【3146】ものを失くす・電車を乗り過ごす・部屋がすぐ汚れる・・・ADHDでしょうか
Q: 私は31歳会社員男性です。自分がADHD(注意欠如・多動性障害)ではないかと気になっており、精神科を受診すべきか悩んでいます。
具体的には、以下のような内容が日常に発生している状態です。
■ものを失くす
財布など、重要なものを頻繁に失くしてしまいます。
大抵の場合、どこで失くしたのかまったく覚えておらず、失くしたと気づいた瞬間から記憶をさかのぼって、すべての可能性に当たることになってしまいます。
失くすもののサイズもバラバラです。取材に使用する大きな一眼レフカメラ(1kgくらいあるもの)を持って出張に出て、東京に帰ってきてから自分がカメラを持っていないことに気づいたということもありました。
お店に入って、持っていた肩掛け鞄を持たずに出ていくこともよくあります。
特に切符などは、非常に高い確率で失くします。どこに入れたか完全に失念してしまうため、切符は必ず財布に入れ、財布の中でも切符を入れる場所を決めています。
■電車を乗り過ごす
眠っているわけでもないのに、目的の駅をよく乗り過ごしてしまいます。
特に、本を読んでいたり、考え事をしていたりするときに顕著で、アナウンスや周囲の人の動きにまったく気づかず、駅に到着したことすら記憶にない状態で、目的の駅を通過してしまうことがよくあります。
絶対に乗り過ごさないようにしようとすると、ずっと窓の外や電光表示を見ていることになるため、非常に疲れます。
現在は、乗車時に携帯電話のアラームを設定し、到着時刻になると振動するようにしておくことで対応しています。
■集中力が持続しない
長時間同じ作業を続けることが非常に苦痛です。
仕事をする際は、だいたい15分、長くて20分くらいを区切りに、一度離席してトイレに行くなど、ワンクッションを挟むことで対応しています。
ただ、集中自体ができないわけではなく、短い時間の間は、周りの音が聞こえなくなるくらい集中してしまいます。
人と話しているときは例外で、1時間でも2時間でも集中して聞くことができます。また、本を読んだり将棋を指したりする際も、時間の制限なく集中することができます。
単にやりたくない作業で集中力が続かないという感じもします。
幼いころはこれが「爪を噛む」「貧乏ゆすり」といった形で表れていましたが、現在は集中力が切れた時点でリセットを心がけることで、こうした行為は出なくなっています。
また、仕事中はなかなかできないのですが、音楽を聴きながら作業をすると、集中力が少し長く続きます。
■やるべきことを忘れてしまう
仕事に関しては、ToDoリストをメーラーにドッキングしておくなどの方法でなんとか対応できているのですが、プライベートではやるべきことをよく忘れてしまいます。
公共料金の支払いや、免許の更新が、なかなか期日にできません。運転免許の更新を放置したまま、失効させてしまったこともあります。
■部屋がすぐ汚れる
片付けや掃除ができないわけではないのですが、基本的にものが乱雑に置かれていることに無頓着で、すぐに放置してしまいます。
以上、非常に長くなってしまいましたが、実際のところ自分の感覚としては、どれも生活の継続が困難になるほどの障害ではありません。不便であったり、自己嫌悪を感じたりすることはありますが、それは誰もが自分の性格や能力に対して、大なり小なり感じることだろうと考えています。
悩んでいるのはこの点で、現在のままでもなんとか対応できているため、精神科を受診することで、かえって今のバランスを崩してしまうのではないかという不安があるのです。林先生のQ&Aを読んでも、薬の副作用や依存を訴える内容が掲載されており、リスクを感じています。
上記のような内容が改善されるなら、私にとっては見えない目が見えるようになるようなもので、受診への魅力を強く感じている一方、そんなうまい話があるだろうかという不安も強いのです。
そこで、林先生に以下の点を質問させていただきたいのです。
1.私はADHDやそれに類する発達障害でしょうか?
2.精神科を受診すべきでしょうか?
お忙しい中、長文のメールをお送りし、申し訳ありません。
もしご回答いただければ幸いです。
林: ADHD関連の本をお読みになり、自力で生活改善を目指すことをまずはお勧めします。
1.私はADHDやそれに類する発達障害でしょうか?
ADHDの特徴は顕著に見られます。ADHDと診断して差し支えないでしょう。
けれども
2.精神科を受診すべきでしょうか?
受診すべきかどうかまでは何とも言えません。受診すべきかどうか、この【3146】はぎりぎりのところだと思います。つまり、もう少し重ければ (たとえば【3148】のようなケース) 直ちに受診をお勧めしますが、今の段階では何とも言えません。
ADHD(や、その他の発達障害)で、受診すべきかすべきでないかを決めるのは、端的には、日常生活で困っていることがあるかどうか です。
この【3146】では
実際のところ自分の感覚としては、どれも生活の継続が困難になるほどの障害ではありません。・・・
・・・現在のままでもなんとか対応できている
とのこと。そうであれば、あえて受診をする必要もないと言えます。これはADHDに限らず、発達障害一般に言えることです。統合失調症や双極性障害ではこの考え方はあてはまりません。たとえいま困っていることがなくても、病気の性質上、悪化したり、ある時期には非常に重い症状が出るおそれがあり、それらは治療によって予防することが期待てきるからです。
但し、この【3146】のケース、
現在のままでもなんとか対応できている
というのが、事実かどうかという問題が残っています。
それは、質問者が嘘をついている可能性があるという意味ではなく、質問者がご自分の問題を過小評価している可能性があるということです。そういうことはしばしばあります。しかしそれはメールだけからは判断できないことですし、このメールから読み取れる限りにおいては、「なんとか対応できている」とみることができます。
(但し、周囲への影響という別の観点からの考察も必要です。これつにいては林の奥の ダンス・ダンス・ダンス などをご参照ください。)
この回答の冒頭では
ADHD関連の本をお読みになり、自力で生活改善を目指すことをまずはお勧めします。
と断定しましたが、この【3146】のケースはある意味では限界事例であり、受診すべきかどうか、本当はよくわかりません。けれども「これも考えられる、あれも考えられる」では回答になりませんので、最も適切と思われる回答を一行で記したのが冒頭部分です。
本を読むだけでなく、さらに望ましいのは、自己対処方について、一度きちんと指導を受ける といったことです。けれどもそういう指導を受けられる場が、質問者の生活域内に存在するかどうかという次なる問題が発生することになります。そうしますと、「本を読んで自己対処を試みる」という冒頭の回答が現実的と言えるでしょう。
(2016.2.5.)