【3845】 うつ病か適応障害か
Q: 休職中の34歳会社員男性です。
大学病院の精神科を受診し、うつ病との診断を受けているのですが、休職により急速に回復しており、適応障害ではないのか疑問に感じています。
経過は以下の通りです。
去年の年末に人事異動の打診があり、妻が妊娠中のため、断ることができたのに受けてしまいました。3月には無事に子供が産まれた、幸せになったのもつかの間、4月の異動後は想定以上の業務量で帰りが遅くなり、気がつけば12時に寝ても2時に目が覚めてしまう、中途覚醒型不眠症になっていました。また、4月末には妻が実家から子供と帰って来ましたが、子育てする気力等も失っており、土日はベッドから起き上がれない様になっていました。
その後、妻に心配されて精神科を受診し、うつ病と診断され、1ヶ月の休職とリフレックス10mgの服薬を指示されました。
休職と服薬の3日目から不眠が解消され、余りの回復の速さにうつ病ではなく、適応障害ではないのか疑問に思ってます。もし適応障害ならば、復職後、また症状がぶり返すかもしれず不安です。私はうつ病なのでしょうか、適応障害なのでしょうか？
林: うつ病は初発の場合、適応障害と鑑別するのは難しいことがあります。初発でも最も確実にうつ病と診断できるのは、特にストレスもきっかけもなく発症した場合ですが、現実の生活ではストレスがゼロということはあり得ず、また、後から考えればこれがきっかけだったのではないかという出来事は必ず見つかるからです。
たとえストレスやきっかけがあっても、典型的な内因性うつ病の症状が認められれば、うつ病であると確定診断できますが、そういうケースは必ずしも多くありません。
この【3845】のケースでは、かなりのストレスが先行していますので、発症経過だけから見れば、適応障害かもしれないし、うつ病かもしれない、ということになります。
具体的な症状については、睡眠障害と、 子育てする気力等も失っており、土日はベッドから起き上がれない様になっていました。 という以外の記載がありませんので、うつ病に典型的な症状かどうかは不明です。しかし、うつ病の可能性は十分にあったと考えられます。
また、現代の診断基準では、たとえストレスによる適応障害という形の発症であっても、一定の症状がそろえばうつ病と診断することになっています。その立場を取れば、うつ病と適応障害を区別する必要は必ずしもないということになります。というより、それが公式の診断方法ということに現代ではなっており、それがうつ病という診断の急増の背景にあります。(うつ病と適応障害をめぐる問題については、うつ病の聖杯もご参照ください)
この事態は不自然かつ不健全であって、ストレスによる反応として現れたもの(適応障害)を、もしうつ病と呼ぶのであれば、それは擬態うつ病と呼ぶべきであるというのが、本サイト開設以来20年以上にわたる私の一貫した考えです。(「擬態」うつ病 というのは、仮病であるとか、悪いというような意味では全くありません。本来のうつ病とは劃然と区別するべきだという意味であって、それ以上でもそれ以下でもありません)
その観点からすれば、
休職と服薬の3日目から不眠が解消され、余りの回復の速さにうつ病ではなく、適応障害ではないのか疑問に思ってます。
質問者のこの疑問はごく自然です。そして、治療法の選択や今後の経過の予測という意味では、うつ病か適応障害かという区別は重要な意味を持っています。
けれども、ここでこの回答の冒頭に戻るのですが、この【3845】のケースのように初発の場合、うつ病か適応障害かの鑑別は容易ではありません。どちらも考えられるというのが現実的で適切な姿勢でしょう。うつ病でも休息と服薬で速やかに回復することはありますので、この経過はうつ病を否定するものではありません。
もし適応障害ならば、復職後、また症状がぶり返すかもしれず不安です
この不安はある意味もっともであり、ある意味不合理です。
もし適応障害ならば、再発しないためには環境の調整が重要で、今回の発症の原因が職場にあるのであれば、職場環境が同一である限りは、再発のおそれは強いという意味で、もっともな不安です。
他方、もしうつ病であった場合、それなら再発のおそれはないかというとそんなことはありませんので、その意味でこの不安は不合理です。
私はうつ病なのでしょうか、適応障害なのでしょうか？
それは重要な問いではありますが、休職からの職場復帰直後は、どちらにしても再発の危険性は高い時期ですので、まずは復職の過程をスムースにクリアすることに努め、その後については主治医と慎重に相談することが望まれます。
(2019.7.5.)
