【3093】妄想はおさまったようだが、病識がない(【3051】のその後)
Q: 【3051】10年前に双極性障害と診断された夫が、妄想を言うようになったで相談した40代女性です。
(当時は、『勤務先に監視されている』がベースになっていて盗聴器が仕掛けられていると思って探し出そうとしたり、 友人知人家族まで疑ってみたり、 引越しを真面目に考えたり、 会社を訴えてやると言ったり・・・口を開けばそのような話ばかりしていました。)
その後、ロナセンを飲みだして2か月ほどたち、 上記のような話題は出なくなりました。
また、双極性障害のほうも現在は落ち着いています。
ただ、一つだけ気になることがあります。
妄想を言っていた時のこと(妄想だったと自覚できているのか)や、 今現在被害にあっている感じがするのかどうかを尋ねると、 妄想だったという自覚はないようですし、 今も何か偶然の出来事があるとそれは誰かが仕組んだことだと感じる、という返事が返ってくるのです。
ただそう感じるだけであって、 以前のようにわざわざ口に出して私に訴えたりしないし行動(盗聴器を探したり家の広告を見たりする)を起こさないので、感じ方が以前より弱いのだとは思いますが、まだ被害妄想があるのは確かなようです。
統合失調症や双極性障害の症状の妄想がおさまるということは、どのような状態なのでしょうか。
たとえば双極性障害の人が落ち着いているとき、 躁状態の時に自分が取った言動を忘れてしまうとか、 覚えていたとしても「あれは躁状態だったんだ」という自覚があるのが、 寛解状態だと言えると思うのですが。
妄想も、忘れてしまったり「妄想」だと自覚が出てやっと落ち着いていると言えるのなら、 私の夫は、まだ落ち着いているとは言えない状態なのでしょうか。
林:
妄想を言っていた時のこと(妄想だったと自覚できているのか)や、 今現在被害にあっている感じがするのかどうかを尋ねると、 妄想だったという自覚はないようですし、
ここまでですと、「現在、妄想の症状は消えている。しかし、過去の妄想についての病識は欠如している」という状態であると表現できます。この状態は、精神病症状(幻覚や妄想)が消褪したときの、典型的なパターンの一つです。この状態からさらに改善し、過去の症状についての病識が生まれる場合が多いですが、この状態にとどまる場合もあります。
この【3092】のケースでは、過去の妄想についての病識が欠如しているだけではなく、
今も何か偶然の出来事があるとそれは誰かが仕組んだことだと感じる、という返事が返ってくるのです。
ということですので、「過去の妄想についての病識は欠如している」ことに加えて、「現在も軽い妄想がある」状態であると言えます。したがって、まだまだ予断を許しません。表面的には安定していても、症状が再び悪化する可能性は十分にあるとみるべきです。したがって、薬を減らすことはできません。今後の経過によってはむしろ増やすことも考慮すべきでしょう。
たとえば双極性障害の人が落ち着いているとき、 躁状態の時に自分が取った言動を忘れてしまうとか、 覚えていたとしても「あれは躁状態だったんだ」という自覚があるのが、 寛解状態だと言えると思うのですが。
それは寛解状態の定義とはやや異なります。少なくとも、 躁状態の時に自分が取った言動を忘れてしまう のは、あまり良いこととは言えません。将来の治療へのモチベーションが失われるからです。 それに対して 「あれは躁状態だったんだ」という自覚がある のが理想的な寛解状態です。但し、過去の症状についての病識はなくても、きちんと治療を受け続けて安定が続くケースは膨大に存在しますので、必ずしも過去の症状についての病識が必要とまでは言えません。(そのようなケースでは、口では自分は病的ではなかったとおっしゃっていても、本心は違うということも考えられるところです)
但しこの【3092】のケースは、現在も軽いとはいえ妄想が存在しますので、寛解とは言えません。今後もかなり慎重な治療が必要です。
(2015.11.5.)