【4129】主治医はせん妄ではなく一生服薬が必要であると断言しています(【3882】のその後)

Q: 【3882】インフルンザに罹患したのち急性一過性精神病性障害と診断されましたの30代女性です。ご回答頂き本当にありがとうございました。
林先生に統合失調症ではないかもしれないと言っていただき希望の光が一筋差したようで嬉しかったです。
しかし欠けている情報があったので、捕捉させていただきます。

X日    インフルエンザに罹患、38度超発熱、医療機関受診、タミフル服用
X+1日  発熱38度超、薬を飲む、飲ませるなどの行動の管理ができにくくなる(子供に薬を呑ませるのを忘れたりする)
X+3日  発熱37度超、自分インフルエンザでしんどいが、子供3人の世話をする。夫の対応を冷たく感じ、夜、涙が止まらなくなる。
X+4日  発熱は微熱、涙が一晩中止まらずに朝方少しだけ眠ることができる。夫に冷たい対応をされ、疲れているのに本を読んだり、メールを返信したりする。午後ご飯を作れなくなり普段は絶対にあげない菓子パンを子供にあげる。気力がわかず、気持ちがとても沈みこむ。夕方買い出しに出たあと夕食は何とか作るが全く食欲がわかずほとんど食べられない。頭がサーッと冷たくなるような感覚がある。夜、夫が話を聞いてくれるが時はすでに遅し、体は寝ているのに精神だけ起きているような半覚醒の眠りとなる。
X+5日  眠れなくなり朝方しんどい気持ちが増幅し経験したことのないような不安感が押し寄せる。頭がどうにかなってしまいそうだったが、「これは医療の領域のことだ」と自分を落ち着かせ、救急車を呼ぶ。精神科に行くように言われ、クリニックの開院を待って受診、「産後うつ」との診断をうける。精神安定剤と漢方を服用。
X+7日  完全に眠れたという感覚が全くないまま、おかしい人になりたくないという気持ち、何とか眠らねばという気持ちで近所の山を散歩したり実家に帰ったりする。自分の認識が間違っており、夫の認識が正しいと気付きあと一歩で眠れそうになるが母に「精神病院に入院した方がいい」と言われたことにひどく傷つき、どうしても眠れず、ものすごく暴れた。夫が救急車をまた呼んだがきてもらえず警察が来た。
X+8日  夢か現実かわからない世界のなかで、自分が死ななければ長男が死ぬ状況でどうしても死ねなかったため、夫からひどい憎悪を感じる。家族全員から失望され、憎悪されると感じた。精神病院に入院。自分がおかしく、精神病院に行くことは分かっていた。病識はあったが、夫から怒りを感じていた。(本当は夫はただただ心配していたのに)

精神病院に入院したのち行われた処置については、点滴を打たれたこと、また紹介状にあったのはオランザピンの投与とあったのでその薬剤による処置が行われたのだと思います。
1日で正気を取り戻しました。ただ、夫が怒っているという妄想はしばらくありました。夫が面会に来てくれたので、徐々にそれは間違いだったと気付きました。病院に入院している時、最初は臭いを感じなかったり、活字が読めなかったり、貼り紙に気づかなかったりと、認知の障害のようなものがありました。しかしそれもどんどんと回復し、21日間の入院で退院しました。

現在は医師の指示のもとオランザピン2.5mgを半錠にして寝る前に服用し、もう1年になります。全く病前と変わらず生活しております。医師からは、せん妄ではなく、絶対に精神病状態(一過性の統合失調症状態)であったということを言われています。

医師は、薬をやめるか一生服用させるかとても迷うと当初は言っていましたが、親類(叔母)に精神病院入院歴がありずっと服薬を続けていることを伝えてから私も一生服薬したほうがよいと言われ、とても戸惑っています。(その叔母は病名は不明ですが、私と同じように産後精神病院に入院しています。一度服用を勝手にやめて再発し入院、その後普通に生活しています)

林先生の見解をお伺いしたいです。私は、主治医の言うように再発の可能性のある統合失調症のようなもので、一生服用をしないといけないのでしょうか。

林先生も【3882】でご判断された通り、私は統合失調症の典型的な症状とは違う特徴のある症状だったと思います。被害妄想ではなく、自分の潜在意識が暴れだした、無理しすぎる自分に対して自分が怒り、眠りという潜在意識に潜る行動ができなくなったという体験でした。その際父と母が怖いと叫んで、本当の自分の気持ちが露呈して体が暴れだしたという体験でした。自分がおかしいという病識もありました。精神病院にいくのだということも分かっていました。

しかし主治医は、私は統合失調症だと判断しており、そのような父母に対する叫びも妄想であると言われました。私の感覚ではそのようなものではありませんでした。とにかく発症時の全ての体験が、私の今までの無理を反省させ、間違いに気づかせるような、神様があえて体験させてくれたような、とても不思議な体験でした。

主治医はせん妄では絶対にないと繰り返すだけで、その理由は特に言われませんでした。私のどういう部分が統合失調症なのかも教えてくれません。少し悪い話をするとすぐに薬を増やそうとするので正直なことはあまり言えません。

普段は育児も家事も全て問題なくできているのですが、半年前ころから、頭の中に「死にたい」という考えが浮かんでくるようになりました。だんだんと頻度が増えています。とても困っています。子育てで疲れを感じたり、孤独を感じたり、失敗をしたりしたとき、繰り返し浮かんできます。発症前も頭の中に同じ考えが浮かんでいました。今は寝られていますし、普段の行動全く問題ありませんし、考えが浮かんでくる以外の症状は何もありません(夫などから見て客観的にもそうです)。しかし主治医に言えば簡単に副作用のきつい薬を増やされるだけなので言えません。

また、1ヶ月前に、転居に関する非常に悩ましい決断を迫られて、それが人生を左右するような決断だったため、さまざまな疲れも重なり一晩眠れなくなりました。その時は主治医の判断で安定剤と眠剤とオランザピンを1錠に追加して無事に寝られました。その際眠れなかった翌日に口が勝手に動くような感覚がありました。口が勝手にへの字になるような感覚がありました。

やはり私は統合失調症なのでしょうか。一生服薬が必要なのでしょうか。
こんなことは誰にも相談できずとても悩んでいます。

 

林: その後の経過、そして【3882】についての重要な追加情報のご報告をいただきありがとうございました。いただいた情報を総合しますと、今後の服薬についてはかなり判断が難しいケースであると言えます。ただしそれは長期的にみた場合であって、現時点ではまだ服薬が必要であると判断できます。この結論に至った理由は次の通りです:

(1) 【3882】のインフルエンザ罹患後の精神症状は、せん妄と何らかの精神病の両方の可能性があります。

【3882】で私は「主観的体験からみて、どちらかといえばせん妄の一型とみるほうが妥当であろう」と回答しました。
今回の【4129】の情報はその回答を強化するもので、せん妄の可能性により強く傾けるものです。したがって、「両方の可能性がある」とまとめてしまうと【3882】の可能性と同様ですが、【4129】の情報によって、【3882】のインフルエンザ罹患後の精神症状については、せん妄である可能性の方がより高まったと言うことができます。ただしこれは、当時の症状だけに着目したもので、(2)以下の内容を総合すると、やはり「せん妄と何らかの精神病の両方の可能性があります」とまでしか言えません。すなわち、何らかの精神病の可能性は否定できないということです。ここで「何らかの精神病」とは、統合失調症以外にうつ病(特に精神病症状を伴ううつ病)を含みます。

(2) 【4129】の情報、そしてインフルエンザ罹患後の精神症状以外についての【3882】の情報からは、単なるせん妄よりも、何らかの精神病に罹患している可能性の方がより高まります。

その情報とは、ひとつは【3882】にも書かれていた、発症数週間前の希死念慮、そして今回の【4129】の、

半年前ころから、頭の中に「死にたい」という考えが浮かんでくるようになりました。だんだんと頻度が増えています。

また、1ヶ月前に、転居に関する非常に悩ましい決断を迫られて、それが人生を左右するような決断だったため、さまざまな疲れも重なり一晩眠れなくなりました。

という症状、そして、主治医も診断上重視したと思われる、

親類(叔母)に精神病院入院歴がありずっと服薬を続けている

その叔母は病名は不明ですが、私と同じように産後精神病院に入院しています。一度服用を勝手にやめて再発し入院、その後普通に生活しています

という家族歴です。

(3) 質問者からの情報にはバイアスが含まれていることが否定できません。

質問者は

林先生に統合失調症ではないかもしれないと言っていただき希望の光が一筋差したようで嬉しかったです。

と述べており、今回の【4129】の質問は、自分が統合失調症ではないという回答を望んでなされていることは明らかです。すると質問者は、意識的・無意識的に、せん妄であるという判断に傾ける情報を強調し、精神病であるという判断に傾ける情報を隠蔽、とは言わないまでも、薄めていることが否定できません。
その観点から上記(1)(2)にあらためて目を向けますと、せん妄であるという判断に傾ける情報は、【3882】のインフルエンザ罹患後の主観的な症状のみですので、それを重視してせん妄であると判断することにはかなり慎重な姿勢が必要ということになります。

(4) 主治医は【3882】【4129】の内容をはるかに超えた情報に基づいて判断しているはずです。

主治医はせん妄では絶対にないと繰り返すだけで、その理由は特に言われませんでした。

これは不可解ですが、質問者の症状について、【3882】【4129】に書かれている内容以外の所見もあわせてそう判断されているのだと思います。
しかし、せん妄でも統合失調症と区別がつかない症状が現れることはありえますので(通常は区別がつきます。症状を「幻覚」「妄想」のように単語で要約してしまうとせん妄と統合失調症はかなり似た症状ということになりますが、精神医学的にみれば明らかに異なることが大部分です)、「せん妄では絶対にない」などと言えるはずがありません。
また、

私のどういう部分が統合失調症なのかも教えてくれません。

この姿勢も主治医としてどうかと思われるものです。
しかし、主治医としての姿勢と、診断技術は別次元の話ですから、姿勢として不適切なことと診断の正否とは無関係です。また、上記の通り、「せん妄では絶対にない」などと言えるはずはありませんが、主治医がこの言葉通りに質問者に説明したかどうかは不明です。多くの場合、「主治医がこう言った」という患者さんからの情報は不正確なものです。全くの誤解のこともありますが、そこまでではなくても、患者さんが報告する医師の説明の文言は実際とは異なることが大部分です。

以上より冒頭の結論が導かれます。すなわち、この【4129】は、今後の服薬についてはかなり判断が難しいケースであると言えます。ただしそれは長期的にみた場合であって、現時点ではまた服薬が必要であると判断できます。なお、その場合の薬は、現在の処方であるオランザピンが適切かどうかはわかりません。これまでの経過からみて、このケースでは薬の量を増やして症状に対処する必要が出てくることがかなりの確度で見込まれます。すでに現時点で増やすことが必要かもしれません。しかし最近増量した際に、

口が勝手に動くような感覚がありました。口が勝手にへの字になるような感覚がありました。

とのこと、これは副作用としてのジストニア(またはその前兆)と考えられますので、オランザピンを増やすことは難しいでしょう。他の薬を検討すべきところだと思います。

(2020.9.5.)

05. 9月 2020 by Hayashi
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