【4751】小学生の息子へのコンサータ処方についての疑問
Q: 私は30代男性です。私には息子が3人おり、小学校5年の長男はADHDと診断され、現在コンサータを服用しながら学校へ行っております。
父親の私も、小学生の頃より、興味がない話や科目、またはいつもは興味がある科目でも先生の話がつまらないと、そわそわ落ち着かない気持ちを抑えるのが困難で教室を動き回ったりしておりました。
例えばテレビが点いていて、興味のない番組が映っていると、それに耐えられず、その場を離れるか、テレビを消さなくては気が済まないのです。気にしないということが出来ないといいますか・・・
逆に興味のある話題は、相手の言葉を一言一句暗唱出来たり、本もほぼ丸暗記できたりと集中力に大きく波がありました。
今思い返せば、何らかの発達障害(軽度な)があったのではないかと思います。
ただし、わたしの場合は投薬は一切しておりませんし、中学校入学の頃からは、何とか動き回りたい自分を制御できるようになりました。
そんな私も親になり、息子が保育所の頃から、先生の話を黙って聞くのが苦手(そわそわ動いたり、他のことを始めてしまう)なことは気になっておりましたが、私のようにそのうち何とかなるだろうと楽観しておりました。
しかし小学校に入ると、状況が変わりました。
息子の小学校には各学年に特別支援学級が併設されており、発達障害などの軽度の障害があるとやんわりこっちを勧められます。授業カリキュラムが一部違います。(もっと重い子供用の養護学級も他にあります。)
その基準は、当県にある国立大学教育学部の有名教授(70代後半)が年一で各学校の巡回を行い授業風景を視察し、気になる子供をピックアップし、その子供の授業態度などを学校側が精査し、親へ伝えます。
息子も小学校1年生の時に当たってしまい、私は学校に呼び出され、担任の先生より話を聞きました。
小学校1年生の当時の息子の問題行動は以下のようなものがあります。
・授業中に席を立つ(何かをするわけでもない。ただ立ってしまう。)
・国語の授業の際、教科書で「ずるがしこい狐くんが食べ物を隠してしまったのは何故か考えよう」といった情緒的な問いに対して、息子が大好きな自然教育番組で知った「イヌ科の動物は食べ物を土に埋めて保存を試みる」という回答をしていた
・納得のできない問題(クラスメイトとの喧嘩など)に対して、非常に意固地であること
・テンションが高まると、大きな声を出したり、モノを叩いたりする
そして、学校からは、
「XX医院もしくは、YY医院を受診してください」と心療内科の指定を受け、学校での行動をまとめた報告書と共に受診し、トントン拍子でコンサータの投薬が決まりました。
以降、1‐2年生・3‐4年生で担任が変わり、その間に、
1:小学2年次、先生から叱られた際に壁に頭を繰り返しぶつける
2:小学3年次、自分が納得できないと「ほかの部屋で考えてきます」といって出て行ってしまう(学校もそれを容認し、1時間目から4時間目まで授業に出ない)
3:小学3年次、上級生とケンカして相手を殴ってしまう。
が起こり、学校からの報告書を医院に持っていき、コンサータを増量になりました。(学校からはコンサータはとてもいい薬なので心配いりません、と云われました。)
家庭では、上記1~2のようなことは今まで1度もなく、学校から報告があった際は青天の霹靂でした。
1~2の問題があった日も、息子は家ではケロリとしており、どうしてそんなことをしたのか、と聞いても「よくわからない、理由は特にない」といっていました。(3については家で弟とケンカしても手が出ます。)
息子は「薬を飲むとモヤモヤしなくなる。でも給食が食べられなくなる。」といいます。
特別支援学級については、息子も毎年勧められますが、授業成績は常に学年上位なので、それを理由に私が断っています。
そして、現在5年生、新たに担任についた先生は息子も気に入っており、(前二人の担任はあまり好きではなかったようです。)
その担任は長男の異常行動はこの4月~10月で一度も無かった。といいます。
そこで、質問の本題です。
1. この学校のやり方は、必要のない子供にも投薬をさせてしまうリスクがあるのではないか。
2. 息子も5年生なので、最終的に断薬を視野に入れた段階的な減薬を行うべきではないか。(しかし学校に勧められた医院の主治医は「それも考慮できるから学校と相談して」と云い、学校は減薬に賛同してくれませんでした。)
3. ADHDなのは間違いないとしても、上記問題は生活環境にも原因があるのではないか
以上が質問です。
私は以前に薬学の研究員を数年していた際、「薬と毒は表裏一体であり、作用(メリット)が副作用(デメリット)を上回るものが薬、その逆が毒である」と一番最初に学びました。
精神科の薬はその多くが、大きな副作用を孕んでいるものが多く、特に10歳以下の子供に使用し、メリットがデメリットを上回るのはよほどの事態なのではないか、本当に我が息子にそれが必要なのか、と思ってしまいます。
ちなみに三男(来年1年生)も私の素人所見では、多動性のような行動が見られ、兄のようにトントン拍子に投薬されないか心配しています。
林:
1. この学校のやり方は、必要のない子供にも投薬をさせてしまうリスクがあるのではないか。
問題は学校のやり方ではなく、医師のやり方だと思います。
生徒に何らかの病気の可能性があるとき、学校が、医療機関の受診をすすめるのは当然です。そこには問題はありません。
しかし、病気の治療は薬だけではありません。もちろん必ず薬を飲むべき病気もありますが、ADHDはそうではありません。とても重症なら別ですが、この【4751】のケースはそこまで重症ではありませんので、薬の投与には慎重でなければならないと言えます。
したがって、
そして、学校からは、
「○○医院もしくは、××医院を受診してください」と心療内科の指定を受け、学校での行動をまとめた報告書と共に受診し、トントン拍子でコンサータの投薬が決まりました。
このような投薬の開始法は問題です。
この投薬に至るまでには、第一段階として学校からの医療機関受診の勧めがあり、第二段階として医師の診療があったわけで、質問者としては第一段階の方に疑問を持っておられますが、冒頭にお書きしたとおり、生徒に病気の可能性があれば学校が医療機関の受診を勧めるのは当然ですので、第一段階には問題はありません。問題は第二段階、すなわち医師の治療方針です。
ただしここには
トントン拍子でコンサータの投薬が決まりました。
と書かれていますが、その処方開始が「トントン拍子」だったというのは質問者の印象にすぎませんし、質問者がコンサータ処方に疑問を持っておられることは明らかですので、その疑問の気持ちが「トントン拍子」という表現になっているかもしれず、実際にはどのような経緯であったか不明です。医師は十分な診察に基づいてコンサータの処方が適切であると判断されたのかもしれません。そのような細かい事情はメールからは読み取れませんが、ここは精神科Q&Aの基本方針通り、メールの内容は事実であると仮定して回答しています。
2. 息子も5年生なので、最終的に断薬を視野に入れた段階的な減薬を行うべきではないか。(しかし学校に勧められた医院の主治医は「それも考慮できるから学校と相談して」と云い、学校は減薬に賛同してくれませんでした。)
主治医はあまりに無責任だと思います。減薬するかどうかは医師の責任において決定すべきことであるのは当然で、学校が決めることではありません。
ただしここでも、
学校と相談して
実際にはこれがどのような説明であったかが不明ですし(学校での状態が処方継続の可否を決めるための一つの重要な要素であることは確かですので、学校での状態を学校に確認することまでは正当です。「学校と相談して」という表現が、それを意味しているのか、それとも、学校の方針に従って処方を決定する、ということを意味しているのか、このメールの文章からは判断できません。前者であれば正当、後者であれば不当です)
また、
学校は減薬に賛同してくれませんでした
これも、実際にどのようなものであったかが不明で、「学校の意見としては減薬しないでほしい」というレベルであれば、学校としてそのような意見を示すことには何の問題もないでしょう。メールの文章からは、「減薬について医師は学校の意見に従うと言い、学校は減薬に反対し、医師はその意見に従った」と読めますが、はたして事実がその通りであったかどうかは不明です。
また、
学校からはコンサータはとてもいい薬なので心配いりません、と云われました。
学校のこの説明はでたらめです。どんな薬であっても必ずデメリットがありますから、「心配いりません」などということはありえません。(ただしここでも実際の説明がどのようなものであったかが不明です。「そんなに心配することはない」というようなニュアンスであれば、でたらめとは言えません)
このように、メールからは不明な点が多々あるにせよ、それでも確実に言えることは、処方は医師の責任であって、学校の責任ではないということです。したがってご質問1の回答に記したとおり、問題があるとすればそれは医師にあるのであって、学校にあるとは言えません。
3. ADHDなのは間違いないとしても、上記問題は生活環境にも原因があるのではないか
当然です。どんな場合でも、症状には生活環境の影響があります。ただしその影響の程度は、病気によって、また同じ病気でも個々のケースによって異なります。かならず薬が必要なケースもあります。
この【4751】は、生活環境の影響がかなり大きいケースだと思います。
なお、この回答の冒頭に述べた「生徒に何らかの病気の可能性があるとき、学校が、医療機関の受診をすすめるのは当然」は、抽象的なレベルでは当然ですが、ではその病気を学校としてどのように発見するかは、慎重にしなければならない方針です。その意味で、
その基準は、当県にある国立大学教育学部の有名教授(70代後半)が年一で各学校の巡回を行い授業風景を視察し、気になる子供をピックアップし、その子供の授業態度などを学校側が精査し、親へ伝えます。
この方法が適切といえるかどうかは微妙です。ここには精神疾患(特に小児)の早期発見をめぐるデリケートな問題があり、身体疾患の場合と同列に考えることはできないところです。
それからもう一つ追加しますと、
精神科の薬はその多くが、大きな副作用を孕んでいるものが多く、
それは精神科の薬に対する明確な偏見です。どんな薬にもメリットとデメリットがあり、精神科の薬が特にデメリットが大きいということはありません。もっとも、
特に10歳以下の子供に使用し、メリットがデメリットを上回るのはよほどの事態なのではないか、
それはその通りですが、これについても精神科の薬が特にデメリットが大きいということはありません。
質問者は薬についての仕事に従事されていたことがあるとのこと、すなわち薬については専門家であるはずですが、専門家としてこのような偏見をお持ちになっていることは特に問題だと思います。
本当に我が息子にそれが必要なのか、と思ってしまいます。
そのお気持ちは十分に理解できるところで、このお気持ちが「精神科の薬はその多くが、大きな副作用を孕んでいる」という薬の専門家らしからぬ失言を発生させたのかもしれませんが、偏見であるという事実は動きません。その偏見が、質問文全体に影響している可能性も否定できないと思います。
(2023.11.5.)