【2746】 境界性パーソナリティ障害と診断されていますが、本当に病気でしょうか

Q: 私は20代の女性、会社員です。
どうか、私の場合の「事実」をお答えいただきたいのです。回答が難しいようであれば参考にすべき過去の質問・回答だけでも教えていただけませんでしょうか。
長文になりますが、どうかどうか、ご一読のうえご回答をよろしくお願いいたします。

はっきりと何かがおかしくなり始めたのは、大学入学後でした。
高校時代、身体的な病気で人と接していない期間が長すぎたのか、入学して間もなく同級生から異常だと言われるようになりました。私自身は何が異常なのかわかりませんでしたが、振る舞いや言動が不自然だったのでしょうか。10人程度のグループに属していましたが、全員にお前はおかしい人間だ、狂っていると言われて、私は不愉快に思い傷つき、大学に行くのをすぐにやめました。両親が怒鳴るので、通学するふりをして喫茶店で一日過ごしたり、アルバイトをしていました。

大学入学から半年以内に、迷子になるようになりました。迷子というか、わからない道でもどんどん進んでしまい、大丈夫なはずなのに、パニックになってしまいどこだかわからないと家族に電話し、タクシーを呼んでもらい帰ったりしていました。
再び自傷行為をするようになり、そのうち人前でタバコを自分に押し付けたり、鏡に向かって物を投げたり、外で暴れて公共物を壊したりするようになりました。外に出てはいけない気がしましたが、じっとしていられず外出がやめられませんでした。
段々と外へ行く気力もなくなり、怖くなり、自宅でぬいぐるみを切り裂いたり割れ物を粉々にしてストレスを解消するようになりました。普段はそんな恐ろしいことをする自分が理解できないのですが、気付くとそうしてしまっていました。
そして、自分が何人もいるような感覚になり、私はここにいるはずなのに斜め上の宙から自分を見ているもうひとりの自分がいるように感じはじめました。そのもう一人の自分に恐怖を感じます。操られている時間があるように思うのです。夢の中で悪魔と戦い、悪魔は執拗につけてくるので現実でその恐怖から逃れるためにいろんなものを破壊し、威嚇し、常に刃物と火を身につけ、密室で何度も戸締りを確認しました。この文章を書くだけで今も息が切れ、恐怖で涙が出てきます。記憶の前後や、夢と現実がわからなくなりました。
体は、身体的な病気は治ったはずなのに胸が痛くて動けなくなったり、息ができなくなったりしました。金縛りのように力が入らないこともありました。

大学入学後、違和感の自覚と人からの言葉を受けて個人の精神科に自主的に行っていましたが、数分の診察で薬の話しかしてくれませんでした。パニック障害と言われました。安定剤と睡眠導入剤を処方されていました。両親は病院に行くことを叱り、薬なんか飲むからおかしくなるんだと言いました。
ただ、上記のようなひどい症状が出てから、両親に大きな精神科へ連れていかれました。もう一人では外に出れず、電車にも乗れなかったし、寝たきりのような状態になりかかっているときでした。若い男の先生で、私は院長先生に診てもらうはずだったのに話が食い違い、両親とともに抗議しましたが主治医はその医師から変わりませんでした。
ずっと安定剤ばかりで、抑うつ状態としか言われませんでした。この医師は私が相談をしても薬のことしか考えていなくて、全体的にどう治療していけばいいかを考えてくれません。個人の病院よりは診察時間は長いですが、結局薬の話しか反応がなく、カルテに書き込む様子もありません。両親は段々薬を飲むべきかそうでないかわからなくなったようですが、規則正しく生活して食事をすればよくなると言って、やはり服薬を嫌っているようでした。
ひどいときはガリガリに痩せましたが、急に肥満と言えるほど太ったりを繰り返していました。寝ることはできず、強い薬を飲んでいました。

その後どう過ごしていたか覚えていないのですが、物音や親の声が幻聴だと言われました。幻聴だと自分で言った記憶もあるし、そうは思っていなかった記憶もあります。分からなくなってしまいました。ここの2~3年間ほどの記憶の時系列がわかりません。

いろんなことがあり、たまに正常な自分が自分の中に戻り込んできたとき、嫌な自分にこれ以上操られるのは嫌だと感じ、首つりをしました。しかしひもがほどけてしまい両親に見つかってしまいました。自殺に失敗することも分かっていたように思うし、死んでもいいし、と思っていました。
朝になって閉鎖病棟に入院させられました。統合失調症の病棟で、完全に私物や装飾品も奪われました。面会も制限がありました。家族が面会にくるのが複雑でした。辛辣に扱い暴力もしてきたのに、会いに来て泣いたり心配したりと、私はさらに病んでしまいそうでした。
このとき何より憤りを感じたのが、主治医が私ではなく両親に「こんなに重症だと思っていなくて申し訳なかった」などと言ったと後から聞きました。
この頃にはもう、主治医を信頼していたので、なおさら怒りがこみ上げました。

そして、今度は境界性パーソナリティ障害と診断されました。しかし、私が「こんなところに入院して病名がつかないなんておかしいしどう治していいのかもわからないから病名をはっきりさせてくれ」と言って、渋々診断したような感じでした。
この時もまだ、病気のような、病気でないような気がしていました。
診断をうけたときは、これから自分で病気の知識をつけて対処ができると安心しましたが、病気の知識をつけるたび、私は結局何なのかわからなくなりました。

入院は確か2~3ヵ月で、そのあとは何もせず、通院のみで過ごしました。
退院から半年以上してバイトを始めたアパレルの仕事で、社員にならないかと言われて、大学をやめてそこに就職しました。働いて2年ほどが現在です。本社へ異動の話も出ています。
働き始めてからは楽しくて、接客以外の企画も任されたりと、病気を感じることはありませんでしたし、信頼できない病院へは行きませんでした。薬を飲まなくても生活ができました。一人で暮らすようになり、充実していました。

しかし、段々と金縛りのように体を動かせないようになり、仕事ができなくなってきました。頭痛や夢の悪魔も出てきたり、人を殺す感覚がしたり夢を見たりします。自分が宙から見ていることも増えてきました。正常と異常をスイッチして生活している感覚がします。自分で制御できるときもあれば、できないときもあります。そうなってくると、仕事に行くのは怖いので、休みがちになり、上司は休んでいいと言ってくれますが、病気のことはほかのスタッフには言うなと言ってきます。それに、病気ではなく個性なんじゃないかと上司に言われて、個性でこんなに苦しむものかと思う反面、私は身体的な不調をただ怠けているだけではないかとも感じます。みんなが我慢していることを我慢できていないだけではないかと思うのです。確かに受け答えはまともにできている時が多いし、もしかしたら私は思い込みだけでおかしくなっている時があるだけなんじゃないかと感じたりしました。しかし症状は突然やってきて、間違いなく何かが私を壊しているんだ、病気だ、と感じることもあります。かと思えば、みんな異常だけれど(私と同じ症状・感覚に陥っているけど)ちゃんとコントロールして、我慢しているのではないかと思ったりします。

また、私は昔から子供のような自慢嘘がやめられません。どうでもいい作り話を経験談のようにしてしまいます。嘘がばれてしまう怖さから、同じ人と長く交流することができません。仕事関係のひとたちへは気を付けて嘘をつかないようにしてきましたが、限界がきてしまいそうです。思い込むことで現実のように感じたりして、いつも自分の話が過去に言ったことと食い違っていないか怖くなります。

再び病院へ行き、診察して診断書がほしいというと、主治医は「会社の人になんて病名で言ってる?」と逆に聞いてきて、境界性パーソナリティ障害と答えると、「じゃあそれで書いておく」といいました。信じられませんでした。診断書をかくなら、ちゃんと診察してほしいし、病気じゃないなら病気じゃないと言ってほしいのに、「病気かもしれないし病気じゃないかもしれないし、病名はなんだかわからない」のように言うのです。
それに、薬を飲むと食べてしまい、太ってしまいやすく、アパレルでは体型も大切なので困るんですと言っても、毎回言わないと同じ安定剤を出したりします。

ここまできて、仕事もほとんどできなくなってきて、病気の診断も非常にいい加減に感じて、自分は正常なのかわからないし、どんなふうに治療したり、生活したらいいのかわからないのです。お店の人には症状をなんと説明していいかわからないし、このまま休み続けて迷惑をかけるわけにもいかないと思います。それに、お店の上司・スタッフは皆、私を普通に思っているので、これ以上普通に振舞うことが大変ですしできない気がしてしまいます。本社へ行ったらなおさら私は引き返せなくなり、漠然と取り返しのつかないことをしてしまうのではないかと怖くなります。また、スタッフの中には「精神病だとみんな気付いている」などと言ってくる子もいて、私はどう思われているのか実際わからないです。
両親は健康に働いていると信じているので金銭的に厳しくなってきていることも言えません。仮に言っても、実家に帰ればまた私は自由や穏やかな一人の時間を失い、余計症状がひどくなる気がするのです。
また、症状を感じるようになり、約半年前恋人に過去の話を含め打ち明けたら「理解できない、受け入れられない、支える自信がない」という理由から婚約を解消されてしまいました。これからの人付き合い、私は病気を前提に生きていくべきなのか、普通に生活していいのかわかりません。
正常な私がいるうちに、改善の道筋を見つけ、手をうちたいのです。ただの情緒不安定なのでしょうか。病気ではないのでしょうか。

病院を変えるべきですか? 私は病気でしょうか、健常者でしょうか? 病気だとしたら、なんという病気の可能性がありますか? 参考になる本などもありましたらご教授いただけますと幸いです。

長文になり申し訳ございません。お答えいただけることを心待ちにしています。どうかよろしくお願いいたします。

 
林: 解離の症状が認められます。はっきりお答えできるのはこれだけです。
おそらく診断名は解離性障害でしょう。境界性パーソナリティ障害にあたるかもしれませんが、そこまではわかりません。
今の病院は変えたほうがいいかもしれません。

メールの内容を順に見てみましょう。

はっきりと何かがおかしくなり始めたのは、大学入学後でした。
高校時代、身体的な病気で人と接していない期間が長すぎたのか、入学して間もなく同級生から異常だと言われるようになりました。私自身は何が異常なのかわかりませんでしたが、振る舞いや言動が不自然だったのでしょうか。10人程度のグループに属していましたが、全員にお前はおかしい人間だ、狂っていると言われて、私は不愉快に思い傷つき、大学に行くのをすぐにやめました。両親が怒鳴るので、通学するふりをして喫茶店で一日過ごしたり、アルバイトをしていました。

これが最初の変調ですね。最初の症状がどのようなものであったかは非常に重要な情報ですが、ここには「はっきりと何かがおかしくなり始めた」「全員にお前はおかしい人間だ、狂っていると言われ」た、など、抽象的な記載しかなく、結局のところ最初の症状については何ら具体的な情報がありません。
先に「はっきりお答えできるのはこれだけです」とお書きした理由の一因はこれです。
しかし、最初の変調についての具体的な情報が書かれていないのは、質問者の失策ではなく、具体的な情報を書けないこと自体が、【2746】の病の特性のひとつだと思われます。そのことが「解離の症状が認められます」という回答にもつながっています。

続けてメールの内容を見ていきましょう。

大学入学から半年以内に、迷子になるようになりました。迷子というか、わからない道でもどんどん進んでしまい、大丈夫なはずなのに、パニックになってしまいどこだかわからないと家族に電話し、タクシーを呼んでもらい帰ったりしていました。

この「迷子」も、これだけの記載では様々な解釈が可能ですが、【2746】の全体像からすると、軽い解離の症状であったと思われます。
そして直後の記述、

再び自傷行為をするようになり、

この一文は奇異です。「再び」とありますが、自傷行為の記載はこの一文が最初ですので、どこが「再び」なのかわかりません。
しかしこの奇異な記載も、解離の影響が感じ取れるものです。

そのうち人前でタバコを自分に押し付けたり、鏡に向かって物を投げたり、外で暴れて公共物を壊したりするようになりました。外に出てはいけない気がしましたが、じっとしていられず外出がやめられませんでした。
段々と外へ行く気力もなくなり、怖くなり、自宅でぬいぐるみを切り裂いたり割れ物を粉々にしてストレスを解消するようになりました。普段はそんな恐ろしいことをする自分が理解できないのですが、気付くとそうしてしまっていました。

これらは衝動制御の障害という言葉でまとめることが出来ます。衝動制御の障害自体は、やはり様々な解釈が可能ですが、「気付くとそうしてしまっていました」というように、健忘を伴っていること、その他の全体像との整合性から考えると、これも解離の関連症状とみるべきでしょう。

そして、自分が何人もいるような感覚になり、私はここにいるはずなのに斜め上の宙から自分を見ているもうひとりの自分がいるように感じはじめました。

これは解離でしばしば見られる幽体離脱と呼ばれる症状に一致します。

そのもう一人の自分に恐怖を感じます。操られている時間があるように思うのです。

解離では時にこのような体験があり、そしてこれは統合失調症の自我障害に非常によく似ていますので(「似ている」というより、文章で書くと「全く同じ」ともいえます。実際には症状のニュアンスが違うのですが、そこまで文章で表現するのは不可能に近いものです)、解離性障害は時に統合失調症と誤診されることがあります。

夢の中で悪魔と戦い、悪魔は執拗につけてくるので現実でその恐怖から逃れるためにいろんなものを破壊し、威嚇し、常に刃物と火を身につけ、密室で何度も戸締りを確認しました。この文章を書くだけで今も息が切れ、恐怖で涙が出てきます。記憶の前後や、夢と現実がわからなくなりました。

先に

しかし、最初の変調についての具体的な情報が書かれていないのは、質問者の失策ではなく、具体的な情報を書けないこと自体が、【2746】の病の特性のひとつだと思われます。

とお書きしたのは、上記とも関連しています。質問者の「記憶の前後や、夢と現実がわからなくなりました」という症状が、この【2746】の質問メールの乱れに反映しているのでしょう。したがって

そのことが「解離の症状が認められます」という回答にもつながっています。

という判断が生まれることになります。

大学入学後、違和感の自覚と人からの言葉を受けて個人の精神科に自主的に行っていましたが、数分の診察で薬の話しかしてくれませんでした。パニック障害と言われました。安定剤と睡眠導入剤を処方されていました。両親は病院に行くことを叱り、薬なんか飲むからおかしくなるんだと言いました。
ただ、上記のようなひどい症状が出てから、両親に大きな精神科へ連れていかれました。

これについても、「大学入学」と「上記のようなひどい症状」の時間的関係が曖昧で不詳ですが、その曖昧なこと自体が「記憶の前後や、夢と現実がわからなくなりました」の反映と判断できます。

【2746】の質問メールの順を追っての検討は、ここまでの通り、時間的関係等の曖昧さそのものが質問者の精神状態を示唆するもので、その限りにおいて検討には意味がありますが、つまりそれは質問メールの記載内容そのものは事実を正確に反映していないことにほかなりませんので、ここからはいくつかのポイントのみの指摘にとどめることとします。

病気ではなく個性なんじゃないかと上司に言われて、

これは意味深長な指摘で、いわゆるこころの病のうち、どこまでを病気と考え、どこまでを個性と考えるか、という問いに密接にかかわるものです。この問いについては サイコバブル社会 をご参照ください。

私は昔から子供のような自慢嘘がやめられません。

解離と虚言には関連性があります。また、境界性パーソナリティ障害をはじめとするB群パーソナリティ障害は、虚言と(そして解離と)関連性があります。これについては 美少女L、その他、の虚言 をご参照ください。(【2745】で言及した本の中でもっと詳しく述べます)

病院を変えるべきですか?

この回答の冒頭に

今の病院は変えたほうがいいかもしれません。

とお答えしました。このメールに描写されている今の病院での対応・治療は、不適切と解することが出来ます。しかし、このメールの他の部分と同じように、今の病院の対応・治療についてのメールの記載が、どこまで事実と一致しているか不詳です。さらにいえば、この【2746】の質問者の全体像からみて、病院の対応がいかなるものであってもそれに対して不信感を持ちやすいことが十分に考えられます。また、【2746】の病態は、主治医から明確に説明できるような性質のものではないうえ、明確に説明することはかえって病状を悪化させるというおそれから、曖昧に説明していることも考えられるところです。
したがって、事実が不詳である以上、今の病院は変えたほうがいいかもしれませんし、変えないほうがいいかもしれません。という回答になります。

 私は病気でしょうか、健常者でしょうか?

先に述べたとおり、病気と個性の区別は実のところ曖昧です。
しかし現代の標準的な精神医学の考え方からすれば、【2746】は病気の範疇に入るでしょう。

病気だとしたら、なんという病気の可能性がありますか?

解離の症状は確実にあります。おそらく解離性障害といえるでしょう。また、境界性パーソナリティ障害は解離を伴いやすく、【2746】にもその色彩が認められます。しかしパーソナリティ障害と診断できるレベルかどうかまではわかりません。

参考になる本などもありましたらご教授いただけますと幸いです。

【2045】一時はテレビの人さえ私を監視していると感じ 着替えもできなかったし トイレでも見られていると感じていた。今は人と喋りたくない。でもご紹介した、

柴山雅俊 『解離性障害』 ちくま新書 2007年

をお読みください。

(2014.7.5.)

05. 7月 2014 by Hayashi
カテゴリー: サイコバブル社会, パーソナリティ障害, 境界性人格障害, 病院を変えたい・変えるべきか, 精神科Q&A, 虚言, 解離性障害