などしていました。眠るのを惜しんで遊んだりしていました。

躁状態です。これ以前に躁状態、うつ状態がなかったのであれば、この時が双極性障害の初発です。この時点で双極性障害と診断するのが妥当と判断できます。

その後疲労感が出始め、眠れないことが辛くなってきたので大学の保健センター?の精神科医に不眠について相談、双極性障害の疑いということで精神科の病院に紹介状を書いてもらいました。そこの病院での診断はうつ病。

なぜ双極性障害(躁うつ病)ではなくうつ病と診断されたのか疑問です。何かここに書かれていない事情があったか、または、ここに書かれていることに事実との相違があったか。そうでなければ誤診といっていいかもしれません。

それからジェイゾロフトとグッドミンで様子をみていました。それから春にかけて状態は悪くなり、部屋を片付けることができなくなったり、身なりを整えることができなくなったりと、ひどい格好で大学に通っていました。人と目もあわさず、話すこともほとんどなくなりました。この頃の記憶はあまり残っていません。後から友人に聞くとおかしかったと言われました。ただ辛く、休学したくない思いがあったことだけ覚えています。

うつ状態になったと見ることができます。

 初夏頃、気持ちがはれ、いろいろな集まりにまた参加するようになりました。浴びるほどお酒をのんで川に飛び込むなど

短い記載なので判断困難ですが、おそらく躁状態でしょう。

友人が心配し医師に連絡、診察を受けると「あなたは双極性障害の疑いがあったのですね、そうかもしれません」と紹介状のことを思い出したかのようにとりだし、診断は双極性障害となりました。リーマス800mgとソラナックス、マイスリー、グッドミンを処方さされました。

双極性障害という診断、およびリーマスを中心とする治療、いずれも妥当だったと思います。

薬を飲み始めまた鬱状態のようになり、鉛になったように動けなくなる日が続きました。

今度はうつ状態になった。それは確かのようですが、それは薬が原因か、それとも病気の経過としてうつ状態になったのか、判断困難です。但しいずれにせよ良い状態でないことは確かですので、処方の変更が考慮されるべきであったといえます。考慮されなかったのか、あるいは、考慮された結果、処方は変更しないという判断となったのかは不明です。この後の結果からみれば、処方は変更すべきであったといえますが、結果論かもしれません。

 休学はしたくない、でも辛い。考えたくない、ずっと寝ていたい、そう思ってソラナックスとマイスリーを飲みました。気がつけば病院で寝ていました。持っていた睡眠導入剤をすべて飲んでいたようでした。友人が異変に気付き通報してくれたようでした。そこからすぐに休学しました。

うつ状態の悪化による自殺企図と判断できます。

 別の病院に移り、双極性障害1型と診断。リーマス800mg、セロクエルで様子をみていました。少しカラオケに行ったと言うと、リスパダールやレボトミンを処方されました。恐ろしくなりリーマスと眠剤のみ、飲み続けていました。

何がどう恐ろしくなったのかを含め、具体的な事情に不明な点が多く、コメントは困難です。但し処方薬をきちんと飲んでいなかったことは問題といえるでしょう。

 夏、秋と薬を飲み続けましたが、甲状腺の検査データがおかしく、甲状腺機能亢進状態でした。症状の指のふるえや動悸が苦しかったです。また、腎性尿崩症となり口渇多飲頻尿が苦しかったです。そして病院と薬を自身の判断でやめてしまいました。

さらにまずい判断でした。きわめてまずい判断であったといえるでしょう。これではこの後の経過が悪化することが強く予想されます。
甲状腺機能亢進状態」と「腎性尿崩症」が事実だったとして(病名にカギ括弧をつけたのは、これらの状態ないし病名は、検査所見に基づくものであるため、本人申告だけからは事実かどうか直ちに判断することはできかねるからです)、いずれも治療を要する状態ないし診断名ですから、病院をやめたという判断は全く不合理です。それによってさらに悪化するおそれも相当にあったというべきでしょう。

 心配してくれる人に申し訳なく辛かったですが、本当に副作用が苦しく飲んでいれませんでした。

この時点では、副作用であった可能性は強いものの、本当に副作用であったかどうかはわかりません。繰り返しますが、病院と薬をやめたという判断は全く不合理です。

 春になり復学したため、念のためともう一度別の病院へ通いました。

ご本人は前の病院での薬の副作用であると確信していたわけですから、受診するなら別の病院を受診をという気持ちは理解できますが、「甲状腺機能亢進状態」「腎性尿崩症」という診断がなれさた以上は、その病院に当時の経過や検査所見の記録があるわけですから、元の病院を受診するほうがはるかに望ましいといえます。

そこでは「双極性障害1型ではないと思う、いまは3型4型ってのがあってね」と話されました。

双極性障害の3型、4型というのは、そのような呼び方を使うこともあることはありますが、公式に認められているまではいえません。
それはともかくとして、1型でないという判断は大いに疑問です。
しかしいずれにしても治療方法はあまりかわりませんので、双極性障害においては何型かということを深く追求することにあまり意味はないでしょう。

よくわからぬままリーマス800mgとマイスリー処方で様子見。

この治療が適切であったかどうかはこの時点までくるとわかりません。前の病院で経験された 指のふるえや動悸、口渇多飲頻尿 などが、仮に副作用であったとすると(繰り返しますが、本当に副作用であったかどうかはわかりません。しかし、現実的には、双極性障害には他にも治療薬がある以上、副作用であったと推定し、当時の薬は避けるのが自然です)、リーマスの処方は避けるというのが通常の考え方です。

血中濃度はちょうどでした。

それはここまでの経過からするとあまり意味がありません。以前に副作用と思われる症状が出たときの血中濃度が不明だからです。その意味からも、元の病院を受診すべきであったといえます。

しばらくして、やはり副作用がでてきました。他には薬を見ただけで吐き気がするようになったり吐いたりするようになりました。喉に何かがつまったような感覚になりずっと気持ち悪く、体重も月に4kg減少してしまいました。

ほぼ同じことの繰り返しが発生したといえます。この医師の処方を含めた治療方針に疑問を投げざるを得ません。
しかしそれにもまして、

そしてまた、薬を自身の判断でやめてしまいました。

あなたのこの行為はさらに不合理であるといえます。結局ここまでの経過は、

症状の悪化 → 服薬 → つらい副作用の出現(ここでは副作用であったと仮定します) → 通院・服薬の中断 → 症状(副作用と思われる症状を含め)の軽快 → 他の病院を受診 → 以前とほぼ同じ薬の開始 → つらい副作用の出現(ここでは副作用であったと仮定します) → 通院・服薬の中断

ということになり、治療も診断も何ら前進が認められません。

ここで回答の冒頭に戻ります。

最近はとても穏やかに過ごすことができています。

それは双極性障害の診断を否定する根拠にはなりません。双極性障害という病気は、躁状態、うつ状態、寛解状態(躁状態でもうつ状態でもない状態)が繰り返し現れる病気です。したがって、ある時期が寛解状態であることをもって、双極性障害でないということにはなりません。その時期に服薬していてもしていないくてもです。このままでは早晩また躁状態かうつ状態が現れるでしょう。精神科の通院を再開してください。

今後の治療方針としては、次のようなものが適切と考えられます。

1. 質問者が副作用と感じていた諸症状が、本当に副作用であったかどうかの確定。このためにはその時点でかかっていた病院を再受診し、検査所見等の再検討が必要です。
2. 副作用であると確定、または、副作用である可能性が一定以上に高いと判断されれば、リーマス以外の薬、たとえばバルプロ酸(デパケンなど)による治療を開始する。

この【3156】のケースは、たとえ現在なんの症状がなくても、薬による再発防止が必要なケースであるといえます。必ずしも双極性障害のすべてのケースで薬による再発防止が必要とは限りません。けれどもこの【3156】のケースは、うつ状態において深刻な自殺企図が見られていること(「深刻な自殺企図」というのは、命を失っても不思議はなかったレベルの自殺企図という意味です)、躁状態の症状がかなり激しいものであったことからすると、再発した場合のリスクが非常に大きいことが十分に予想され、そのリスクは副作用による苦しみを上回ると考えられるからです。さらにいえば、仮にこれまで経験された副作用と思われる症状が本当に副作用であったとしても、まだまだこれまで服用していない薬を試みる余地があり、その薬によって十分に再発予防ができることが期待できます。
したがって結論はこの回答の冒頭の一文の通りです:

精神科への通院と服薬を開始すべきです。

(2016.3.5.)

05. 3月 2016 by Hayashi
カテゴリー: 病院を変えたい・変えるべきか, 精神科Q&A, 自殺, 薬の副作用, 躁うつ病 タグ: |