【2600】統合失調症でこれまで3回入院、保護室も経験しました。今は結婚し、前から望んでいた仕事もしています。

Q: 初めまして。私は31歳の女性です。 私は20歳の時に統合失調症で入院しました。  【2448】統合失調症から回復して頑張っています に対し、先生が
「統合失調症という病気の一面しか知らずに 強い不安を持っている方々にとって、このうえなく貴重な実体験の情報になることは間違いないと思います。」
と、お返事されているのを拝見し、私の闘病生活も何かお役にたてればと思い、メールさせて頂きました。 纏めながら書くつもりですが長くなることをご了承ください。

私は子供の頃から感情の起伏が激しく、親を困らせたり泣かせたりしていました。今思えば、高校生の時から女友達に悪口を言われている妄想で、 実際に喧嘩を売ってみたり、 特定の男子から好意を持たれている、という妄想などもありました。 付き合っていた彼氏の家に、家出のようにして半同棲をしていました。
顕著に症状が出だしたのは、保育士の資格を取るべく夜間の短大に通っていた卒業間近の頃です。 短大1年生の頃から、夜の仕事をしていました。 夕方6時からの講義は夜の9時までで、10時から朝方までアルバイトをし、お酒も随分飲んでいました。 昼間睡眠をとり、夕方に起きるという昼夜逆転した生活が続いていました。
専攻科の受験に合格し、残りの授業を出席すれば資格が取れるという頃、多弁が始まりました。私は統合失調症に双極性障害の躁が出るようで、自分で会社を立ち上げる事など考えていました。 お金遣いも荒く、アルバイトも増やし忙しく動き回っていました。症状どんどん悪化し、アルバイトもクビになり、一日中妄想の世界でした。 結婚式場に一人で行き、お金も予定も無いのにハイテンションで 「この私がここで式を挙げてあげるんだからよろしくね」などと意味の通じないことを言ったり テレビやラジオがすべて私の思考に繋がって、メディアを動かしているのは自分だという妄想が主でした。家に座敷わらしがいる等と、友達に電話を頻繁にかけていましたが、その中で母に電話した際、母が私の異変に気づきました。 母はどうしたら良いのか解らなかったようですが、 大学病院の精神科へ連れて行ってくれました。 私は、「自分には特別な力があるから連れて行かれるんだ」とすんなりついていき 大学病院では手に負えない状態だったため、 保護室のある精神病院へ入院する事になりました。 保護室では、「これは特別な私に与えられた試練なんだ。」 という妄想で過ごしました。 急性期は落ち着き、大部屋へ移ることもでき、数ヵ月後退院して実家で過ごし始めました。
学校は卒業できず、資格も取れず休学しました。 毎日、頭の中は落ち着く事が無く、大好きな音楽を1曲聴くことも出来ませんでした。 一日中、何か食べているかタバコを吸っているかの生活でした。散歩もしましたが、両手は浮いている状態で前かがみになり、ヨチヨチ歩きでした。 デイケアには通いませんでしたが、体が動かし易くなると近所のフィットネスクラブに通いました。 妹がアルバイトしていた中華料理店で少しずつ働き始め、しばらくしてから復学しました。 年下の知らない子達に囲まれて通学・受講するのは辛かったのですが、その後3年かけて卒業と資格取得が出来ました。 通院は続け、リスパダールを一日1錠飲んで過ごしていました。 発症時より、闘病時の方が辛かったので、あんな目には合いたくない、と怠薬はあまりありませんでした。  卒業後しばらく職場の経験をした後、念願の保育士になる事が出来ました。 スタッフ等に対して、少しの妄想や過剰な好き嫌いはありましたが、どうにか勤めました。 元々、工作やピアノ、もちろん子どもが好きだった事が良かったと思います。
その最中に主人と出会い、28歳で結婚しました。憧れていた結婚式も挙げる事が出来ました。 幸せな毎日でした。ただ飲酒が酷く、随分主人をがっかりさせてしまいました。 結婚後の勤務先で、大きなイベントの運営に携わり、神経を磨耗してしまったようでアルコールや漢方薬への依存も関係してか、30歳になってから、再発しました。  以前と同じような症状が出て、頭の回転がめまぐるしく、信頼を裏切る事をし始めました。 自分で「これは前と同じだ危ない…」と感じ、自ら入院しました。 ロナセンに加え、リチウム等も処方されるようになりました。 退院後も軽躁状態は続き、週に数回アルバイトなどもしていましたが、痩せたいと思って、勝手に薬を減らしてしまったのと、過剰な飲酒により、翌年、再入院しました。 その時は症状がかなり酷く、1ヶ月保護室で過ごしました。 数回の入退院は苦しくもありましたが、楽しくもありました。 それは、家族の支えがあったからだと今では有難く思っています。 その後は、症状が見え隠れする中、家庭での療養や、チラシ配りのアルバイトをしていました。急性期に比べると、随分楽にはなったものの、具合はなかなか治りません。特に、一人で家にいて、主人が帰ってくるのを待つのがとても辛く、何かに没頭することも無いので、飲食や無理やり映画を観て過ごしていました。 しかし、生真面目な主治医との信頼関係から、断酒に成功できました。 主治医の独立により、自分で家から近い病院を見つけ、今は、入院施設のある精神病院へ通院しています。 年配の先生で、薬を出すだけではなく、心のケアをしてくれる印象です。 32歳の時に母の影響で、介護ヘルパー2級の職業訓練校に通いました。月曜日から金曜日の通学や、静かな場所での授業では 幻聴が聞こえたり、薬の副作用で眠ってしまったり、それでも3ヶ月の授業と実習にて、資格取得ができました。

今は、近所の介護施設にて介護士をしています。 面接の時に管理者にだけ病気の事を話しました。 その為、始めは1日3時間勤務にしてくれたり、連勤無しで働いています。 今は1年が過ぎ、仕事も身体も慣れてきて8時間勤務をこなし、職員に友達も出来ました。  私は、保育士の頃から、子どもの目線で考える事を大切に思っていました。 今の主治医が、患者(私)の目線で考えてくれている事に喜びと信頼を感じ、自分の仕事でも、利用者の目線で考える事を心がけ、充実しています。
出産を考え始め、まめな通院にて減薬中です。 減薬してから、本来のバイタリティーを取り戻してきた気がします。 ただ、これはまた再発なんじゃないか、という不安もあります。 その物差しとして、私はピアノを弾いて安心しています。 薬が多く、落ち着かなかった時は、どんなに頑張っても上手く弾けませんでした。 今、職場の施設で、行事の度に2,3曲弾かせてもらうのですが、スムーズに指が動き、得意だった曲も滑らかに弾けるのです。 このように、お手紙を書かせて頂く事も、治ってきた証拠と思い、筆を取らせて頂きました。 他にも書きたいことは沢山ありますが、短く纏めさせて頂きました。
特に、寛解後は様々な事に気づき、考えています。 今一番大きいのは、主人とペットのウサギの存在です。 これからも体調に気をつけて、病気と仲良くなっていきたいと思っています。 読んでいただいて、ありがとうございました。 先生のご健康とご活躍心よりお祈り申し上げます。

 
林: このメールをいただいたことに深く感謝いたします。質問者が言及されている【2448】統合失調症から回復して頑張っています での私の回答が、そっくりそのままこの【2600】にもあてはまります。次の通りです:

貴重な経験のご報告をいただきありがとうございました。すべての読者の方々にとって、中でも特に、統合失調症という病気の一面しか知らずに強い不安を持っている方々にとって、このうえなく貴重な実体験の情報になることは間違いないと思います。今後も質問者の病状が改善・安定されることを願っています。
さて、ここから後は蛇足です。診断名にかかわる、厳密な言葉の使い方について。蛇足なので読み飛ばしてください。

私は統合失調症に双極性障害の躁が出るようで、

と書かれていますが、そういうことは、精神医学の用語上は、あり得ません。
【2600】の方に、躁状態と見られる症状が出ているのは確かです。このような場合は、
(1)双極性障害(躁うつ病)で、精神病症状を伴っている
(2)統合失調症で、一時的に躁状態(双極性障害の躁状態と類似した症状)が出ている
(3)統合失調感情障害である
のいずれかと判断するのが、現代の精神医学の診断法です。

(1)双極性障害(躁うつ病)で、精神病症状を伴っている
としては、躁うつ病 患者・家族を支えた実例集 のCase24が一つの典型例です。

(2)統合失調症で、一時的に躁状態(双極性障害の躁状態と類似した症状)が出ている
の例としては【1882】躁うつ病で幻聴が現れることがありますか‏があります。統合失調症でも、症状が悪化すると一時的に躁状態が出る場合があります。また、発症初期や前駆期、そして激しい症状がおさまった後にも、うつ状態が出ることがあります。
【1882】は躁うつ病と診断されているようですが、実際には統合失調症だということは【1882】の回答の通りです。

(3)統合失調感情障害
の例は【1231】統合失調症と診断され、躁とうつを繰り返している
です。

 

この【2600】は、メールの記載を読む限りでは、

専攻科の受験に合格し、残りの授業を出席すれば資格が取れるという頃、多弁が始まりました。私は統合失調症に双極性障害の躁が出るようで、自分で会社を立ち上げる事など考えていました。 お金遣いも荒く、アルバイトも増やし忙しく動き回っていました。

はっきりした初発症状はこれと思われ、するとこの時点では上記の(1)(2)(3)のいずれもが考えられます。この時点で最も考えられたのは統合失調症でなく双極性障害(躁うつ病)でしょう。つまり上記の(1)ということになります。
しかしその後の経過全体を見ますと、躁状態でないときでも(そしてうつ状態でもない)、幻覚妄想などの精神病症状が出ていますので、(1)双極性障害 も (3)統合失調感情障害 も否定され、統合失調症と確定診断されることになります。

(2014.3.5.)

05. 3月 2014 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症, 躁うつ病