【3149】急性一過性精神病性障害とは?

Q: 林先生、いつも興味深く拝見させていただいております。

現在20代半ばの長男について質問します。私は50代の父親です。
長男は1年半前に「急性一過性精神病性障害」を発症しました。原因は、難航していた就職活動がうまくいったことや彼女との交際などが考えられますが、詳細はわかりません。
実は3年前にも軽く発症しましたが、そのときには精神病であるという認識も薄く、自然治癒しました。
今回は自分がどこにいるかもわからないような急性期症状になり、2か月弱の入院及びコントミンを中心とした薬物治療により快方に向かい、退院後もしばらくは落ち着かないなど若干の不自然行動(病気及び副作用による?)がありましたが、その後薬をジプレキサに変えたこともあって、今では体重増加以外はすっかり元通りになりました。

親としても「急性一過性精神病性障害」についていろいろ勉強しようとしましたが、「統合失調症」に比べて圧倒的に情報量が少ない状況です。

それでもなんとなく認識していることと言えば
・薬物治療を続けることは大変重要で、勝手にやめると再発のリスクが高い。
・回復しても、特に3年以内に再発するリスクが高いので要注意。
・再発した場合には統合失調症に移行する可能性もある。
などです。

そこで、質問ですが、長男についてというより「急性一過性精神病性障害」というものについて教えていただきたいことがあります。
一般に「急性一過性精神病性障害」回復後は
a再発する
b再発しないが、薬物治療を一生継続する
c再発せず、薬物治療もいずれは不要となる
それぞれどのような割合なのでしょうか?

一般論を質問することは大変愚問なのかもしれませんが、今後どうなるかを覚悟しておく上でも、また情報量が少ない状況であることからも、自分たちにとっては重要な問題です。もちろんどのような割合であっても、長男が今後どうなるかは別問題であることは認識しております。

どうぞよろしくお願いいたします。

 
林: 息子さんは急性一過性精神病性障害ではありません。統合失調症です。

急性一過性精神病性障害という診断名がつくのは、次の二つの場合です。

(1) その精神病症状が、急性で、かつ、一過性であった場合
(2) その精神病症状が急性に現れたが、その後どれだけ持続するかは不明の場合

この【3149】は、もはや一過性でないことは明らかですから、上記(1)ではありません。1年半前の発症時に、暫定的に急性一過性精神病性障害と診断され、その診断名が何らかの理由で続けられているにすぎません。1年半前の時点で診察した医師は、何らかの理由で統合失調症と診断することを避けたと思われますが、ここまでの経過をみれば、診断が統合失調症であることはまず間違いありません。
したがいまして、

親としても「急性一過性精神病性障害」についていろいろ勉強しようとしましたが、

その必要はありません。統合失調症について勉強することをお勧めします。

ところで、この回答の冒頭に、

急性一過性精神病性障害という診断名がつくのは、次の二つの場合です。

とお書きしましたが、それは厳密には正しくありません。説明の便宜上、「二つの場合」と記しましたが、(1)(2)として私が記した二つには、矛盾があると感じられたことと思います。すなわち、(1)は確定診断ですが、(2)は暫定診断(その時限りの仮の診断)です。この二つを並列させるのは本来は矛盾しています。
けれども急性一過性精神病性障害という診断名の実際の使われ方からすると、(1)(2)の二通りがあると説明するのが現実に即しています。一過性に統合失調症そっくりの症状を呈し、その後きれいに症状が消えてしまうケースが、多くはないものの存在します。そのようなケースを統合失調症と呼ぶことには大いに抵抗がありますので、何か別の診断名がふさわしく、それが急性一過性精神病性障害ということになります。
一方(2)については、十分な期間観察しなければ確定診断できないのであれば、「統合失調症の疑い」とするほうが正しいと言えますが、統合失調症という病名には強い偏見を持っている人が存在することなどを考慮し、とりあえず急性一過性精神病性障害と診断しているということができます。

急性一過性精神病性障害という診断名には、上記のような背景がありますので、

一般に「急性一過性精神病性障害」回復後は
 a再発する
 b再発しないが、薬物治療を一生継続する
 c再発せず、薬物治療もいずれは不要となる
 それぞれどのような割合なのでしょうか?

この質問にひとことで答えるとすれば、「わかっていません」ということになります。
けれどもこの【3149】のケースでは、急性一過性精神病性障害と診断された後にすでに再発しているわけですから、

a再発する

再発しています。したがってもはや再発率を考慮する必要はありません。

b再発しないが、薬物治療を一生継続する

このbは質問として矛盾しています。再発しないのであれば薬物療法を継続する必要はありません。

 c再発せず、薬物治療もいずれは不要となる

これが冒頭の(1)にあたるケースです。その割合がどのくらいであるかはわかりません。

けれどもこの【3149】は、すでに再発していますから、cについて考慮する必要もありません。この【3149】は統合失調症です。急性一過性精神病性障害という診断は、あくまでも発症時の暫定的なものであると理解し、統合失調症としての対応が正しい対応ということになります。

(2016.2.5.)

05. 2月 2016 by Hayashi
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