【3951】過食を受け入れている状態は病気の悪化ですか
Q: 20代女性です。
10代半ばから摂食障害となり、拒食と吐かない過食を繰り返しながら10年ほど経ちました。
今では、過食の症状はその多くが金曜日の夜と土日にかけて、3~4回のみ発生する状態まで回数が減りました。
私はその状態をある意味で受け入れてしまっています。
仕事でストレスは溜まるし、ちょっとブラックな環境だし、恋人は海外出張ばかりで友人は少なくて孤独だし、過食することで自分を慰められるのです。
もちろん、気分の良いものではありません。ご承知と思いますが食費は異様にかかるし、健康にも悪いし、汚い薄暗い部屋で食べ物を喉に流し入れているときは、
「やっぱり私は人間じゃなくて糞袋なんだなあ。いつ人間に戻れるのだろうか」というような惨めな気持ちにもなります。
さらに代償行為として毎日、利尿剤を乱用し、たまには下剤もやっているので、過食症が改善しているわけではないことはわかります。
血液検査をすると電解質バランスはギリギリセーフですけどね。
お聞きしたいのは、このようにある意味で過食を「ストレス解消、慰労」とも認識している場合、摂食障害の状態としてはどうなのかということです。
BMIが健康上問題ない範囲内で、正社員として働き、一人暮らしをして税金も納めていれば、多少週末に過食が発生するとしても、摂食障害は落ち着きつつあるのかなと思いますが…
林先生のご意見をお聞かせ願いたいです。
よろしくお願いします。
林: これは、精神疾患の診断において常に発生する問題で、どこまでなら正常範囲でどこからは病的とするかということにつきます。
それは病気の種類によっても考え方は異なります。たとえば統合失調症では、たとえ症状がほとんどなくなっているように見えても、治療しなければ再発の可能性が非常に高いですから、放置するのは不適切です。【2444】私は自然治癒力で統合失調症を治しました などをご参照ください。
また、うつ病では、健康な人にも見られる落ち込みとの区別が困難な場合があります。【3823】臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、また他の重要な領域における機能の障害」とは? などをご参照ください。 そしてうつ病ではさらに、統合失調症と同様の問題、すなわち、たとえ症状がほぼなくなっていても、再発防止のために治療を続ける必要がある場合があります。
こうした観点からみると、過食症は他の病気とは異なる特徴があります。すなわち、この【3951】のケースでは、
BMIが健康上問題ない範囲内で、正社員として働き、一人暮らしをして税金も納めていれば、多少週末に過食が発生するとしても、摂食障害は落ち着きつつあるのかなと思いますが…
それはその通りだと思います。
他方、診断基準からいえば、不適切な代償行為(利尿剤の乱用など)があることなどから、過食症の診断は維持されていることになります。すなわち、症状が軽いからといって過食症が治っている、あるいは過食症ではなくなっているということはできません。
問題は、では、このまま放置した場合に何らかの支障が生じるか否かということですが、残念ながらそれについてはわかりません。現代の精神医学は、過食症についてそこまで精密な予測ができる段階にありません。
そうしますと、
ある意味で過食を「ストレス解消、慰労」とも認識している場合、
この【3951】のように、過食をストレス解消の手段として用い、過食によって生活等に支障が出ていない場合、それでも過食症の治療が必要かどうかは何とも言えないということです。
ただし、ひとつだけメールからは判断不能の問題は、本当に生活等に支障が出ていないのかという点です。精神疾患では、本人は自分には問題ないと言っていても、客観的にはかなりの問題があることがしばしばあります。それは本人が嘘をついているというのではなく、自分の状態を正しく認識できていないことに起因します。これは統合失調症に特に顕著な問題ですが、他の疾患でも多かれ少なかれある問題です。そしてこの問題はメールからは判断不能です。精神科Q&Aが、「メールの内容は事実であると仮定して答える」という基本方針を取っていることの一つの理由はそこにあります。
(2020.1.5.)