【3892】「S圏を主体とする内因性精神病」とはどういう意味でしょうか(【2337】のその後)

Q: 【2337】「精神病レベルのうつ病」と言われていますが、統合失調症ではないでしょうかの30代女性です。主治医の退職で、主治医もクリニックも変わることになりました。 変えてから半年。毎週診察に行っています。新しい主治医から診断名をつげられた事はありません前の主治医によると、紹介状には、統合失調感情障害とありました。でも実際は、S圏を主体とする内因性精神病ということぐらいしかわからないみたいです。これはどういう意味ですか? 小刻みな揺れは多くなかなか落ち着くことができません。体重がだいぶ増えました。歯磨きは3日に1回。お風呂は1週間に二回。休日は家の中でゴロゴロしていることが多くなりました。テレビも新聞も、以前ほど興味が無くなりました。生活能力が落ちているなと自分でも実感しています。 仕事はフルタイムで行っています。このまま仕事を続けることができるのでしょうか?

 

林:
S圏を主体とする内因性精神病ということぐらいしかわからないみたいです

おそらく紹介状にそのような意味のことが記載されているのを、質問者がお読みになって引用されているのだと思います。「S圏」の「S」とは統合失調症 Schizophrenia のことで、「内因性精神病」とは、心因と器質因以外の精神疾患、すなわち、主として統合失調症と双極性障害を指します。
「S圏」の「圏」は「圏内」のことで、これは曖昧な表現ですが臨床的には現実によく適合した表現で、DSMなどの診断基準を厳密に使った診断よりもむしろ病気の本質を示しているということができます。簡単に言えば「統合失調症と同じようなメカニズムの精神病」ということです。(あくまでも「簡単に言えば」そうなるということです)
そうしますと、「S圏を主体とする内因性精神病」という表現からは、「内因性精神病の中にはS圏を主体とするものとそうでないものがある」ということになります。するとどの病気が「S圏を主体とする」と言えるかということになりますが、通常は双極性障害はS圏には含まれず、統合失調感情障害はS圏に含まれます。あるいは、統合失調感情障害には、S圏に近いものとそうでないものがあるとする考え方もあります。
いずれにせよ、「S圏を主体とする内因性精神病」という表現は、臨床的には現実によく適合した表現である一方で、曖昧で精神科医の中でもコンセンサスがあるとまでは言えないという側面もあります。
この【3892】に関して言えば、【2337】で回答したとおり、メールの記載から最も考えられる病名は統合失調症です。実際に診察した医師が統合失調感情障害と診断しているということは、経過としてそう判断できる根拠があるということでしょう(幻覚妄想などの精神病症状が出ているときに、同時に、躁またはうつといった感情の症状が必発しているとき、統合失調感情障害という診断になります)。そこまでの経過はメールだけからは読み取れません。
ただしこの【3892】のケースで最も重要なことは、診断名が統合失調症か統合失調感情障害かということではなく、今後推定される経過と最適な治療法ということで、その観点からすれば、紹介状に書かれていた「S圏を主体とする内因性精神病」という認識の方が妥当であると言えます。ご本人としては「S圏を主体とする内因性精神病ということぐらいしかわからない」ということになると、まだ自分は正確に診断されていないのではないかと不安になるかもしれませんが、不安に感じる必要はありません。

(2019.10.5.)

05. 10月 2019 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: , |