【3170】大学生をしているから ADHDではないと言えるのでしょうか

Q: 22歳、留年が決まっている大学4年生男です。5カ月前にADHDの診断を受け、病院に通っています。またコンサータの処方を受けています。
大学2年生の時に、(それが全てとはいいきれませんが)ADHDが原因で課題のレポートが書き切れず留年が確定してしまいました。
その後、
「気が参ってるんだろう、一年くらい休んでしまえ」
と思い、休学をし、両親からの要望で実家の会社で一年間経理の仕事をしていました。
経理の仕事では、気が向いた日時に働くと言った家業でしか許されないスタイルで働いていましたが特に大きな問題はなく、必要な仕事はこなしていました。ミス等はありましたが、大きなものはなく「誰でもやる、後からなんとでもなる」程度で大した問題にはなりませんでした。
一年休学した後は大学に復帰しましたが、やはりレポート課題がネックになっていました。提出自体は出来ていたのですが、週一度のレポート課題を一週間の間、完成出来ないことに苦悩し、前日の夜中、当日の朝に何とか仕上げるというのを繰り返していました。このままでは心身持たぬと思い病院に行きADHDの診断を受け今に至ります。今は当時ほどレポートに苦悩せず過ごせています。
また大学入学後から、コンビニでアルバイトをしており、これも経理同様、特に今まで問題なく働いています。
実は今まで両親にADHDの診断を受けていることを伝えていなかったのですが、診断を受け薬を飲んでいることを昨日伝えました。しかし両親からの反応は現状の私としては良いとは言えないものでした。
両親の反応は
「ソレ(ADHD的な特徴)はあなたの個性であって薬を使って捻じ曲げるものではない。人にはどうしても無理なことや向き不向きがあってそれを医者や薬の力で出来るようにするのはおかしい。気狂いの域だ。特に、あなたは学生が務まらなくても、今まで大した問題もなく働くことはできたのだから、なおさらおかしい。障害とは呼べない。」
といった具合でした。
両親の言うように今まで、仕事に関しては特に問題なく、学生に関しては問題があるといった状態でして、言い換えると大学生をしてなければADHDじゃないという状態です。(無論、仕事をしててもADHDの特徴は消えたりしませんが)
この状態っておかしいのでしょうか?
結局のところ各々の考え方の問題であり、私や両親がどうするかという点からは少し離れているのはわかるのですが私の考え方がぐらついてしまっています。
何かお言葉を頂けると幸いです。

 

林:
 両親の反応は
「ソレ(ADHD的な特徴)はあなたの個性であって薬を使って捻じ曲げるものではない。人にはどうしても無理なことや向き不向きがあってそれを医者や薬の力で出来るようにするのはおかしい。気狂いの域だ。特に、あなたは学生が務まらなくても、今まで大した問題もなく働くことはできたのだから、なおさらおかしい。障害とは呼べない。」
といった具合でした。

これは障害個性論に通じる考え方です。私のサイト内等でも何回か言及しています。たとえばダンス・ダンス・ダンス
の、特に  をご参照ください。

この【3170】のケースについては、ADHDと言えるかどうかは難しいところです。薬を飲むべきかどうかについても同様です。どちらかと言えば飲まない選択をしたいケースのように見えますが、何とも言えません。

仕事に関しては特に問題なく、学生に関しては問題があるといった状態でして、言い換えると大学生をしてなければADHDじゃないという状態です。

ADHDに限らず、発達障害(自閉スペクトラム症)では、このように、環境によって問題があったりなかったりということはしばしばあります。よくあるパターンは、学生時代はあまり問題がなく、社会に出ると問題が顕在化するというケースです。この【3170】の「仕事に関しては特に問題なく、学生に関しては問題がある」は、それとは逆のようですが、この【3170】での「仕事」とは学生アルバイトのレベルですので、むしろ大学生としての勉学よりはやさしいという面もあると考えられ、したがって必ずしも通常のパターンと逆とは言えません。つまり、大学を卒業し社会に出たとき、より大きな問題として顕在化することも考えられます。すると、単なる個性として片付けるのは不適切ということになります。
とは言っても、【3170】は「顕在化することも考えられます」というレベルであり、逆に顕在化しないことも考えられます。そうなるとご両親のおっしゃる、
あなたの個性であって薬を使って捻じ曲げるものではない。人にはどうしても無理なことや向き不向きがあってそれを医者や薬の力で出来るようにするのはおかしい。
も一理あるということになります。
但し、ご両親がさらにおっしゃる、
あなたは学生が務まらなくても、今まで大した問題もなく働くことはできたのだから、なおさらおかしい。障害とは呼べない
は、正しくありません。これまで問題がなかったからといって、これからも問題なくやっていけるとは限りません。先に述べたとおり、学生時代は大きな問題がなくても、社会に出てから大きな問題が出ることはしばしばあります。そうなった場合には、もっと前から何らかの方策を講じておくべきだったということになります。

結局のところ各々の考え方の問題であり、

ある意味ではそのとおりです。この【3170】のケースは、どちらの考え方が正しいか難しいところです。(「どちら」とは、障害とみなして何らかの治療をするか、個性とみなして自己努力のみで対処するか、を指します)。コンサータを処方していただいた先生に、あらためてご相談することをお勧めします。

(2016.3.5.)

05. 3月 2016 by Hayashi
カテゴリー: サイコバブル社会, 発達障害, 精神科Q&A