【4368】解離性障害がラミクタールで劇的に改善しました(【3323】、【3339】、【3359】のその後)

Q: 【3323】自分が2人いるように感じます【3339】解離性同一性障害に発展する可能性は高いですか【3359】ほかにも忘れていた症状がありましたの30代女性です。 当時は私の質問にご回答いただき、ありがとうございました。【3359】から4年ほどたちましたが、その後の経過をご報告したく、ご連絡いたしました。

初診から一年ほど通院した後、診察場面で解離するようになりました。主治医によると、診療中に別人格が出現し、自分の年齢と名前を伝えたとのことですが、私は記憶がないので疑心暗鬼でした。しかしその後も複数の人格が現れたことから、解離性同一性障害と診断され、リボトリールを内服しながら精神療法(週2日、50分)を受けてきました。

経過中に希死念慮が強まり、数回入院しました。記憶がないまま遠方の駅にいたり、川に入っていたり、怪我をしていたりすることがありました。性的体験(幼児期から思春期にかけて、特定の人物と挿入を含む性行為をしていました)のフラッシュバックも頻発していました。解離は主治医の前か、ひとりのときに限定して生じていたこともあり、入院期間中以外は、何とか仕事を続けていましたが、私の中ではいつ死んでもおかしくないという感覚がいつもありました。

治療の転換点となったのは、ラミクタールの服用を開始したことです。私は薬の副作用が出やすい体質のため、ラミクタール5mgから開始したのですが、服用後早い段階で、体にこびりついていた希死念慮がずいぶん遠ざかった感覚になりました。さらに、子どもの頃からあった、目の焦点が合わなくなる感じがしてぼんやりした後、視界が地震のように横に揺れる症状や、何も面白いことがないのに、突然噴き出してしまう症状(楽しいという情動を伴います)に悩まされていましたが、完全に消失しました。現在は50mgまで増量していますが、常にあった希死念慮と、フラッシュバック時に突出する希死念慮、共に驚くほど軽減しました。

上記は解離の症状と理解していたのですが、ラミクタールがここまで著効するということは、解離性同一性障害の他に、てんかんや気分障害など内因性(器質性?)の疾患があるのではないかと考えております。これまで脳波は数回とっていますが、いずれも「明らかな異常は認められない」という結果でした。以下、林先生に伺いたいことです。

・解離性同一性障害とてんかんや気分障害は併存する可能性はありますか。
・私の場合、その可能性は高いと思われますか。
・可能性が高い場合、さらに精査をしたほうが良いと思われますか。

もちろん、精神療法は私にとって確実に効果的でしたが、ラミクタール服用後の世界が激変するような感覚は薬効であろうと感じております。私は医学も薬学も詳しくないので、てんかんや気分障害をもっていなくても、単純にラミクタールが物凄く効く人だったということもあるのかもしれません。

経過のご報告と再び質問をさせていただきました。ご教示いただけますと幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

 

林: その後の経過をご報告いただきありがとうございました。劇的に改善されたとの報告、嬉しく思いました。その改善は「ラミクタールを飲み始めた後に認められた」と要約することができるかと思います。このような場合の解釈は次のように考えることができます。

(1) 改善はラミクタールの効果である。
(1)-1  【4368】の質問者の解離性障害に対応する脳内変化が、ラミクタールの薬理作用によって改善した。
解離性障害という心理的な原因による症状が、薬という化学物質によって改善するというのは一見すると矛盾しているようですが、こういうことは解離性障害に限らずしばしばあることです。解離性障害に対応する脳内変化も、ラミクタールの薬理作用も、どちらも未解明の点が多々ありますので、解離性障害がラミクタールによって改善することは十分にありうることで、この【4368】のご報告は、解離性障害の解明とラミクタールの薬理作用の解明の両方に寄与する貴重なデータになるかもしれません。
(1)-2  【4368】の質問者はてんかんあるいは気分障害も合併していた。
これが【4368】の質問のテーマで、ラミクタールがてんかん・気分障害の薬であることからは、合併の可能性を考えるのが理論的には最も正しいと思えるかもしれません。しかし、(1)-1にも述べた通り、ラミクタールの薬理作用には解明されていない点も多いので、殊更にてんかんや気分障害の合併を強く考える必要はありません。解離性障害と気分障害、さらには解離性障害とてんかんについて、脳内のメカニズムに一部共通点があって、その共通点の部分にラミクタールが作用したと推定することはできるでしょう。

(2) 改善はラミクタールとは無関係である。
たまたまラミクタールを飲み始めた時期に改善したのであって、ラミクタール開始と改善の時期は偶然一致したにすぎない。
これは副作用と思われる症状の場合も同様で、時間の一致は因果関係の十分条件ではありませんので、常に慎重な判断が必要です。

このほかに、精神療法とラミクタールの相互作用による改善である、など、細かいことまで考えればまだまだ可能性は出てきますが、メインの考え方としては(1)と(2)に大別できるでしょう。「薬を飲み始めたら、改善した / 悪化した」というとき、(2)の可能性は常に考える必要がありますが、この【4368】のように、長年続いた症状が薬を飲み始めたら主観的に著明に改善した場合は、(2)の可能性は低いと言っていいでしょう。(1)-1の可能性が最も高いと思います。次の課題は、ラミクタールをいつまで続けるべきか、減薬や中止が可能か、ということになりますが、これについては主治医の先生と相談して慎重に進めてください。

(2021.8.5.)

05. 8月 2021 by Hayashi
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