【3891】統合失調感情障害の妻の薬を主治医が減らそうとしない
Q: 私は30代男性です。20代後半の妻が里帰りで長男を出産し、直後からスマホなどの電子機器の画面の光の眩しさ、不眠を訴えるようになりました。
産後2週間後ほどから、言動が支離滅裂で会話が成り立たない、盗聴されている等の被害妄想を訴え、警察に通報するなどの行動があり、育児も正常に出来る状態ではなくなったため、医療保護入院させました。
病院では、統合失調感情障害との診断がおりました。
ジプレキサを処方され、すぐに落ち着くようになり、担当の医師は産後というタイミングでの発生と、年齢を加味すると産褥期精神病の可能性もあり、将来的には薬を減らして断薬を試みることも出来るとの見解でした。
2週間ほどで退院し、その後もジプレキサとフェロミアの処方により落ち着いた状態を取り戻しています。
それから3ヶ月後、現在の処方内容は以下です。
夕食後
フェロミア50mg
ジプレキサ10mg
就寝前
ジプレキサ5mg
1ヶ月前ごろより、過眠傾向になり、1日に12時間以上(夜の8時から朝9時頃)睡眠しているため、夜の息子の泣き声に全く反応できず困っています。陽性症状と思わしき幻聴や支離滅裂な言動などは一切なくなったのですが、里帰りから戻って一人で子どもの世話をすることへの不安などは多少あるようです。
もともと「減薬できる」見解を示していた医師は入院専門での担当だったため、外来になってからは主治医が変更になったのですが、その医師には体重増加(服用開始から3ヵ月で約5キロほど増加)と過眠の傾向にも話しているようなのですが、薬の減薬希望には全く応じてくれません。これは適切な対応なのでしょうか?
私としては適切に少しずつ減薬をしてもらい、夜の子どもの世話も少しずつ出来るようになって欲しいと考えています。そうでなければ、里帰りを終わらせて家族3人での生活をいつまで経っても始めることができないからです。
林先生のご見解を伺いたく、よろしくお願いいたします。
林: これは【3890】と非常によく似たケースですので、回答は途中までは【3890】と同文になります。
出産からまもない時期に幻覚や妄想が出現した場合、それは出産と直接の因果関係がある精神病症状なのか、それともたまたま出産をきっかけに発症した精神病(たとえば統合失調症や統合失調感情障害)なのかの区別は困難です。不可能に近いといってもいいでしょう。すると現実的な対応としては、その後の経過をみて、症状が完全に消失しているのであれば、慎重に徐々に減薬をしていくというのが適切ということになります。
その観点からすれば、この【3891】のケースで、夫である質問者が減薬を望んでおられるのは妥当であると言えます。
ただし減薬には再発のリスクもあることも十分に考慮することが必要です。このケースでは、今は子育ての非常に重要な時期ですので、もしこの時期に減薬して再発したら、母親としての役割がはたせなくなる可能性が高いです。それによってご長男の成長にもたらされる不利益は、後からでは取り戻すことができない性質のものです。
それを考えると、今はリスクを犯してまで減薬する時期ではないと言えるでしょう。
他方で、薬の副作用によって子育てが困難になっているのであれば、逆に減薬する時期であるということになります。過眠と体重増加が副作用だとすれば(その判断は難しいですが、仮に副作用だとすれば)、より減薬の検討の必要性が高いという判断に傾くでしょう。
いずれにせよこの【3891】では、減薬する・しないの判断は難しいケースです。したがってそれを主治医に相談するのが適切ということになりますが、
医師には体重増加(服用開始から3ヵ月で約5キロほど増加)と過眠の傾向にも話しているようなのですが、薬の減薬希望には全く応じてくれません。
とのことですので、
これは適切な対応なのでしょうか?
という疑問を質問者がお持ちになるのは当然でしょう。
しかし、「薬の減薬希望には全く応じてくれません」というのが、結論としては事実そうだとしても、それは【3891】のケースの現在の状態について、主治医の先生が、薬の効果と副作用を十分に医学的に検討したうえでそのような結論を出しているのか、それともそもそも聞く耳を持たないといった状況であるかによって、その主治医の対応が適切であるかどうかの判断は違ってきます。
ご本人やご家族は、医療についてのご自分の希望を拒絶されたとき、主治医に不信感を持つことがしばしばありますが、それは不信感を持つのが妥当なこともあれば、医学的にみてご本人ご家族の希望内容が不適切であるから拒絶されたのであって、不信感は筋違いということもあります。この【3891】のケースがどちらにあたるかはこのメールの情報だけからはわかりません。
(2019.10.5.)