【2669】50代後半になってから異常行動が見られるようになった母は境界性パーソナリティ障害でしょうか
Q: 現在82歳の母は、25年前に父が病死してから(当時、母は57歳)徐々に異常行動がみられるようになりました。万引きを繰り返したり、孫の教育や嫁の行動を巡って問題を起こし、68歳の時に、それまで同居していた弟夫婦の家を出て、弟の家の近所のアパートへ越してしまいました。その後は、一層不安定になり、精神科を受診。医師は「無理なこと(一人暮らし)を起こしてしまったことが原因の不安神経症」というものでしたが、8年前に、その医師が亡くなり、さらに弟一家も遠方へ引っ越ししてしまい、独身の兄が金銭的面倒をみることになりましたが、兄は一緒に住む事は無理だということで、精神科の通院も母一人で行っていることが多いです。私も弟も母のいるアパートへは新幹線で3時間はかかるし仕事もあるので、いろんな意味でままなりません。
そういう状況で、母を引き取ろうと数年前に新居を購入し母の部屋も確保したのですが、間際になって「どうしても長男の傍に居たい」と泣き叫ぶこと十数回。兄も中小企業の経営者で多忙で、かつ慢性的な持病も抱えており、母の面倒が見きれないので、私の家へ行ってくれと母に懇願するも、全て徒労に終わりました。
遠距離で、しかも夜中朝方関係なく、「今から屋上へ行って死ぬ」「今、首を吊る」だのの脅し電話が毎日のように続きます。翌日になったら、あっけらかんとしていますが。私に対する電話より、兄に対しては数時間置きに脅迫電話の類を繰り返していて、警察や救急車の厄介にもなっています。
母は、自分はとんでもない身体的な疾病にかかっていると思っているので、病院も数件にわたり検査を受けたりもしていますが、身体的には頑強なようです。しかし、3年前に検査の過程で小さな膀胱癌が発見されたとき、物凄く精神が安定していました。癌はレーザーで切除され予後も良好です。しかし、入院した大病院では大暴れし、挙句の果て、その病院から退去命令が出てしまいました。重篤な患者への配慮だということで、今も病院を探すのが一苦労です。とにかく、いつも大病にかかっているという妄想があり、そのたびに、兄が病院へ行くのですが、兄は老年科の医師から、「お母さんには、つける薬はないし、一緒に住もうなんてことになったら、貴方がおかしくなりますよ」と言われたようで、まさに過労で兄のほうが一カ月の入院をしてしまいました。「長男が命」の母ですが、兄が入院したときは、「私の方が深刻な病気なんだから」という理屈で一回も面会に行きませんでした。
また、母は毎日19時から23時まで、部屋中に嵐が吹きまくり凍え死ぬとの体感幻覚みたいな妄想をここ数年、訴えてもいます。勿論、嵐はおろか風も吹き込んでいない部屋ですが。そして身体のそここが痛いということでセデス等の鎮痛剤を馬のように飲んでいます。膀胱を悪くしたのも、若い時代からのこの薬の飲み過ぎかと思っています。
今現在、市の要支援の診断でも「悪いところが無い」ということで施設に入れることも困難ですし、高額の老人ホームへ入居させるほどの資産は私たち兄弟にはありませんし、今の母の状態では受け入れるホームもないと、市の方が仰っていました。
さて、当サイトの「境界性パーソナリティ障害」のページにある「診断室」のチェックリストを拝見しましたが、ほぼ母に該当しました。私は、夫と別居して母と同居するしか術はないし、兄は、それを願っています。私自身、うつ病の経験もあり、とても不安です。そして、弟も双極性障害で今失業中です。なんか、呪われた一族のようで、うまい対策が見つかりません。市の福祉の方も、お手上げという感じの対応です。 いったい、どうすれば良いのでしょうか? 本当に薬がないのなら、認知療法を受けさせたいのですが、母の住所近辺にはそういう病院はありません。身の上相談みたいな内容に偏ってしまい、本当に申し訳ございませんが、ご示唆頂きたく存じます。
林: 大変お困りの様子はお察しいたしますが、お母様の症状の重要な点について、いくつか不明の点があるため、よくわかりません。ひとつだけ確実にいえることは、
当サイトの「境界性パーソナリティ障害」のページにある「診断室」のチェックリストを拝見しましたが、ほぼ母に該当しました。
そのようなことを根拠に境界性パーソナリティ障害という診断はできないということです。精神科の診断において、チェックリスト的なものはすべて目安であり、診断そのものにはあまり役立ちません。
この【2669】のケースの診断を推定する際にもっとも重要な点のひとつは、
25年前に父が病死してから(当時、母は57歳)徐々に異常行動がみられるようになりました。
この発症時期です。
もしそれまで何の問題もなく、50代後半になってから異常行動が現れたのであれば、境界性パーソナリティ障害の可能性はほぼゼロです。境界性パーソナリティ障害 患者・家族を支えた実例集 のケース29、「48歳の姉は境界性パーソナリティ障害になったのでしょうか」がまさに同様な誤解の例で、中年以降にパーソナリティ障害に似た症状が見られた場合は、前頭側頭型認知症のような、脳器質性精神障害を第一に考えるべきです。
また、
孫の教育や嫁の行動を巡って問題を起こし、
その「問題」の具体的内容についての情報が、診断の推定のためには必須です。単に「問題」ではわかりません。
ただしこの【2669】のメールの記載からは、一体いつから問題行動が現れたのか、もともとはどういう人だったのかがわかりません。
そして身体のそここが痛いということでセデス等の鎮痛剤を馬のように飲んでいます。
これは、その後の文章からすると、若い頃からそのように薬を大量に飲んでいたという意味のようですが、すると若い頃から他にも何らかの問題行動があったのでしょうか。
また、「馬のように」では、わかりません。具体的にどのくらい飲んでいたのかという情報が必要です。
それから、
母は毎日19時から23時まで、部屋中に嵐が吹きまくり凍え死ぬとの体感幻覚みたいな妄想をここ数年、訴えてもいます。
これも、「体感幻覚」みたいな「妄想」などと、聞きかじりの専門用語を使うのではなく、もっと具体的な情報が必要です。
以上のように、情報不足の点が多いのですが、子である質問者とお兄様がそれぞれ うつ病、双極性障害、という情報が真実だとすれば、精神障害が多発している家系と思われますので、お母様に見られる多くの異常行動は、パーソナリティ障害や脳器質性精神障害によるものではなく、統合失調症圏内の症状によるとも考えられます。
なお、いずれにせよこの症状に対しては、
本当に薬がないのなら、認知療法を受けさせたいのですが、
それは無効でしょう。この場合、認知療法は意味がありません。
いったい、どうすれば良いのでしょうか?
診断を推定するための情報不足のため、わかりません。
が、このメールを見る限りでは、精神科の通院はしていても、入院されたことはないように読み取れます。これだけの症状があってご家族が困窮しておられる、かつ、診断が確定していない。そのような状況では、精神科病院への入院を最優先で考慮すべきだと思います。
(2014.5.5.)