【4237】母は単なる心配性だったのでしょうか

Q: 私は20代女性です。母は(当時30代後半、専業主婦)、いつも家中の戸締まり、ガスの元栓を閉めたか、そればかり気にしていました。冬場は電気ストーブのプラグを抜いたかどうかも気にしていました。一度気にしてしまうと不安でたまらないような、追い立てられているような様子でした。 外出するときは必ず家中の窓や扉、ガスの元栓を閉めたか確認し玄関を施錠し、さあ出発といった段階で「やっぱりもう一度見てくる!」と言い出して玄関を開けて家に飛び込み再度戸締まりの確認をすることもよくありました。一度の確認で出掛けられることの方が少なかったと思います。 時には、幼児だった私に「今ここ閉めたよね?」と尋ねたり、鍵や元栓の確認をさせたりもしました。私は母の真似をして、「カギよし、カギよし、元栓よし、元栓よし」と指さしながら確認したのを覚えています。就寝前も外出時と同じくらいしつこく確認していたと思います。 子供(私です)が小学生になり、あまり手が掛からなくなると、母は工場や近所のスーパーマーケットで働き始めました。すると、上記のような確認行動は嘘のように無くなっていったのです。 昔の母の行動は、強迫性障害という病気に当てはまると思ったのですがただの気にしすぎ、ただの心配性、性格の問題だったのでしょうか?それとも本当に精神疾患ではあったものの、外に働きに出ることで気が紛れ、自然と治ってしまったのでしょうか?(こういった病気に自然治癒があり得るのかわかりませんが…) ちなみに、父、母ともに頭が固く、精神科、精神疾患への偏見や差別意識がありましたので母が精神科で治療を受けた可能性は低いと思います。

 

林: 「強迫性障害」と「ただの心配性」は、表面に現れている現象を見る限りは同じで、ただその程度が違うだけという場合がしばしばあります。すなわち、「心配性」(「心配性」というとかなり様々なものが含まれますが、この【4237】に見られるのはその中の「確認癖」というべきでしょう。しかしここは質問文に合わせて「心配性」と呼ぶことにします)のうち、程度が軽く、生活にさしたる支障がなければ「ただの心配性」となり、程度が重く、生活に支障が出ているのであれば「強迫性障害」となります。
この【4237】のケースは、
A. ある時期にはかなり強度の心配性だったが、
B. ある時以後からその心配性は「嘘のように」消えた
という経過であるとまとめることができます。
すると、上の説明に従えば、A.の時期においては、もし生活に支障が出ていたのであれば強迫性障害であったということになり、それがB.に至って自然治癒した ということになります。A.の時期において、生活に支障が出ていたといえるかどうかは不明です。(当時の質問者が幼児であったことからすれば、不明であるのは当然でしょう)

以上は、この回答文の一行目に記した通り、「表面に現れている現象を見る限り」という立場からの回答です。実際にはそうではなく、強迫性障害には、様々な状況証拠からみて、単なる心配性とは質の異なる脳内のメカニズムがあるはずです(たとえば【4241】のような症状と経過は、脳内で何らかの異常が発生し進行していることを強く示唆するものと言えます)。しかしその脳内メカニズムは現代の精神医学では証明できない推定である以上、「表面に現れている現象」に基づいて診断を下す以外にないというのが現状です。これは強迫性障害に限らず多くの精神疾患の診断についての真実ですが、強迫性障害という、心配性の延長に見える疾患では、特に違和感が強い診断手法に感じられることになります。しかしこれが現状です。

(2021.2.5.)

05. 2月 2021 by Hayashi
カテゴリー: 強迫性障害, 精神科Q&A