【3930】ストレスが原因で精神的に不調になります

Q: 24歳女性です。こちらの精神科Q&Aを興味深く拝見させていただいております。ここでの症例をみて、以前自分に精神的なストレスがかかったときに起きた症状が病的なものかもしれないと思い、そのことで質問させていただきます。私はこれまでに3回非常に精神的に負担の大きい時期がありました。時系列に述べますと

(1)中学時代中学3年間にわたり、いじめを受けていました。この頃、自分の考えが周りに聞こえているのではないかと思っていました。周囲に人の多い閉鎖空間(バス、体育館など)で特にこの事が意識されました。私の心の声に対して家族が反応する(「ん?」「なに?」などと言う)ことがあり、それにより確信を深め、家族や同級生は私が心の声の漏れる特殊な人間だと知っており、国から指示を受けて保護観察しているのだと思っていました。

(2)浪人時代一日の大半を寝て過ごすような鬱屈とした浪人時代を送っておりました。寮で一人暮らしでしたが、盗聴されていると思っていました。盗聴しているのは何らかの組織で、男性2人組が寮の外の車から盗聴器の電波を傍受していると考えていました。また、隣の部屋の人が自分の生活音に聞き耳を立てているとも思っていました。 ちなみに、このような思考伝播、盗聴妄想は軽度ながら幼少期から現在に至るまであり、それにより精神の不調や社会的な問題を起こしたことはありません。ごく自然に私の中に存在する発想であり、妄想かどうか議論することに意味はないと感じております。ただ、上記の時期は現在から振り返って異常と思えるほど、これらの考えに固執し、荒唐無稽な想像をしていました。

(3)3年前恋人が自殺しました。それから一年ほど、暗くなると部屋の隅に何かいるような気がして、明らかにその思い込みがきっかけで金縛りになることを、多いときには一晩に数回繰り返し、強い恐怖に苛まれました。部屋が明るいと不安が抑えられ、眠ることも出来たため、学校を休みがちでしたが、そこまで深刻な対外的問題は起こりませんでした。彼の命日近くになると同様の症状が出ますが、年々治まってきています。 これらの症状は時間の経過、環境の変化により治まっているため、正常の範囲のものと思っておりました。しかし、こちらのサイトで思考伝播や被害妄想と呼ばれるものがあまりにも自分のものとよく似ていたため、不安になりました(それまでは、これらは所謂中二病の類のもので、誰でも多少は経験していると思っていた)。

以上を踏まえて質問したいのは、
1. 私の症状は何らかの病気が素因となっているでしょうか
2. 今後も何かのきっかけで上記のような症状が起きた場合、治療が必要でしょうか
この2点です。ご回答いただければ幸いです。

 
林: 質問者は統合失調症の素因を持っていると判断するのが妥当だと思います。
したがって、

1. 私の症状は何らかの病気が素因となっているでしょうか

への回答は イエス です

その根拠を順に説明します。

(1)
まず、統合失調症では、ストレスによって症状が悪化したり、それまで治療によって消失ないしは減弱していた症状がストレスによって顕在化することがあります。
【3888】ストレスが原因で統合失調症様症状が出ることはありますか
【2008】私はストレスがかかると妄想が立ち上がる体質なのでしょうか
【1555】統合失調症で、ストレスがかかったときだけ幻聴や妄想が悪くなることはありますか
などがその例です。

(3)     ((2)でなく(3)としたのは誤記ではありません)
一生のうちに一度だけ、統合失調症の症状が一過性に出る場合があります。
急性一過性精神病性障害と呼ばれているものの一部が(あくまでも一部ですが)、それにあたります。急性一過性精神病性障害については
【2139】妻の妄想が2,3日で消えました
【2115】急性一過性精神病性障害と診断された妻の経過
【3149】急性一過性精神病性障害とは?
などをご参照ください。

表むきは急性一過性精神病性障害と診断がつけられていても、実際は統合失調症であることの方が多いものですが、そうは言ってもそうでない例、すなわち、文字通り精神病症状は一過性であるケースがあるというのもまた事実です。そして、その一過性の症状が一生に一回しか出現しないケースがあるというのもまた事実です。するとそういうケースをどう考えるかということになりますが、世の中の圧倒的に多くの人は一生に一回も精神病症状は体験しないわけですから、たとえ一生に一回でも精神病症状が出現した人は、統合失調症に関連する何らかの素因を持っていると考えるのが妥当です。

(2)

そして、(1)と(3)の中間領域が存在します。すなわち、一生のうちに何回か一過性に精神病症状が出現するというケースです。そうしたケースは、一生のうちに一回だけ精神病症状が出現するケースに比べて、統合失調症の素因を相対的に強く持っていると考えるのが妥当です。
この【3930】はこれにあたります。
ということは、将来、統合失調症に発展していく可能性があるのか。
それはわかりません。けれども、その可能性は相対的には高いとまでは言えるでしょう。
したがって、

2. 今後も何かのきっかけで上記のような症状が起きた場合、治療が必要でしょうか

に対する答えは、
治療が必要かどうかはわからない。
しかし、受診して慎重に経過をみてもらうことは必要。経過次第では治療が必要。
ということになります。

(2019.12.5.)

05. 12月 2019 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症