【3112】うつ病と診断されているが、境界性パーソナリティ障害ではないか

Q: 私は22歳、女性です。
心療内科に通い始めてから、1年半ほど経ちます。
2ヶ月前に、うつ状態だと診断され、「今のまま働き続けると、深刻な状態に陥るのが目に見えています。仕事を休むか、もし辛いようであれば辞めることも考えて良いと思います。」とのことで、診断書を頂き、会社と相談した上で退社致しました。
今回ご相談したいのは、私は本当にうつなのかどうかということです。

これまでの経緯をご説明致します。

1年半前に初めて心療内科を受診した頃はアパレルの販売員をしておりま した。その時点で1年以上勤めていたのですが、売り上げを取ることへの焦り、上下 関係がとても厳しく、常に上司に対して恐怖心を抱きながら働いている中で、
・朝起きるととてもつらい。
・夜に眠れない。(寝つきが悪く、中途覚醒する。)
という症状が出始めましたが、「頑張らないと。」とあくせく働くうちに、上記に加え、
・食欲が低下し、物が食べられない。
・人と会話する時も、テレビを見ても、笑えない。
・「死にたい。」と思う。
・腕を切る。
などの症状が出始め、心療内科へ行くことを決めました。

その際は病名は知らされず、お薬(量は忘れましたが、メイラックスとレクサプロです。)を処方され、服用しながら仕事を続けておりました。
(上記の症状は少し緩和されましたが、辛かったです。)

ですが3ヶ月後に、
・吃音が出てまともに接客できなくなる。
・「いらっしゃいませ。」が言えない。
・拒食でガリガリになってしまい(160cm/37キロ)、耳の脂肪がなくなったとのことで、耳管開放症を患い、接客に支障が出る。
・全く笑えない。
などの症状が出始め、勇気を振り絞って「もう無理です。もう辞めたいです。」と上司に頭を下げました。

「じゃあ一旦お休みをとろう。」とおっしゃって下さったのですが、そのお休みというのが1週間で、それ以上は頂けませんでした。

休み中は、
・毎日寝たきりで、お手洗い以外はベッドの上で天井を見て過ごす。
・食事は朝にクッキーを1枚、或いは、サラダを3口程度。
・以前好きだった音楽も、しんどくて聴けない。
・「死のうかな。」と思い、自宅の2階から転落。(2階なので軽症でした。)
こういった生活を送り、復帰しましたが、「人が足りてないから辞めないでほしい。」と言われ、仕方なく毎日無理やり笑って仕事をしておりました。

そして8ヶ月前に、退社することができました。
退社後は「やっとゆっくり休める。」という思いとは裏腹に、「なぜ頑張れなかったんだ。」という罪悪感や後悔の気持ちが大きく、「早く次の仕事を探さなければ。」と焦っておりました。
ちなみにこの間も変わらずメイラックスとレクサプロを服用しておりました。

少し落ち着いてきた頃。
4ヶ月前にまた別のブランドで採用され、働き始めました。
新しい環境の中、慣れない部分もありましたが、毎日元気に出勤し、働いておりました。
しかし、1ヶ月経った頃、朝起きた時に「なんだかしんどい。仕事場に行きたくない。」と思いましたが変わりなく出勤致しました。ですが、仕事場で上司の指示が理解できず、何度も聞き返し、メモまで取ったのですが、メモを見返しても自分が何を書いているのか理解できず、頭の中がパニックになってしまい、ポロポロ涙を流しながら、「すみません。前の職場でいた頃から心療内科に通っているのですが、なぜかあの頃と同じような感じがします。」と伝え、その日は早退させて頂きました。
それから、毎朝起きるたびに体がだるく、「ああ今日も1日が始まってしまった。」と肩を落としながら出勤を続けておりました。
2ヶ月目が経ったある日、朝起きた瞬間に「今日はもうだめだ。」と感じましたが、 出勤しました。ですが、お店がオープンする前に、どうしても気分が上がらず、化粧ポーチから剃刀を取り出し、腕を切ってしまいました。が、すぐに止血しました。
その後店長が出勤され、「頑張って元気にならないと。」と元気よく挨拶したのですが、「今日しんどい?」と問われた瞬間、情けないことに「すみません。もう頑張れません。辞めたいです。」と伝え、早退させて頂きました。

そして病院へ行ったところ、1番上にも記しましたが、診断書を頂き、退社に至りました。
本当に申し訳ないことをしてしまったと感じております。

長くなりまして、申し訳ございません。

私が疑問に感じたのは最近です。
仕事を辞めた後、変わりなく服用しながらゆっくり休んでおりましたところ、最初は罪悪感と後悔に押しつぶされそうになり、腕を切ったり、睡眠薬を大量摂取した後首吊りを行うなど、自傷行為を繰り返すようになりました。その後周りからの支えもあり、「これではだめだ。前を向いていこう。」と思うようになったのですが、感情の起伏が激しく、コントロールできません。

例えば、
・「がんばろう。」と思っても、次の瞬間には「死にたい。」とばかり考える。
・優しい恋人に対してキツイことを言ったり、唐突に「別れたい。」と言う。
・全部めちゃくちゃになれと願う。
・母親に対して暴言を吐く。(なんで私のこと産んだんや、死にたいねん、など。)
・毎晩自傷する。
・「私が悪い。」と思う一方で、周りに対して「全員死ね。」と考える。
・SNSに過激的なことを書く。(みんな死ね、死にたい、消えろ、など。)
・私がいると、恋人にも家族にも不快でしんどい思いをさせてしまって、めちゃくちゃになってしまうので、罪悪感を感じる。可哀想だと思う。
・罪悪感を感じるが、相手の反応や発言の細かい部分が気になって落ち込んだり激怒する。

これはうつ病ではない気がします。
働いていた頃は、自分を責めることはあっても、他人を責めたり、落ち込みと激怒の往復が無かったからです。
そしてこれは、インターネットでふと目にした「境界性パーソナリティ障害」というものに似ていると感じました。
だとすれば、私は今はうつ病ではなく、この障害なのでしょうか。
それとも、もともとうつ病と診断されたものは実際はただの甘えであって、この障害だったのでしょうか。

次の仕事を探さなければと焦っているのですが、まともに働けるかどうかが不安で、どのように自分と向き合っていくのがベストなのかを知りたいです。
また医師に上記の旨を伝え、どうなのかを相談しようとも考えているのですが、林先生のご意見もお聞きしたい所存です。
細かい部分が抜けているかもしれないので、判断が難しいかとは存じますが、上記から考えられる、私の本当の病気が知りたいです。
とても生きにくいので、きちんと把握して治していきたいのです。
そして、早く社会復帰し、会社や社会のお役に立ちたいのです。

長文失礼いたしました。
お忙しい中申し訳ございません。
なにとぞ、宜しくお願い致します。

 
林: うつ病です。境界性パーソナリティ障害ではありません。甘えでもありません。

まず、状況(ストレスなど)を原因と考えるには強すぎる症状がある時点から出ていることから、内因性の病気である可能性が強く、そして症状の内容から、うつ病であると診断できます。このメールに書かれている症状はすべてうつ病の症状として矛盾はありません。特に、

・人と会話する時も、テレビを見ても、笑えない。
・以前好きだった音楽も、しんどくて聴けない。

などは、興味の喪失。

最初は罪悪感と後悔に押しつぶされそうになり、腕を切ったり、睡眠薬を大量摂取した後首吊りを行うなど、自傷行為を繰り返す

は、自責感。
で、これらはうつ病の典型的な症状としてよく知られているものです。

また、

・毎日寝たきりで、お手洗い以外はベッドの上で天井を見て過ごす。

は、現代のうつ病の診断基準にもある、「ほとんど毎日、ほとんど一日中続く抑うつ気分」にあたります。(これに対して、本人の主観の中ではほとんど毎日ほとんど一日中うつであっても、客観的にはそれなりに動けるケースが、最近ではしばしばうつ病とされていることがありますが、そういうケースはうつ病ではありません。この【3112】と対比すればあまりに明らかです)

さらに、うつ病では不安焦燥やイライラが出ることもあり、それは時に他人に向けられる場合があります。これらがそれにあたります↓

・優しい恋人に対してキツイことを言ったり、唐突に「別れたい。」と言う。
・全部めちゃくちゃになれと願う。
・母親に対して暴言を吐く。(なんで私のこと産んだんや、死にたいねん、など。)
・毎晩自傷する。
・「私が悪い。」と思う一方で、周りに対して「全員死ね。」と考える。
・SNSに過激的なことを書く。(みんな死ね、死にたい、消えろ、など。)
・私がいると、恋人にも家族にも不快でしんどい思いをさせてしまって、めちゃくちゃになってしまうので、罪悪感を感じる。可哀想だと思う。
・罪悪感を感じるが、相手の反応や発言の細かい部分が気になって落ち込んだり激怒する。

また、うつ病の自殺企図は、確実に死に至る方法がとられるのが典型的ですが、時にリストカットのような自傷という形をとる場合もあります。

この【3112】の質問者は、上記のような状態が、本に出ている境界性パーソナリティ障害に似ていることから、自分がうつ病ではなく境界性パーソナリティ障害なのではないかと疑っておられるようですが、これらの症状は、ひとつひとつを取り上げてみればうつ病でも現れるものですし、そもそも診断とは個々の項目に基づくものではなく、全体像に基づくものです。診断基準などに個々の項目が記されているのは、記述するためにまとめればそうなるということであって、項目のチェックと診断は全く別のものです。
精神科Q&Aへの質問メールでも、しばしば症状が箇条書きのように羅列されていることがありますが、そのような形では決して診断の推定はできません。症状の項目だけを見れば、うつ病も、パーソナリティ障害も、発達障害も、健常な人にもあり得ることの羅列にすぎないからです。
それに対してこの【3112】のように症状と経過が具体的に記されていれば、かなり確実に診断を推定することがあります。この【3112】のケースはうつ病です。境界性パーソナリティ障害ではありません。甘えでもありません。うつ病は適切な治療を受ければ治ります。うつ病の治療を受け続けてください。そうすれば

早く社会復帰し、会社や社会のお役に立ちたいのです。

その希望はかないます。

(2015.12.5.)

05. 12月 2015 by Hayashi
カテゴリー: うつ病, パーソナリティ障害, 境界性人格障害, 精神科Q&A