【3882】インフルエンザに罹患した後、急性一過性精神病性障害と診断されました

Q: 私は5ヶ月前にインフルエンザに罹患し、その後急性の精神病状態に陥り、精神科病院に入院しました。
私の年齢は36歳、既婚者で、子どもは3人、うち一番下の赤ちゃんがまだ4ヶ月のときのことです。子どもたちも皆インフルエンザにかかり、一人で家に缶詰め状態で世話をしていたところ、夫から冷たくされ、極度の疲れもあって涙が止まらなくなり、精神的に非常に落ち込みました。その数週間前から、育児疲れと友人がいない孤独な状況に「死にたい」という考えが頭に浮かんでは消える状態になっていたのですが、インフルエンザにかかり、疲れているのにどうしても眠れなくなり、母や保険センターなどに連絡をとり「眠れないこと」「死にたいと考えてしまう」ことを相談しました。
その夜半覚醒のような眠りを経て、翌朝今まで経験したことのないような、極度の不安感、恐怖感が襲い、救急車を呼ぶほどの騒ぎを起こし、初めて精神科を受診しました。
そこでは「産後うつ」との診断をうけました。
帰宅後安定剤と漢方を服薬、子どもたちの世話は一切できなくなり、朦朧とする意識の中で自分が自分の発した 「死にたい」という言葉に自分自身が傷ついて、眠りという潜在意識に潜る行為ができなくなったことが分かりました。
実際にもう一人の自分(潜在意識)が私の口から言葉を発しました。(実家に帰ろうとすると「違うんだよ」、父親に対して「イヤイヤイヤ」と叫ぶ)
その後2日目の夜により状態が悪化して、「主人や主治医に催眠術をかけられている」「私が死ななければ息子が死ぬ」「このまま眠らなければ障害がのこり家族に迷惑をかける」という妄想があり、主人に対して暴れたため精神科病院に入院しました。自分がおかしくなったので 病院にいくという病識はありましたが、夢か現実か分からない状態でした。

その後精神科病院で処置を受けすぐに正気を取り戻し、23日間で退院しました。入院中の病名は「うつ病」、退院時の病名は「急性一過性精神病性障害」でした。
入院中も最初のうちは完全に眠ることができませんでしたが、体がかくっと震えると自分の潜在意識に段階をふんで入れるという意識が自分の中にあり、ある晩半覚醒の眠りで体がものすごく何度も震え、自分の潜在意識に「絶対に生きる」「これからは絶対に自分を大切にする」ことを刷り込んだ結果、やっと完全に眠ることができました。その際、「お父さんお母さんがこわい」とものすごく大声で叫び、自分でもびっくりしました。

退院後半年経過した今は医師の指示のもとオランザピン2.5を半錠にして毎晩飲んでいます。退院後は全く元通りとなり子供の世話から家事全般からこなせています。
しかし薬を呑まなければ7,8割再発があると医師から言われておりとても恐怖を感じています。そこで先生にお尋ねしたいことがあります。

(1) 再発の可能性はあるのでしょうか?
(2) 私は統合失調症なのでしょうか?

自分の症状が何だったのか今考えても不思議でなりません。
とても恐ろしい体験でしたが、本当の自分の気持ちを叫んだことである意味すっきりするような体験でもありました。
先生のご意見をお聞かせ頂けたらとても嬉しいです。
インターネット上に急性一過性精神病性障害の情報が少なく、自分の症状は何だったのか、悩んでいます。

 

林: このご質問にお答えする上でとても重要な二つの情報が、このメールには欠けています。ひとつは、インフルエンザの症状と治療です。症状としては、特に、熱はどのくらいのレベルだったのか。治療としては、たとえば、タミフルは使われたのか、使われていなかったのか。もうひとつは、

その後精神科病院で処置を受けすぐに正気を取り戻し、

この 処置 とはどのようなもので、その結果どのような経過をたどったのか。たとえば、薬は使われたのか。使われたとしたらどんな薬が使われたのか。また、「すぐに」というのは具体的にどのくらいの時間なのか。

この二つは言い換えれば、発症の原因についての情報と、回復の要因と経過についての情報です。これらがわからないことには、回答は不可能・・・といってもいいくらい、この二つの情報は重要ですが、それでもとりあえず答えられる範囲で回答してみることにいたします。

欠けている情報とは逆に、このメールで非常に詳しく書かれていて、診断のうえで貴重な情報は、質問者の主観的体験についての描写です。この描写から読み取れるのは、この症状は一種の意識変容の可能性が高いということです。このような症状は精神病性障害(この言葉は、統合失調症とその近縁の精神障害を包括する言葉です。すなわち、統合失調症と、統合失調症の診断基準は満たさないものの統合失調症と同じまたは類似した病態を指します)としてもあり得るものですが、せん妄の一型としてもあり得るものです。この二つ(精神病性障害か、せん妄か)の鑑別のためには、上で指摘した、「発症の原因についての情報」が必須で「回復の要因と経過についての情報」がそこに加わることで、原因についての判断を強化することができます。
より具体的には、インフルエンザかその治療薬による症状と判断できれば、これはせん妄であって、急性一過性精神病性障害ではないと結論できます。急性一過性精神病性障害はICD-10に収載されている診断名で、せん妄などによる症状であれば、この診断名にはあてはまらないと規定されています。(DSM-5では 短期精神病性障害 がほぼ急性一過性精神病性障害にあたります。DSM-5でも、せん妄などによる症状であればあてはまらないと規定されています。)

したがって回答は本来は不可能なのですが、それでもメールに記載された主観的体験から判断するとすれば、精神病性障害よりはせん妄の一型とみるほうが妥当だと思います。そうだとすれば、薬を飲んで再発を予防する必要はないということになります。

ただし、発症の経過もあわせて考えると、

その数週間前から、育児疲れと友人がいない孤独な状況に「死にたい」という考えが頭に浮かんでは消える状態になっていた

ことが気になるところです。もしこの「育児疲れと友人がいない孤独な状況に「死にたい」という考えが頭に浮かんでは消える状態」が、単なる落ち込みではなく、精神症状と言えるレベルのものであったとすると、質問者には、インフルエンザ罹患の前から精神症状があったということになり、すると、インフルエンザ(及びその治療薬)は、精神病症状の原因とは言えず、診断は急性一過性精神病性障害に傾きます。それでも せん妄の一型とみるほうが妥当 と申し上げたのは、そのような経過をあわせて考えたとしても、主観的体験からみて、どちらかといえばせん妄の一型とみるほうが妥当であろうという意味です。

(1) 再発の可能性はあるのでしょうか?

「可能性」については「ゼロ」と答えることはいかなる場合もできませんので、「可能性」についての「ある」「ない」の二者択一の問いに対しては、常に「ある」という答えになりますが、上の説明の通り、このケースをせん妄の一型とみれば、再発のおそれはほとんどないと言えます。(ただし、この回答の冒頭に述べたように、このメールには重要な情報が欠けていますので、それらの情報が加われば、判断は大きく変わることがあり得ます)

(2) 私は統合失調症なのでしょうか?

統合失調症ではないと思います。(ただし、この回答の冒頭に述べたように、このメールには重要な情報が欠けていますので、それらの情報が加われば、判断は大きく変わることがあり得ます)

なお、

しかし薬を呑まなければ7,8割再発があると医師から言われており

という説明からは、その医師は、質問者に統合失調症の疑いが高いとみていることが窺われます。「急性一過性精神病性障害」という診断名は、統合失調症の疑いが高いケースに、何らかの理由で(多くは、統合失調症の疑いと告知されることによる本人や家族のショックを和らげるため)、統合失調症という病名を出すことを避けたいときに使われることがあります。【3149】急性一過性精神病性障害とは?もご参照ください。

最後に一つだけ付け加えますと、

インターネット上に急性一過性精神病性障害の情報が少なく

たとえ情報があったとしても、インターネット上の情報に基づく判断は避けるべきです。
理由は二つあります。第一に、インターネット上の情報は信用できないということ。第二に、このケースに限らず、医師は患者に真の診断名を告げるとは限りませんから、告げられた診断名に基づく自己判断は、真の診断とは何の関係もないものになるおそれがあるからです。

(2019.9.5.)

05. 9月 2019 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: , |