【3131】体のだるさ、現実感のなさ、そして周囲への恐怖‏

Q: 私は二十歳の大学生、男です。今年度で三年生になりました。大学近くで一人暮らしをしています。
私が中学生の時から体のだるさがありました。立っていても座っていてもだるく、机に座っているときは上半身を起こしていることができず、机に突っ伏してしまい、しばしば先生に怒られていました。夜も眠れず、たびたび自宅のリビングで椅子に座って眠くなるまで待っていました。

高校に入学すると、体のだるさは和らぎました。それでも完全に消えていたわけではなく、中学生の頃ほど酷くはないにせよ、だるさは確かに感じていました。不眠も和らぎました。そして高校生の時から現実感が酷く希薄になりました。実感が薄くなったと表現した方が正しいかもしれません。何をしても、それを成したという実感がない。例えば私は自宅から高校まで自転車で毎日通学していましたが、まるでその移動が敷かれたレールの上を走っていて、それをオブラートで包まれた私が眼球の裏から見ている。下手な説明で申し訳ありませんが、このようにしか表現できません。酷い時には学校の壁を触っていても、そこに壁があることは理解できても、本当に私が触っているのか確証がない、実感がない、本当に私はこの廊下の上に立っているのか、両足が床に接地しているのか、わからないほどでした。

高校を卒業し、浪人することなく大学へ入学しました。入学してすぐにあるサークルへ入部しました。そのサークルには大学二年生の途中まで所属していましたが、その間は体のだるさも、実感のなさも嘘のように感じなくなっていました。大学一年のときはサークル活動も楽しく、充実した毎日を過ごせているから体のだるさも感じないのだろうとその時は思っていました。しかし大学二年の時にサークルの先輩といざこざを起こしてしまい、サークルの居心地が悪くなり、やむなく退会しました。サークルを退部する二ヶ月ほど前に先輩とのいざこざがあったのですが、その時から体のだるさが思い出したかのように再発しました。サークルを退部する頃には買い物に行くことすら酷く苦労するほどになっており、酷い時には物を書こうとしてボールペンを持とうとしても無理な程です。

そこで大学近くの内科に受診しました。血液検査などをしてもらいましたが原因がわからず、近くの精神科を紹介されました。その精神科で体のだるさを説明したところ、サークルのこと、それと将来についての悩みがストレスになっていてそれが原因だろうとのことでした。私もそのことについては異論なかったので、そうなのだろうと納得しました。当初はレクサプロ10mgを一日一錠、ユーパン錠0.5mgを朝晩で二錠、エチゾラム1mgを寝る前に一錠処方されました。しかしレクサプロは副作用が強く処方は取りやめになりました。ユーパンは飲み始めはとても良く効きました。心のつかえのようなものがすうっと消えた気がしました。しかしそれは本当に最初の一錠だけで、あとはあまり効いている気がしませんでした。その頃は不眠も再発していたのでエチゾラムはとてもありがたく、夜は眠れていました。

しかしその精神科で実感のなさについて話すと、その症状を治す薬はないから、自分で何とかするしかないと言われました。この実感のなさについては誰にも話したことがなく、勇気を振り絞ってなるべく詳細に話したつもりだったのでショックでした。自分で何とかすることとは将来の就職関係のことで、もちろんそれらは自分のことですから当たり前なのですが、だるくてふらふらな自分がろくな仕事に就けるわけがないと思っていましたので、目の前が真っ暗になりました。

この受診の日からこの精神科にいくことを勝手に止めてしまいました。このことは私も非常に良くないことだったと後悔しています。というのもユーパンとエチゾラムを自己判断でやめてしまったので、二日間ぶっ通しで起きていたり、異常な空腹感に悩まされたりしました。またこの頃はほぼ毎日死ぬことを考えていましたが、体のだるさが酷く、また直前になって死ぬことが怖くなり、結局実行できませんでした。この自殺しよう、今死なないとどんどん状況が悪くなるという思いは今も続いています。

精神科に通っても自分の症状は良くならないと思い、10ヶ月前から一度も精神科には通っていませんでしたが、4ヶ月前から、今度は大学から少し距離のある精神科に通い始めました。今年から私は公務員になるための専門学校に通い始めていたのですが、この専門学校は大学の講義が終わった後の夜に行うのが大半で、私にとって酷く負担になっていました。そのせいか、体のだるさは以前にも増して酷くなり、夜は全く眠れなくなってしまいました。そして本末転倒なのですが、大学の講義も度々欠席するようになってしまいました。これは夜眠れずに朝起きれないということもありますが、大学に行くと周囲の視線が異常に気になりだしたことがとても大きい要因です。周囲で話し声がしたり笑い声がしたりすると、私のことではないと頭では理解しているのですが、声を聞いた瞬間は私のことだと思ってしまいます。そして私が本を読んだり頬杖をついたりしていると、その動作が逐一周囲の人に観察されているような錯覚を起こすのです。大学の構内を歩いていても、自分の歩き方がおかしいような気がして落ち着かなく、足の出し方や腕の振り方を周りの人達が横目で見て笑っているような気持ちがします。その人達を見ているのが嫌で仕方なく、大学には必要以上に長く留まれません。

とにかく、およそ半年振りに受診した精神科では、サインバルタカプセル20mgを一日一錠、ルネスタ錠2mgを寝る前に、頓服としてメデポリン錠0.4mgを処方されました。この初診では体のだるさについては主治医に説明できたのですが、前述した視線が気になることについては自分の錯覚だろうと思っていたので説明しませんでした。メデポリンはほとんど効かなかったのですぐにエチゾラム0.5mgに変わりました。そして二ヶ月ほどサインバルタを飲み続けていましたが何も変化はなく、一日一錠が二錠に変わりました。また二ヶ月飲みましたが変化はなく、今月受診した際、視線について説明できたからか、エビリファイ錠6mgを一日一錠に変わりました。しかしこれを飲むと足がむずむずして一所にいるのがとても辛くなり、そこらを歩き回らずにはいられないという副作用が出たので、自己判断で飲むのを止めてしまいました。公務員の専門学校は3ヶ月前に通うことを断念しました。

このむずむずした症状が出てから一週間ほど大学へ通っていませんでした。というのも大学で顕著だった視線が気になる症状が、近所を歩いていたり、電車に乗っていたりしても酷くなったからです。私は普通に歩くということがわからなくなり、意識して両足を前に出さないといけなくなりました。また、私は大学に行く際に原付に乗るのですが、後続車や対向車が私めがけて突っ込んできたり、脇道から車が飛び出してきたりするような気になり、原付に乗るのが酷く恐ろしくなりました。この一週間の間に大学で唯一親しくしている友人が自宅を訪ねて来て、友人が通っている東洋医学の病院を薦められました。電車に乗るのは怖くて仕方なかったのですが、このままでは休学か退学する羽目になると思い、次の日にはその病院にいきました。この病院では、精神が過敏になっていると言われ、とりあえず様子見として「サイコ カリュウコツボレイトウ」エキス顆粒という漢方を一日三回処方されました。ユーパン錠ほどの効き目はありませんでしたが、少しは気がまぎれたような気がし、何とか大学に行けるようになり、現在に至ります。

林先生の相談室については、精神科に通いだした頃から知っていました。そこでまず第一にお聞きしたいことは、林先生から見て私はどういった病気なのかということです。今の主治医からはどのような病名も聞いていません。ただ私が処方された薬をインターネットで調べたところでは、統合失調症の薬のようなのですが、私は統合失調症なのでしょうか。幻聴のようなものは聞こえてきたことはありません。第二に、このまま精神科に通い続けていれば、体のだるさは治るのかという事です。不眠や視線が気になることも十分すぎるほどに辛いことですが、最大の障害は体のだるさです。

最後になりますが、長文、乱文失礼いたしました。なるべく読みやすいように書いたつもりですが、上手くかけません。回答をお待ちしております。

 

林: 統合失調症の前駆期または初期の可能性は充分にあると思います。抗精神病薬で治療を開始することをお勧めします。

経過を振り返ってみますと、

私が中学生の時から体のだるさがありました。立っていても座っていてもだるく、机に座っているときは上半身を起こしていることができず、机に突っ伏してしまい、しばしば先生に怒られていました。夜も眠れず、たびたび自宅のリビングで椅子に座って眠くなるまで待っていました。

この時点ではもちろん何ともいえません。色々な原因が考えられるところです。

そして高校生の時から現実感が酷く希薄になりました。実感が薄くなったと表現した方が正しいかもしれません。何をしても、それを成したという実感がない。例えば私は自宅から高校まで自転車で毎日通学していましたが、まるでその移動が敷かれたレールの上を走っていて、それをオブラートで包まれた私が眼球の裏から見ている。下手な説明で申し訳ありませんが、このようにしか表現できません。酷い時には学校の壁を触っていても、そこに壁があることは理解できても、本当に私が触っているのか確証がない、実感がない、本当に私はこの廊下の上に立っているのか、両足が床に接地しているのか、わからないほどでした。

これは離人と呼ばれる症状です。【0787】時々「意識」が薄い膜に覆われている気がします
や、【1190】私は統合失調症の初期の可能性があると思うのですが、発症を予防するためにはどうしたらいいでしょうかなどにも離人の描写があります。この【3131】の質問者はこの症状を 下手な説明で申し訳ありませんが、このようにしか表現できません。 と言っておられますが、離人の症状の描写としてはかなりうまく表現できていると思います。【0787】の方も、この症状を自分ではうまく表現できず、「上手く表現できなくてすいません」と言っておられるように、体験している本人でも、離人を表現するのはかなり難しいものです。

それはそうと、離人は統合失調症の前駆症状として現れることがあります。
けれどもそうでない場合ももちろんありますので、離人の症状が出たからといって、統合失調症の前駆期や初期であるとは言えません。
しかしこの【3131】では、それ以前からの奇妙なだるさと合わせると、離人の症状が出たこの時点で、「もしかすると統合失調症の前駆期かもしれない」という疑いが発生します。但し「もしかすると」というレベルです。

そこで大学近くの内科に受診しました。血液検査などをしてもらいましたが原因がわからず、近くの精神科を紹介されました。その精神科で体のだるさを説明したところ、サークルのこと、それと将来についての悩みがストレスになっていてそれが原因だろうとのことでした。私もそのことについては異論なかったので、そうなのだろうと納得しました。

この時点ではストレスが原因と考えるしかなかったのかもしれません。
但し、ストレスを持ち出せばどんな症状でも説明できるので、「ストレスによる」という説明は、実は何も説明していないのと同じことですが。(『「うつ」は病気か甘えか』に記されている「ストレス神話」)

大学の講義も度々欠席するようになってしまいました。これは夜眠れずに朝起きれないということもありますが、大学に行くと周囲の視線が異常に気になりだしたことがとても大きい要因です。

ここに来て、統合失調症の疑いは急激に濃厚になります。「周囲の視線が気になる」というのは、統合失調症の前駆期や初期に非常によく見られる症状です。ここから振り返れば、体のだるさ、離人も、統合失調症の前駆症状だったという可能性が高まります。

また、「周囲の視線が気になる」という抽象的な表現だけですと、それが統合失調症らしいからしくないかわかりませんが、

周囲で話し声がしたり笑い声がしたりすると、私のことではないと頭では理解しているのですが、声を聞いた瞬間は私のことだと思ってしまいます。そして私が本を読んだり頬杖をついたりしていると、その動作が逐一周囲の人に観察されているような錯覚を起こすのです。大学の構内を歩いていても、自分の歩き方がおかしいような気がして落ち着かなく、足の出し方や腕の振り方を周りの人達が横目で見て笑っているような気持ちがします。その人達を見ているのが嫌で仕方なく、大学には必要以上に長く留まれません。

このような具体的描写から、この【3131】の質問者のいう「周囲の視線が気になる」は、統合失調症らしい症状であることが判明します。

今月受診した際、視線について説明できたからか、エビリファイ錠6mgを一日一錠に変わりました。しかしこれを飲むと足がむずむずして一所にいるのがとても辛くなり、そこらを歩き回らずにはいられないという副作用が出たので、自己判断で飲むのを止めてしまいました。

統合失調症の疑いがある場合に最初に処方する薬として、エビリファイは不適切ではありませんが、このように足がむずむずするというアカシジアの副作用が出やすいという欠点があります。この【3131】のケースにこの副作用が出てしまったのは不幸なことでした。

大学で顕著だった視線が気になる症状が、近所を歩いていたり、電車に乗っていたりしても酷くなったからです。私は普通に歩くということがわからなくなり、意識して両足を前に出さないといけなくなりました。また、私は大学に行く際に原付に乗るのですが、後続車や対向車が私めがけて突っ込んできたり、脇道から車が飛び出してきたりするような気になり、原付に乗るのが酷く恐ろしくなりました。

いかにも統合失調症らしい症状です。

この病院では、精神が過敏になっていると言われ、とりあえず様子見として「サイコ カリュウコツボレイトウ」エキス顆粒という漢方を一日三回処方されました。ユーパン錠ほどの効き目はありませんでしたが、少しは気がまぎれたような気がし、何とか大学に行けるようになり、現在に至ります。

その処方では治りません。気がまぎれたにすぎないでしょう。まもなく症状が再発すると思います。

林先生から見て私はどういった病気なのかということです。

ここまで説明してきた通り、統合失調症の可能性が高いです。というより、統合失調症として矛盾のある点はありません。抗精神病薬による治療をお勧めします。体のだるさとあわせて、改善が期待できます。

(2016.2.5.)

05. 2月 2016 by Hayashi
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