【4026】発達障害の得手不得手の格差はこんなに大きいものなのでしょうか

Q: 20代の男です。アスペルガー症候群及びADHDの傾向強しと診断を受けました。
次の(1)(2)の2点に関しまして意見を頂きたいと思い投稿に至りました。

(1)私は数学、物理が好きなのですが、計算が全くできないにも関わらず数式の意味を把握したり、定理命題などの証明は比較的パッと思いつき勝手に頭が処理できます。
これは所謂発達障害の影響なのでしょうか。それとも別の何かに問題があるのでしょうか。
話を聞いたり検索すると得意不得意の差はそれなりにあるとは見受けられますが、こんなにも差が生じるものなのでしょうか。

(2)記憶法について。こちらはやたらと違和感が強いのですが、テキストなどを読んだ上で、論証、論述の試験を受けると、突如として頭にテキスト自体が浮かぶことがあり、自分でめくっている様子も見えてきます。
このことを人に話しても信じて貰えませんし、話半分で流されてしまいます。主治医及び心理相談員の方には初めて見たと言われました。こういったことは事実起こりうるのか、それとも何らかの問題があるのでしょうか。
ちなみに数理学及び世界史に関するものでしか起こりません。

 

林: 発達障害(ここでは広汎性発達障害を指します)では、個々の能力の間の差が著しい場合があるというのが一つの大きな特徴ですので、この【4026】のようなことは十分にあり得ます。

まず第一の点、

(1)私は数学、物理が好きなのですが、計算が全くできないにも関わらず数式の意味を把握したり、定理命題などの証明は比較的パッと思いつき勝手に頭が処理できます。
これは所謂発達障害の影響なのでしょうか。

発達障害の影響としてむしろ典型的です。発達障害でない人(それを通常は「定型発達」と呼びます)とは一種異なる組み立てで思考が進むことは稀でないので、定型発達の人から見れば、計算の能力を基礎として、その次の段階として数式の意味を理解するなどの能力があると考えるのが普通ですが(したがって、数学の教育カリキュラムはそのようなステップを踏むことを前提に作成されています)、発達障害の人の思考はそのように組み立てられるとは限りません。ですから、「計算が全くできない」のであれば「数式の意味を把握したり」「定理命題などの証明は比較的パッと思いつき勝手に頭が処理」することはできないはずという常識的な推測は成り立たず、この【4026】のケースのような事態が発生するのです。

第二の点、

(2)記憶法について。こちらはやたらと違和感が強いのですが、テキストなどを読んだ上で、論証、論述の試験を受けると、突如として頭にテキスト自体が浮かぶことがあり、自分でめくっている様子も見えてきます。

これは直感像と呼ばれる現象です。体験したことがそのまま、まるで記録した動画をみるようにありありと再生できるという能力です。直観像は発達障害の中の一部の人に見られることがよく知られています。

主治医及び心理相談員の方には初めて見たと言われました。

直感像は有名な現象ですので、専門家であれば直観像そのものについての知識がないということは本来はないはずで、「初めて見た」というのは、知識としてはあるが実際に見たのは初めてという意味と解釈したいところです。

こういったことは事実起こりうるのか、それとも何らかの問題があるのでしょうか。

この一文は実はかなり深淵な質問で、まず、直観像はよく知られた現象ですから、「事実起こりうるのか」という問いへの答えはイエスです。また、そもそも質問者が現に体験しているわけですから、問いを発する以前に、起こりうるという以外の答えはありまえません。
問題は「何らかの問題がある」という問いのほうで、直観像は発達障害に伴う現象ですから(発達障害以外でもあり得ることはあり得ます。しかしそれは、発達障害であることが見逃されているのかもしれません)、発達障害を「病気」とみなすとすれば、直観像は「病気の症状」ですから、「問題」と位置づけることは可能です。しかし、直観像という能力があることで本人も周囲も特に困っていなければ、「問題」にはあたりません。ここでさらに「しかし」として、一定の範囲から逸脱していればそれを「問題」とする立場からすれば、直観像は「問題」でしょう。これは、正常とは何か、異常とは何か、健康とは何か、病気とは何か、といった問いにかかわる事項で、先に「この一文は実はかなり深淵な質問で、」と言ったのはそのような意味でのことです。【4027】もご参照ください。

ちなみに数理学及び世界史に関するものでしか起こりません

このように、ある特定の領域にのみ直観像の能力が見られることもあり得ます。そのメカニズムは不明です。が、そもそも直観像のメカニズムも不明で、直観像を「特異な記憶能力の一種」と名づけることはできますが、それはメカニズムについては何も言っていないのと同じですので、仮に直観像自体を特に不思議ではないとみなし、「数理学及び世界史に関するものでしか起こりません」を不思議であるとみなすとすれば、それは不合理ということになるでしょう。

(2020.4.5.)

05. 4月 2020 by Hayashi
カテゴリー: ADHD, 発達障害, 精神科Q&A